七海の涙
今までは全く関係ない通り過ぎていくだけのイベント。
クリスマスが近づいてくる。
俺は何をしたらいいのかわからず、周りのクラスメイトに聞いたりして情報収集をしながら七海に知られないようにバイトなんて始めていた。
短期だから実入りは少ないけど、出来る限りのプレゼントだけは用意しておいた方がいいというアドバイスを受けて始めたんだけど…。
今度は何を用意をしていいのかわからないという悪循環に陥っていた。
「 なぁ七海 」
「 なぁに? 」
今日は昨日から降り続く雨が雪になるかもしれないから自転車では来ていない。授業が終わった放課後、一緒に歩いて帰るため並んで歩く七海に声を掛けた。
振り向いた七海は優しく微笑んでいる。
可愛いな
その瞬間に思ってしまった。
そうなるともうパニックで…。
たぶん顔も赤くなっているだろう。七海に悟られるわけにはいかない。慌てて顔を七海から見えないように振り返る。
「 ん? なによぉ!? 」
「 あ、いや、その 」
「 ん~? 」
「 何か、ほ、欲しいモノとかあるか? 」
いくらパニックになってたからってこれは無いと自分でも思った。案の定の反応が返ってくる。
「 あ、あはははははは!! 」
「 な、なんだよ!? 笑いすぎだぞ!? 」
「 だ、だってさ、そ、それもしかしてクリスマスのプレゼントの事? 」
「 あ!! う、うんまぁ、そんな感じだ 」
プイっと体の向きを変える。
顔を見せないようにしたつもりだったんだけど、どうやらその行動も七海のツボに入ったらしく、彼女はまだ笑い続けていた。
「 ご、ごめん!! くく…でもね、勇樹いくら何でも正直すぎるでしょ!! ふふふ… 」
「 あ~もう!! で!! 欲しいモノはあるのか!? ないのか!? 」
「 う~~~ん 」
見抜かれた心が恥ずかしくてそのまま勢いで七海の前に立ち、女の子特有の線の細い肩に手を置いて尋ねる。
七海は動揺するわけでもなく恥ずかしがるわけでもなく本当に真面目な顔をして考え込んでいる。
俺としても思い切った行動だ。女の子の肩に手を置くなんて…考えたら恥ずかしくなってきた。
それからだんだんと曇ってきた七海の表情に気付く。
「 手に入るモノじゃないから…無い…かな 」
「 いや!! 大丈夫!! 俺こう見えてバイトしてるから金は…あ!! 」
言ってから気付く。俺はバイトの事を七海には話していない。そうでなくても最近の平日は早めに帰っちゃうって言われてたのに。
俺の心の中に凄く怒ってる七海が簡単に想像できた。
けど帰って来た言葉は…。
「 そか…それで…ありがとう。でも本当にいいの…。勇樹が渡してくれるものなら何でもいいんだ 」
「 え…でもさ何かあるだろ? 」
「 じゃぁ…一緒にいてよ。それがプレゼント。ね? 」
「 あ、あぁ。わかった。七海がそれでいいなら… 」
なぜか七海の目には涙が溜まっていた。
その時どんな気持ちだったのかなんて、浮かれていただけの俺には分からなかった。
それから数日後に迎えたクリスマス。
ささやかながらプレゼントを持って待ち合わせ場所に向かう。
ちょっと財布の中身に余裕がある俺はいつも行く安い店ではなく、おしゃれで俺だけでは絶対に行かないようなところで食事でもしようかと少し気合を入れていたけど、七海に即却下されいつも行っているファミレスで食べることになった。
食事中の七海は少しいつもよりもはしゃいでるように見えた。
本当に嬉しそうに笑う。
そんな七海を見てるだけで俺も凄く嬉しくて楽しかった。
いつも行かないようなところに行った。
街の中にあるデコレーションされたもみの樹を見に行ったり、イルミネーションの綺麗な街の中を散歩したり。
静かな二人だけの世界を求めて浜辺にも行った。
冷たい風をよけるように抱き合う二人は自然と唇を重ねた。
いつもより長い時間を過ごした。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
歩きながら吐き出す息も白くなって手が凍える帰り道は、お互いに自然と手を繋ぎながらゆっくりと歩いた。
楽しい日にも終わりは来るもの。
七海の家の前に着いてしまった。
「 あの、これ… 」
「 え? 」
ずっと上着のポケットにしまっていたラッピングされた箱を取り出して七海の前へ。
「 え!? え!? だって… 」
「 クリスマスにプレゼントが無いなんてサンタに怒られるだろ? 」
恥ずかしいセリフを言ってしまったと自覚してる俺は七海を正面から見る事が出来なかった。
ばふっ!!
「 うわぁ!!」
突然、七海が胸の中に飛び込んできて顔をうずめている。
「 ありがとう…だからこれが私に出来るプレゼント… 」
その小さな体をギュッと抱きしめた。
しばらくそのままで…。
七海が離れてしまう瞬間のあの笑顔と、大きな瞳からホホを伝い零れ落ちていた涙を俺はずっと忘れないだろう。
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