第13話

 村に帰った後で、俺はライからこってりと怒られた。

 もっとも、それは俺が思っていたのとは少し方向性の違う怒られ方だったが。


「どうしてひとこと相談してくれないんだ!」


「へ、何がっすか?」


「食事のことだよ。隠れて食べなくても、ひとこと相談してくれればいい」


「だって、炭水化物は食べちゃダメなんすよね?」


「君は勘違いをしているぞ! 私は『食べてはいけない』とは、一言も言っていないぞ!」


「えええっ、よくわかんないっす」


 ライは筋肉をムキムキさせながら説明してくれた。


「炭水化物は、燃料に例えるならば燃えにくい薪だ。完全に燃やし尽くすには火力……つまり運動量をあげなくてはならない。それ故にダイエットでは運動量の調整のために忌避されるものではある。しかし、だ、逆にいえば、運動量をコントロールするならば、絶対に食べてはいけないというわけではないのだ!」


「ええっ、ほんとうっすか?」


「ああ、本当だとも。だから、どうしても炭水化物系の食事が食べたいときは遠慮なく相談したまえと、村の全員に言ったはずだが?」


「えへへ、聞いてなかったっす」


「まったく、君は……」


 ライは腕を組み、しばらく何かを考えていた。


「なるほど、どうやら君は、ご飯を食べないと食事をした気がしない人だね」


「そっすね。大豆ばっかりじゃ、飯を食った気がしない」


「そのうえ、激しい運動も好まない」


「あ~、そっすね。できれば、楽に寝っ転がっていたいっす」


「はっはっは、まったくダイエット向きじゃないな!」


「そっすよ、だから、ダイエットだの筋肉だのは、俺抜きでやってほしいっす」


「そういうわけにはいかないのだ!」


 ライの表情は真剣だ。


「いいかね、私がこの村にいる間は、それでもいいだろう! しかし、私は異世界人だ、いつ自分の世界へ帰されるかもわからない。そうじゃなくとも、私が勇者に倒されたりしたら、どうする! 私亡き後、誰が村を守る!」


「新しい助っ人を呼べばいいんじゃないっすかね」


「それが、必ずしもうまくいくとは限らないだろう! だから、君たちがこの村を守るのだ! そのための筋肉だ!」


 この言葉を聞いた俺は、すっかり感心してしまった。


「はあああ、アンタ、脳みそまで筋肉ってわけじゃないんすね」


「残念ながら、脳は筋トレでは鍛えられない!」


「ま、アンタの考えはよくわかったっす。つまり、俺たち自身が強くなれと、そういうことっすね」


「その通りだ!」


「あ~あ、めんどくさいっすねえ」


 俺は大げさに肩をすくめたが、これはもちろん、単なるポーズだ。

 気持ちはすでに決まっている。


「俺はたぶん、パンとか菓子が食いたくなると思うんで、それでもいいように筋肉のメニューを組んでほしいっす」


「おおっ! やる気だな、いいとも!」


 こうして――俺とライは、無二の親友となったのである。







 さて、俺とライのなれそめはここまでっす。

 この後ライは俺のために、一週間に一回だけ食事制限のない日というのを作ってくれたっす。

 彼に言わせると、ストレスはダイエットの大敵で、これがたまりきる前に解消することの方が食事制限より大事だということで……。


 そうそう、村から勇者たちを引き離すために走った俺の行動を、ライは高く評価してくれたっスよ。

 しまいには「村の全員にこの偉業を伝えねばならない!」とか言い出したけど、これは丁重にお断りしたっす。

 何しろ俺は村の英雄ってガラじゃないっす。


 英雄なんて称号は、筋肉バカだと嘲られても自分を曲げない、信念の強い男に譲ってやるっす。


 きっとその男は、どんな苦境をも筋肉で乗り切るに決まってるっス。

 どんなに強い相手と相対しても、きっとむかつくほど明るい笑い声で、高らかに言うんだと思うっス。


「はっはっはー、筋肉だ!」


 俺の親友、雑風ライという男は、そういうやつなんすよ……。

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