甘い考え

 高校に入って彼女も出来て迎える初めての正月は散々だった。年末から高熱が出始め、親が心配して病院に担ぎ込まれた結果はインフルエンザで、それから数日間ね込むことになった。

 本当なら七海と初詣に行ってるはずだったのに…。


 でもまぁ毎日心配して連絡をくれる七海の優しさが嬉しかったんだけど。


 治ったのはそれから五日も要してしまったけど、七海と一緒にようやく初詣に出かけることができた。

 七海は友達グループや家族と一緒にしてしまっていたので正確には初ではないのだけど、「勇樹とは初めてなんだから初詣でいいんだよ」なんて言っていつもの笑顔を見せてくれた。


 それから何をお願いしたかって?

 もちろんこのまま七海といれます様にって神様にお願いをした。

 隣にいる七海には言う事は出来ないけど。

 七海は俺よりももっと真剣に願い事をしていた。


 おみくじを引いて中身を確認しあい、二人とも笑いながら境内の中に樹にそれを結び付けた。


「 ねぇ勇樹はなにをお願いしたの? 」

「 そんなの決まってるだろ!? このまま二人で一緒にいれます様にってだよ!! 」

「 …そうか、そうだよね!? 」

「 ? 七海は違うのか? 願い事 」

「 え!? ううん、勇樹と一緒だよ 」


 慌てて否定する七海。でも三度目にするお願いなんだから違っていても仕方ない。気にすることではないと思う。


 それに違ってもが今の俺は変に感じたりしないだけの余裕があった。

 今日の初詣に七海が着てきた服装は、コートから足元までが白で統一されたカジュアルな恰好で、胸元からきらりと光るものが見えていた。俺が七海にクリスマスで渡した三日月型のペンダントをしてきてくれたみたいだ。それだけでも俺は凄く嬉しかった。


 初詣を終えた俺達は軽くご飯を食べて七海を家まで送り届けて、今日のイベントは早めに終了するることにした。

 それは…インフルエンザにかかった俺が、まったく宿題をしている暇がなく数日後に迫った始業式までに間に合うかどうかギリギリのところだったから。

 その後はもう毎日が勉強にいそしんだ。七海が家まで来てくれて教えてもらったりしてる間に、ウチの母親と仲良くなっていったみたいで、次の日から学校だって言う時にはもう俺が呼ぶ前から七海は居間に座って二人で楽しくおしゃべりに夢中になってさえいた。

 親と仲良くなってくれるのはありがたいけど、気恥ずかしくてその空気感に入って行けない悲しさも湧いて出てきたりもした。


 学校が再開されると時間はあっという間に過ぎていく。テスト勉強もしたりしなくちゃいけないし、早い人ならもう大学受験のために補講に通う人までいる。

 俺はそれほど進学に今のところ興味はないから気にもしたことないけど、一つだけ気になる話をとある場所で聞くことになった。


「 〇〇先生どう思います? 遠野が大学進学はいないかもしれないと言ってるんです 」

「 う~ん。学年でも上位の遠野がですか…理由はお聞きになられたのですか? 」

「 ええ。ですが明確な理由などは答えてくれませんでしたが、ただ…今は考えられないの一点張りで… 」


それは過大の提出が遅れて呼び出された職員室での会話の事。


七海はいつも成績はトップグループに入っていて、よほどのことが無ければそこから落ちることは無いと思う。


だから俺は思っていた。

もしかしたら七海は俺に合わせてそう言っているんじゃないかと。

七海には話したことがある。俺には今は目指す大学も目指す未来も見えていないのだと。


それは俺が…俺だけが思っていた甘い考えで…。


七海の本心を知るのはずっと先の事。

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