第4話

 翌日から、ライによる村の視察と、村人全員に対する個人面談が始まった。

「はっは~、筋肉は素晴らしいぞ!」

 この調子で村人全員を言いくるめてしまったあたり、この男には異世界転移による何らかの特典が、やはり付与されているのかもしれない。

 ともかく、たった三日で村中の誰もが、ライの言う『筋肉』に夢中になっていた。

 そして四日目の朝、ライ『様』からのありがた~いお言葉が聞けるということで、村中のオークたちが中央広場に集まった。

 中央広場とはいっても、村のど真ん中にあるただのだだっ広い空き地だ。そこにライが立つための演説台として大きな木箱が運び込まれた。

 ロースは――やつめ、すでにライの一番弟子気取りで木箱の横に立ち、最後の微調整といわんばかりにライが立つ予定のそれをこねくり回している。

 やがてライがその木箱に上がると、広場に集まったオークたちの間に歓声が上がった。

「ライさまー! ライさまー!」

「はあっ、罵って! 私を豚だと罵って!」

 女オークからの熱い歓声が多いのは……まあいいとして。

 壇上でお得意の筋肉アピールをキメた後で、ライは朗らかな大声で話し始める。

「諸君、結果に?」

「コミットー!」

 万来の唱和を受けて、ライは満足そうにうなづく。

「まずは、君たちに欠けている三つのパワーを教えてあげよう!」

 聴衆たちが息をのむ中、ライはこぶしを掲げて一本ずつ指を立てていった。

「まずは……力と書いてパワー。二つ目には、知性と書いてパワー、そして三つめは……筋肉と書いてパワーだ!」

「わああああああああ!」

「ライさま、ライさま~! 抱いて~!」

「ひゃああああ! ワシも抱いてですじゃ、ライさまあああああああ!」

 聴衆は狂喜乱舞、ただ一人、俺だけが仏頂面。

 ライは両手をあげて聴衆を鎮めると、お得意のポージングを連続で決めた。

「特に足りないものはKI(ムキッ)N(ムキッ)NI(ムキッ)KU(ムキッ)だ(ムッキーン)!」

 ウザい……はっきり言ってウザい。

 俺は鼻を鳴らして不平を訴え、片手をあげる。

「あの~、質問いっすか?」

「もちろんだとも!」

「ライさん、俺らがどうしてわざわざ異世界人を召喚したのか、忘れてないっすか?」

「筋肉のためだな!」

「勇者に対抗するためっすよ!」

「そういえば、そんな目的もあったような気がするぞぉ!」

「そんな目的しかないっすよ! いっすか、この村はオークの村だってんで、戦闘経験値狙いの勇者どもに何度も攻め入られてるんす。まあ、俺らだってバカじゃないんで、ちゃんと防戦はしますけどね、それでも畑は荒らされるし、命を脅かされるわけっすよ。だから、これを何とかしてもらいたいって、そういうことなんすけど?」

「そうか、君は平和的な解決法と、力による解決法と、どちらを望む?」

「そりゃあ、平和的な方で」

「ならば、筋肉だ!」

「……だめだ、こりゃ」

 一人肩を落とす俺を尻目に、ライと聴衆は大盛り上がりだ。

「結果にー?」

「コミットー!」

「心配するな、諸君、俺は君たちが畑仕事をする部族だと聞いて、うまい運動方法を思いついた、つまり、普段の農作業に効率よく筋肉を鍛える動きを取り入れることによって、筋肉を育てる!」

「コミットー!」

「そう、コミットだ! さらに食生活の改善!」

「コミットー!」

「そして、君たちも手に入れよう、この無敵のKI(ムキッ)N(ムキッ)NI(ムキッ)KU(ムキッ)を(ムッキーン)!」

「わあああああああああ! ライさま! ライさま!」

 大盛り上がりのうちに、筋肉集会は幕を閉じた。しかし、村人はまだ知らない、ここから地獄の日々が始まることを……。

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