交差点
イベントなんてその日を終わってしまえば、特に考えることなく去っていく日常の一日でしかないと思っていたんだけど、[バレンタインデーにチョコを貰う]なんてモノを体験してしまうと、そんなにのんびりと構えているわけにもいかない事に気付く。
そう…ホワイトデーなるものが迫ってくるのだ。
これが難しい。
誕生日プレゼント、クリスマスのプレゼントなどとは明らかに種類が違うのだ。
もらったモノに対するお返しである。
しかもバレンタインデーにっもらったモノは義理でもなんでもなく本命モノである。これに対するお返しとは何ぞや?
本命に対して本命に返す。
またしても俺の頭にいろいろな考えがグルグルと回り始めるのであった。
七海は何でもいいよって言ってくれてたけど…。
クリスマスに上げたモノは大事に毎日つけていてくれてるみたいだし、その時に予定以上に使わなかったお金はまだ残っている。
「 なぁ七海、本当に何か欲しいモノってないのか? 」
「 え!? どうしたの? 」
「 いや、ホワイトデーにさ… 」
「 欲しいモノはあるよ… 」
そういった彼女の顔は悲し気に下を向く。
「 それなら言ってくれよ。お金ならそんなに心配しなくてもいいんだぞ? 」
「 違うよ…お金の問題じゃなくて……ううん、お金じゃ買えないものだから 」
「 ……愛とか? 」
「 ぷっ!! あはははははははは… 」
まだまだ冷たい空気が吹き荒む2月の青空の下で、七海はお腹を抱えるように空に向かって本当におかしそう大きな声で笑う。
周りの人たちもビックリしたのと、大きな声で目立っている好奇心との視線をこちらに一斉に向けるのが分かった。
七海はまだその視線に気付いていない…というかまだ笑ってるし。
俺はその場にいるのがかなり恥ずかしくなった。
そのまま会話もなく手を握り合いながら歩いていた道で七海が突然立ち止まる。
「 ?? どうした七海?? 」
「 …… 」
立ち止まった場所ソレは俺にしてみたらあまりいい場所ではないけど、見覚えのある場所…。
「 ううん…何でもない。 いこ!! 」
「 ?? ああ、行こうか 」
結局のところ七海に何を渡していいのかわからないままその日を迎える事になった…。
学校にいても落ち付かないだけど、半日だから何とかやり過ごそうと思う。
しかもこの日は何と登校している生徒は俺を含めて十数人しかいないだ。
なぜか…学校の合格発表だからなのだけど、クラス単位で選ばれた環境委員というヤツでその手伝いをさせられている。午前と午後に分かれて十数人ずつで、その午前の部に回されたわけ。
何が悲しくて良い思い出のない子の場にいなくちゃいけないのかと、一人心の中でつぶやいていたけど、いざ発表が始まって感じる事…。
受かった感動で泣いちゃう女の子や、友達同士で喜び合う男の子。落ちてしまったのか悔しがる男の子や女の子同士で励まし合う女の子。
目の前で見るこの光景には、一人一人の想いが詰まった空気があふれていて、見ているだけでも泣けて来たり、一緒に喜んでしまう。
そして…この子たちが自分の後輩に…自分たちの後輩としてもう間もなくこの学校に入って来るんだなぁって感情が湧きあがってきて、何となく複雑な気持ちになる。
もう一つ別の感情も同時に沸き上がって来ていた。
[ 俺はこの光景を、この時の感動や悲しみを感じることができなかったんだなぁ]
そんな想い。
時間が来て自分の持ち場を離れる時もまだ目も前には発表を見に来た生徒たちが途切れることは無かった。
バッグを肩にかけて校門に向けて歩き出した。
七海とそこで待ち合わせしていたから。
「 勇樹!! あれ? 何かいいことあったの? 」
「 え!? 」
俺を見かけた七海が、待ち合わせ場所から歩いて来て俺の顔を見るなりそんな事を言う。
「 なんか勇樹が笑顔だからさぁ 」
「 え? 俺…笑ってるのか? 」
「 気付いてないの? 」
「 あぁ…うん。気付かなかったよ。そうか…笑ってたのかぁ 」
なっ笑ってたのか少しわかる感じがする。
たぶん去年の事、自分がここに来る時の事と今見てきた時の事がダブって見えたから…俺もこんなかんじだったのかぁって微笑ましかったから。自然と笑顔になったんだろうな。
そんな話をしながらまたあの場所の近くに来た。
そしてまた七海が立ち止まる。
下を向いたまま何かを考えてるような表情で。
「 どうかしたのか? 」
「 今日は何の日か知ってる? 」
「 あぁもちろん!! ホワイトデーだろ? だからこうして一緒にどこかに… 」
「 違うよ…。あ、ううん、それは合ってるんだけど、違うんだよ 」
七海が少し涙をためた、濡れた瞳で俺を見つめてきた。
「 今日は勇樹とちゃんと会った日 」
「 え!? マジで!? でもどこで!? 」
「 去年のこの日…この場所で…だよ 」
確かそこは…七海が言うこの場所とは…去年俺が事故にあった場所のはずで……。
「 あの時の事…覚えてないの? 」
「 あの時って…事故の事か? 」
「 うん… 」
その時に何があったのか…。
俺は事故の前後の記憶がほとんど残っていない。何故事故にあったのかすら覚えていないのだ。
唯一覚えているのは…。
あの時の声…。
俺の近くで泣いているのか、叫んでいるのか…はっきりしないけど声がしていたのは覚えている。
まさか…。
まさかそんな…。
「 まさか…あの時の声……七海……なのか? 」
道路を行きかう車の音に打ち消されそうなほど小さな声だったけど、七海のその声は俺の耳にしっかりと届いていた。
「 ゴメンね…勇樹… 」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます