第11話


 痩せた方の男が、怪訝そうな顔になる。


「どうしたでござるかな?」


「この男の能力を見てみるといいんだな」


「しからば、能力開示ステータスオープンでござるよ!」


 顔に指メガネを当てた彼は、しかし、すぐにそれを外して叫んだ。


「な、何だこれはでござるよ!」


 俺はステータスとか見えないわけで……。

 ただひたすら戸惑うばかりだ。


「え、え、なんなんすか?」


 太った方の男は、そんな俺を不憫に思ったらしい。


「僕の能力開示ステータスオープンは、可視化できるんだな、ちょっと待つんだな」


 そう言いながら、彼は再び指メガネを作る。

 意外といいやつかもしれない。


能力開示ステータスオープンアーンド可視化オンスクリーン!」


 ライの体の正面に、光る文字が現れた。


 俺はこういったものを見るのは初めてだ。

 だが、常識的に言って、レベルとか体力値とか、魔力値なんかが出るはずだろ?


 ところが、ライの前にはドーンと大文字で……こう書かれていた。


『筋肉』


「な、なんっすか、これ!」


 ライが得意げにポージングする。


「見ての通り……筋肉だ!」


「いや、まあ……筋肉っすね」


「女神は私に聞いた、なんの能力が欲しいかと! だから、私は答えた!」


「あー、筋肉って言っちゃったんすね」


「そういえば、能力開示ステータスオープン、私もできるぞ!」


「え、マジっすか」


「こうだろ、能力開示ステータスオープンっ!」


 ライは自分の目の前に指メガネを構えた。

 そして楽しそうに笑う。


「ふふふふ、体脂肪率18、BMI値28、君に必要なのは、筋肉だ!」


「こ、この男には常識が通じないのでござるか!」


「常識? そんなもの、筋肉の前には無意味だ!」


 俺はいままで、この男を単なる筋肉バカだと思っていた。

 たが、違う。

 この男、おそらく『この世で最も筋肉バカ』だ。


 突き抜けている、それ故にカッコいい。


 ライは腕を組み、胸を張って立っている。

 うろたえている二人の人間を見下ろし、低い声で聞いた。


「君たちは、何のために勇者を目指しているのかな?」


「へ?」


「だから、君たちの目標さ! 自分がこうありたいと未来の姿を思い描く、これは筋トレでも必要なイメージトレーニングというものさ!」


 そのあとでライは、明らかに怒りを含んだ声を出した。

 それは腹の底まで染み込むような、ドスの効いた低音だった。


「無いのならば、今、ここで思い描くがいい……貴様たちがなろうとしている勇者というものを……」

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