第100話(最終話)「河の守り人」
たけぞうは何故か、長い時を生きていた。
江戸時代、明治、大正、昭和、平成、令和と続く時の流れを見守り続け、時には陰ながら人々を手助けし、仲を取り持った。
そして、現代から少し先の未来。
「ひょっひょ♪ 今日も平和じゃのう」
たけぞうは生まれ故郷の近くにある町を歩いていた。
この時代の少し前の事。
宇宙から多くの異星人が地球侵略に来るというとんでもない事が起こった。
だがたけぞうの子孫や彦右衛門、三郎の子孫達と、たけぞうが持っていた竹筒の中にいた伝説の大妖怪が力を合わせてそれらを倒していき、最後は侵略者達の怨念が集まった妖魔獣という魔物を制した。
その後は和解した宇宙人達と友誼を結び、彼等の知識を学び、力を借りたおかげで地球は更に発展していった。
それもあり、今は人や妖怪、更には異界や他の星から来た者が町を行き交っていた。
「どれもこれも彼等のおかげじゃな。うん」
たけぞうは辺りを見渡した後、また歩き出した。
しばらく歩いた後、公園のベンチに座って一休みする事にした。
「ふう……ん?」
見ると人間の幼子達が、妖怪の幼子をいじめているようだった。
「ほっほ、止めるかの。と、おや?」
遠くから一人の幼子が駆けてきた後、皆に何やら話し出した。
しばらくそれを見ていると、やがて人間の幼子達は妖怪の幼子に謝り、その後は皆で仲良く遊びだした。
その幼子は若き日の自分に似ているように思えた。
「うん、うん。そろそろ儂もお役御免かの」
嬉しさ半分、寂しさ半分の思いだった。
その後、遠い昔に意識を旅立たせた。
松之助は父母に先立って七十年の生涯だった。
当時としては長生きであろうが、それでも息子に先立たれたたけぞうとお鈴の悲しみは如何許だったであろうか。
それと弟子で養女の詩織もたけぞうはおろか、お鈴よりも長く生きられなかった。
そのお鈴は妖狐の血を引いていたせいか長生きし、松之助が逝ってから十年後、百歳で大往生した。
そしてひ孫の代になった頃、たけぞうは自分は死んだものと思えと言って彼等の前から去り、自身が作った村に移り住んだ。
その村も、今はもう無い……。
気がつくと、もう日が傾きだしていた。
「鈴も子供達も、友達もわしを置いていってしもうたのう。何人かは今の時代の者じゃからまだおるが、それもいずれは」
そう呟いた後、薄暗くなった空を見上げ
「なあ、そろそろいいじゃろ?」
誰かに語りかけた。
すると一番星が光り
- ええ。長い間お疲れ様でした -
最も愛する者の声が聞こえてきた。
「おお、そうか。しかし何故わしは長い時を生きられたのじゃろうな?」
たけぞうがそう言うと
- あなたは人としての時間では仲を取り持つ者。その後は時の大河を見守る者になっていたのよ -
「なるほどのう……おれはずっと河の守り人だったんだね」
たけぞうはいつの間にか、若き日の姿になっていた。
そして
「ええ。さ、行きましょう」
お鈴が若き日の姿で現れ、そう言った。
「うん行こうかな。皆の所へ」
たけぞうが若き日の口調に戻して言うが
「いや、守り人の役目はまだ終わっていないぞ」
お鈴が口元をニヤリとさせた。
「うえ!? ま、まだ現世にいなきゃダメなの!?」
たけぞうが真っ青な顔になって叫ぶと
「心配するな、これからは私も一緒だ」
お鈴は今度は優しげな笑みを浮かべて言う。
「へ?」
「私はあの世での長い修行を終えて、やっとあなたと共にいられるようになったのだ」
「そ、そうだったんだね。もう、離れなくていいんだね」
たけぞうは思わず涙ぐんだ。
「ええ。さ、子孫達が作ってくれたこの世界を」
「うん。あの時見た未来を、この目で見に行こうか」
たけぞうとお鈴は手を繋ぎ、町の灯りの中へと消えていった。
「二天甲記」 完
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