第4話 逃走
冒険者ギルド正式加入のためにスライムの討伐を目的にスライムの森を訪れていた三人。
しかし、夜の森の中ではぐれてしまうというハプニングに見舞われた。
なんとか無事再会することに成功するものの、再会を喜ぶのも束の間で、この森には場違いであろう強敵グランスライムに遭遇してしまった。
グランスライムとは通常のスライムの集合体だと考えられている魔物なのだが、実際にはどのような原理で生まれているか全く解明していない。
普通のスライム一匹一匹は非力かもしれないが、グランスライムを構成するために集まっているスライムの数は数十匹~数百匹とも言われており、並大抵の冒険者ではとても太刀打ちできる強さではないのだ。
もちろんシルトたちはグランスライムと対峙するのは初めてのことである。
三人はグランスライムと自分たちの実力の差が歴然であることを悟り、逃走することを選択した。
実力を推し量ることはできるようだ。
そのため現在は森の中を全力疾走している。
「あんた何てもの連れてきてるのよ!!」
「知らねえよ! わざとじゃないし!」
「だいたいあんたが勝手に森に入るから……」
「二人とも言い合いしてる場合じゃないよ!」
並走しながら口論するシルトとロゼ。
それに的確なツッコミを入れるリヒトという構図はいつも通りだ。
こんな状況でもいつもと変わらないというのは果たして良いことなのかは分からないが。
三人はグランスライムから逃走するために森の中を彷徨っている。
右へ曲がったり、左へ曲がったり、取り敢えず適当に走っているのだが特に目的地があるわけでもない。
そのため、もはや自分たちが森のどの辺にいるのかすら分からない状況になってしまった。
強敵に追われ、遭難しているという状態だ。
「シルト! あんたが連れてきたんだから何とかしなさいよ!」
「何とかしたいんだけどあいつの身体がでかすぎて攻撃が通らないんだよ!」
「それでも何とかしなさい!」
「無茶言うな! ロゼがやればいいだろ!」
「はぁ!?」
「ちょっと、二人とも!」
もはや責任の押し付け合いになっている。
今回の場合はシルトの責任なのだろうけど。
シルトがグランスライムに攻撃が通らないと言っていたが、魔物との戦い方で最も有効な攻撃方法は体内にある核を攻撃することである。
核とは魔物を構築する上で欠かせないパーツであるとの研究結果が出されている。
核は魔力の塊のようなものであり、核を少し調べれば魔物の個体が特定できるほどに種類ごとに違う形状をしているのだ。
冒険者にとって核という器官は、魔物討伐依頼達成の報告の際に、受付に提出することがほとんどである。
魔物を倒した証拠とするのだ。
それに、魔力を含む核は値が付く。
そのため傷つけ過ぎると依頼の報酬が大幅に減額されることもある。
なので、なるべく傷つけないことが好ましいのだ。
しかし、今回のスライムのようにプルプルした魔物の場合、物理攻撃を行ってもあまり効果がなく、核への直接攻撃以外あまり有効打にならないのだ。
ましてやグランスライムほどの巨体ともなれば並大抵の攻撃では全く意に介さないし、だからといって核を攻撃しようとしても体の中心にある核まで届かないのだ。
「ロゼの魔法でなんとかしてくれよ!」
「無茶言わないでよ! 走りながらあんな大きな魔物を倒せるほどの魔法を詠唱できないわよ! それに私は炎の魔法が得意なの、こんなところで炎魔法使ったら森が大炎上するじゃない! 冒険者になるどころかお尋ね者よ! せめて森を抜けて平原に出れれば話しは変わってくるけど……」
魔法というのは魔物に対して有効な手段だ。
特にスライム相手なら炎魔法を使うことで表面を蒸発させ、核を傷つけずに倒すといった芸当も可能だろう。
それはかなりの上級テクニックではあるのだが。
しかし、三人は絶賛遭難中の身。
どこが森の出口かも分からないため、森から出られるかどうかはもはや神頼みといったところだ。
かと言ってここで炎魔法を発動すれば、ロゼの言う通り大事件間違いなし、明日の朝刊の一面も夢ではない。
魔物が出たからと言って森を焼いてもいいわけではないのだ。
自然を大切にしようというのは、いつの時代のどんな世界でも同じなのである。
「くっそ~最悪の状況じゃねーか! どうしてこんなことに……」
「あんたのせいでしょ!!!」
「シルト兄のせいでしょ!!!」
シルトたちがグランスライムに追いかけられてから、そこそこの時間が経ち三人に疲労の色が見え始めた。
特に顕著に表れているのはロゼであり、体力の限界を迎えているようだ。
「シルト……リヒト……今までありがとう。これからは二人で生きていくのよ……」
「諦めんなー!!」
「頑張って、ロゼ姉!!」
ロゼを懸命に励まし続けるシルトとリヒト。
その後もロゼに肩を貸したりしながら諦めずに逃げ続けるが、三人とグランスライムの距離はジリジリと近づいてきていた。
グランスライムの移動速度は結構早いのである。
このままではスライム状の体に三人仲良く取り込まれてジワジワ溶かされてしまうだろう。
「このままやられてたまるかー!」
シルトは身を翻し、起死回生の一撃を狙い槍を突き出したが、ポヨンと弾かれてしまう。
槍をも弾く弾力はさすがグランスライムと言ったところだ。
「ムリだよシルト兄! 僕たちの武器と実力じゃグランスライムには歯が立たないよ!」
「そうみたいだな! 今、改めて実感したところだ! 金さえあればこんなことには!」
リヒトは現状を見て冷静な考察をしている。
グランスライムはこの三人では到底勝てない相手だ。
そもそも、冒険者にもなっていない人間が戦う相手ではない。
それに、シルト、ロゼ、リヒトの持つ武器は粗悪品といっても過言ではないものだ。
彼らが今まで数年間に渡り修行で使っていた武器をそのままこの旅に持ってきたため、剣や槍の刃が欠けていたり、魔法の杖はボロボロの棒切れみたいになっていたりする。
冒険者にとって武器はかなり重要なものだ。
剣などは切れ味が変わるのはもちろんだが、魔力の増幅量も変わったり、武器そのものに初めから属性が付いていたりする。
これは戦う上でとても有利に働く。
魔物によっては特定の属性を弱点とするものもいるためである。
ただ、良い武器は値段も高いというのは世の常、世界の摂理なのだ。
現在三人は資金難のため武器を買うお金がなく買い換えたくても買い換えられない。
そのためスライムの森に向かう前、アンファングの街では最低限の食料やアイテムしか買っていないのである。
自分たちのお金の無さについて嘆いていると、いつの間にかグランスライムはすぐ背後まで迫っていた。
「もうムリだ~! 追いつかれる~!」
「イヤだよ~!」
「キャー!」
三人がグランスライムに追いつかれそうになったその瞬間。
スポッ
三人は穴に落ちた。
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