第3話 スライムの森

 シルト、ロゼ、リヒトの三人は冒険者ギルドに正式加入するための試験として、スライム五体の討伐が課されることとなった。

 試験を受けるにあたり、受付のお姉さんからスライムが多く生息するというスライムの森の情報を教えてもらった三人は、さっそくその場所に向かうことにしたようだ。

 冒険者ギルドを出る際に、受付のお姉さんがアンファング周辺の地図をプレゼントしてくれた。

 その地図にはスライムの森の位置なども載っている。

 お姉さん曰く、


「こんなに親切なのは最初だけだからね! 試験頑張ってね!」


 とのことだった。


 スライムの森に主に生息する魔物は、森の名前通りスライムらしい。

 なんとも安易なネーミングだが、それくらい分かりやすい方が良いのだろう。

 しかしスライムの森とはいえ、魔物というのは特異な生体を持っているため、まだまだ情報が解明されておらず、例えばオークのような強い個体が目撃されることも稀にあるという。

 このことから言えるのは、冒険者とは常に命の危険と隣り合わせということだ。

 初心者向けの場所だからといって侮っていれば痛い目を見ることになるのである。


 シルト、ロゼ、リヒトはスライムの森の目の前に立って話しをしている。


「やっと森に着いた~。以外と遠かったな」

「本当だよね。流石にちょっと疲れたよ」

「ロゼは大丈夫か?」

「ええ大丈夫よ。少し疲れてるけどね」


 お互いの体調を確認し合っているようだ。

 冒険者ならばパーティーメンバーの体調管理は大事になってくる。

 一人の体調不良がパーティー全滅を招くかもしれないからだ。

 ただ、シルトたちはそれが自然とできているのでパーティーとしてとても良いことだろう。


 アンファングの街からスライムの森までは約半日といった距離にある。

 シルトたちが冒険者ギルドを出たのが昼過ぎだったため、すでに辺りは夕暮れに包まれており、そろそろ夜がやって来るころだ。


「夜に森をうろつくのは危険だよな」

「そうね。一旦ここで野営してスライムを倒すのは明日にしましょう」

「そのほうが確実だしそうしよう!」


 今夜は野営して明日の朝から行動を開始することで決定したようだ。

 妥当な判断だろう。


 三人が野営の準備を始めたところで、付近の草陰からガサガサと何かが動く音がした。


「何かいるぞ」


 三人は辺りに意識を集中させて警戒を強める。

 魔物だろうか。

 相変わらずガサガサと葉擦れの音が聞こえている。

 そして、


『ピキィ』


 と鳴き声を上げて森の入り口方向から一匹のスライムが飛び出してきた。

 プルプルとしたオーソドックスなタイプのスライムだ。


 スライムの姿を確認したシルトは、


「向こうからやってきたか! これは放っとくわけにもいかんよな!」


 そう言うや否や槍を手に掴み、スライムに向かって駆け出したのだ。

 槍を持った人間が近づいてくることに身の危険を感じたのか、スライムは森の奥へと飛び跳ねていく。

 スライムの逃げ足は意外に早く、すでに遠くの方にいる。


「待てー! 逃げんなー!」


 とシルトは叫びながら、そのスライムを追って森に入っていってしまったのだ。

 夜の森は危ないと先ほど話していたにも関わらずである。


「シルト兄! 一人で行ったら危ないよ!」

「さっき夜の森は危ないって話したばっかりでしょ! 怪我したらどうするのよ!」


 二人の呼びかけはシルトには届かなかったようだ。


「もう! 行くわよ、リヒト!」

「うん!」


 そんなシルトを放っておくわけにもいかず、ロゼとリヒトもシルトのことを追って森に入ることを決断したようである。


 三人が森に入ってからしばらくの時間が経過し、辺りはすっかり暗闇に包まれたいた。

 ただでさえ光が入りにくい森の中では夜になると真っ暗闇に近いものがある。

 視界はかなり悪く、ロゼとリヒトは完全にシルトを見失ってしまっていた。

 大声を出したり過度に灯りを照らしたりすると魔物や原生生物を呼び寄せてしまう可能性があり、さらに危険が増してしまう。

 そのためシルトの捜索は困難を極めているのだ。

 ただでさえ土地勘のない場所なので、このままだと無事に森から出られるのかさえも怪しい。

 三人揃って遭難という可能性も出てきた。


「シルト兄、どこ~」

「返事しなさいよ~」


 二人は小声で呼んでみるものの、シルトからの返答はもちろん無い。


「私たちはもともと二人旅だった。そういうことにして森を出る? ねえ、リヒト?」


 慣れない森、それも夜中に歩き回ったことと、なかなか見つからないシルトに不安とイライラが募ったのか、ロゼはとんでもないことを口走り始める。


「ダメだよロゼ姉! (うわ~、そうとう怒ってるなロゼ姉。ごめんねシルト兄、今回は守ってあげられないかも……)」


 リヒトはロゼのイライラした様子を見て、無事に見つかったとしてもボコボコにされるであろうシルトの姿を思い描いている。


 その時、


「助けてくれー!」


 と森の奥の方から聞こえてくる情けない声が二人の耳に届いた。

 シルトの声である。


「今のシルト兄の声だ! あっちの方。行こうロゼ姉!」

「ええ!」


 悲鳴が聞こえた方に向かってロゼとリヒトの二人は躊躇することなく駆け出した。

 再会できることに胸を撫でおろしながら。


 何本もの草木を掻き分けて進んで行ったロゼとリヒトは、遠くの方からこちらに向かって走ってくるシルトを確認した。

 かなり慌てている様子だ。


「やって見つけたわよ!」

「大丈夫!? シルト兄!」

「リヒト、ロゼ、助けてくれ! スライムに追われてるんだよ!」


 二人は、かなり焦った表情で猛ダッシュしているシルトと合流することに成功した。

 ただ、どうやらシルトはスライムに追われているらしい。


「スライムくらいならあんた一人でも倒せるでしょ!」


 ロゼは思った通りのことを口にする。 

 ロゼの言うように、シルトの実力はおそらくそこらへんの冒険者に引けをとることはないはずだ。

 いくら目が利かない夜の森だからといってスライム相手に手こずるとは考え難いことだった。


「違うんだって! スライムはスライムでも……」


 バキバキバキと大きな音が森に響き渡る。

 三人のかなり近くからだ。

 そして、大きな影が三人の目の前に姿を現した。


「うそでしょ……」


 木々をなぎ倒して登場したのは巨大なスライムだったのだ。

 ロゼとリヒトの顔はみるみる青ざめていき、


「「グランスライムー!!??」」


 絶叫して、走り出した。

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