第96話「皆との会話」
その後、満足したらしい琉香がたけぞうとお鈴に話しかけた。
「ねえ、そろそろ話そうかと思うんだけど」
「うん、いいよ」
たけぞうとお鈴が居ずまいを正すと、琉香はやっと話せるという表情で話し出した。
「あたしのお父さんとお母さんはたけぞうさん達の異界での友達で、後世の弓使いと聖女よ」
「やっぱり。でも彼って本当はトナカイって生き物だったよね? どうやって人間になったのさ?」
「二人の子孫さんにお願いしたって聞いたわ」
「ああ、以前聞いた彼がか。なるほどな」
お鈴が頷き
「そっか、うちの子孫が役に立ててよかったよ」
たけぞうも頷きながら言う。
「いえいえ。お父さんはあの人に大変お世話になったって、いつも言ってるわ」
「そうか。ところでそもそも最初は彼が来るはずだったのだな」
「というより流れの先にいるんだし、最初から分かってたんじゃないの?」
お鈴とたけぞうが続けて言うと
「ううん、知らないと思う。だってあたしが知ってる流れだとね」
「それ以上はいいよ」
「あ、ごめんなさい」
「いいって。しかしこうして見ると、やっぱお母さんに似ているねえ」
たけぞうは琉香の顔をじっと見つめ
「ええ。気が強そうな所も、よく聞くと声もそっくりね」
お鈴は女言葉になって言う。
「えへへ、それよく言われるわ。髪を黒く染めたらお母さんの若い頃そのまんまだってね」
琉香は照れながら答えた。
「そうそう、聞いた所ではその子孫は私にそっくりらしいけど、本当?」
「うん。見た目はお鈴さんの髪を短くして男性にしたって感じよ。でも中身はたけぞうさん似って最近言われるようになった、ってボヤいてたわ」
「何でボヤくのさ? おれに似てるのがそんなに嫌なのかよ?」
たけぞうが少し拗ねながら言うと
「えっと、剣術出来ないのにそう言われるのが嫌なんだって(それも本当だけど、性格がね)」
琉香は最後に何か思いながら言った。
「え? おれの二天甲流って子孫には伝わってないの?」
「うん。でも後継者は会った事ないけど、何処かにいるって言ってたわよ」
「そっか……じゃあいつか弟子でも取るかな」
「それとね、悠さんと求愛さんは」
「自分で言うよ。僕達も後世から来たんですよ」
いつの間にか悠と求愛が来ていた。
「そしてあいつの弟だよね。それだと」
たけぞうが言いかけると
「僕は養子ですから、兄さん達と血が繋がってませんよ」
悠は何か察したのか、苦笑いしながらそう言った。
「あ、そうか。悠は猫から人間になったんだったね」
たけぞうが手をポンと叩いて言った。
「そうですよ。僕はまあ、いろいろあって両親の養子になったのです」
「いろいろってのが気になるけど、それは聞かない方がいいよね」
「ええ、すみません」
悠が申し訳なさそうに頭を下げる。
「いいって。しかし悠も髪の色以外はお兄さんとよく似てるねえ」
「え、そうですか?」
「そうだぞ。私も兄上方と会っているが、似ているぞ」
お鈴が頷き
「あたしも会った事あるけどホントよく似てるし、うちの両親もそう言ってたわよ」
「そうだきゅ。ボクも最初は実の兄弟だと思ったきゅ」
琉香の後に求愛が続けて言う。
「うーん? もしかしてこの体、兄さんか父さんに似せて創られたのかなあ?」
悠が自分の両手を見つめながら言うと
「似せたというより養父母の氣、そなたの時代で言う遺伝子を使って創られたそうだぞ」
八幡大菩薩が話に入ってそう言った。
「え、それだと」
「ああ、そなたは実子と同じようなものだ。そして」
「彦右衛門さんと香菜さんの子孫と同じ、ですよね?」
たけぞうが続けて言うと、八幡大菩薩はそうだと頷いた。
「え、ええええ!?」
「きゅー!?」
悠だけでなく求愛も驚き叫ぶ。
「実はそなたを転生させた方から『二人が戻ったら話そうと思っているが、もしそちらで機会があるなら話してくれ』と言われていたのだ」
八幡大菩薩がそう言った。
「そ、そうでしたか。でも何故今なんですか?」
悠が尋ねる。
「悠は近頃養子だという事を気にして、少々遠慮がちになっていると聞いたぞ」
「あ、はい。そんな事を気にする家族でないのは分かっていますが」
「誰でもそういう時はある。それで少しでも、と思われたそうだぞ」
「……いえ、充分過ぎます。教えて頂き、ありがとうございました」
悠は深々と頭を下げた。
「あの、創られたのって神様ですよね、何でそんな事を?」
たけぞうが尋ねると
「元々はとある女性の心を救う為、そして幼くして命を落とした悠に今度こそ長く良い人生をと転生させたそうだが、それを成すには」
「あ、そういう事ですか」
たけぞうがポンと手を叩く。
「そうだ。延々と受け継がれている心の力が必要だと思ったからだそうだ」
「ですけど、それなら子孫の誰かでもよかったんじゃ?」
「その時代に適任者がいなかったそうだ」
「僕も元々の事は聞いていましたが、その先は」
悠が言うと
「そなたは悩み苦しんでいた義姉と偶然出会い、彼女の心を癒やした。そして養家に行き、義姉の婿となった兄やその家族と暮らし始めた。それで代わりを誰にするかと思っていた時、偶然そなたの実弟が先の女性と出会ったそうだ」
「え、僕の弟って、猫?」
「そうだ。彼は飼い主に捨てられた所をその女性に拾われたのだ。それで女性が救われ、彼もまた幸せに暮らしているそうだ」
「よかった。会った事なくても弟ですし」
「きゅ、皆幸せでよかったきゅ」
悠と求愛は目が潤ませながら言った。
「そうだ。少し気になる事があった」
お鈴が思い出したかのように言う。
「ん? 何さ?」
「ジャンヌ殿の刀だ。あれは」
「王様から頂いたもので、由緒正しき剣ですよ」
いつの間にかジャンヌが剣を手にして来ており
「たけぞう殿なら知っているだろ、それは剣聖女様が使っていたものだ」
その後ろにいた龍之介が答えた。
「うえっ!?」
たけぞうが驚きの声をあげ
「え、そうだったの?」
ジャンヌもそこまでは知らなかったようだ。
「あ、あの、手にとってもよろしいか?」
お鈴が剣を見つめながら言う。
「え? はい、どうぞ」
ジャンヌは剣を差し出すと
「お姉様の……ああ」
それを受け取ったお鈴は愛おしそうに剣を抱いた。
「あの、お鈴さんは剣聖女様にお会いした事があるのですか?」
ジャンヌが尋ねる。
「え、はい。そちらに行った時に」
「そうでしたか。私もお会いしましたが、本当に凛々しくお綺麗な方で、感激のあまり泣いてしまいました」
「でしょうね。私なんか気を失いかけましたよ」
「へえ。あの、その時の事を聞かせてもらえませんか?」
「ええ」
「あの剣は王家に代々伝わっているものだが、今の陛下以外は誰も使えなかったそうだ。いや陛下自身ですら完全に使えたのは、強大な敵を倒したその時だけだったと」
龍之介が言う。
「でも、ジャンヌさんは最初から完全に使えた?」
「ああ。陛下がジャンヌと初めて会った時、なんとなくだが彼女ならばと思って授けてくれたのだ」
「聖女だからかな?」
「後で剣聖女様が教えてくれたが、何かを思う気持ちが強く出る者ならばと仰っていた」
「それって心力だよね。あのさ、何で龍之介さんはそれを呼び起こせたの?」
「あの光で皆にきっかけを与えればいいのは分かっていたが、それ以前に自分自身が出来るかどうか分からなかった」
「え?」
「ただ、ジャンヌと出会えた今ならもしやと思ったのだ」
「なるほどね」
「ああ。もう一度お姉様にお会いしたいなあ」
お鈴がうっとりしながら言うと
「じゃあ今度うちに来て下さい。お願いすれば来てくれますよ」
ジャンヌがそう言った。
「そうなの? じゃあ遠慮無く。また一緒に温泉に、ふふふ」
「あ、いいですね。お姉様の裸を見放題……ふふふ」
お鈴とジャンヌは何か妖しげな笑みを浮かべていた。
「ねえ、一緒に止めない?」
「大丈夫だ、と思いたい。そう思いたい」
たけぞうと龍之介は頭を抱えながら言った。
「二人共大丈夫かチュー?」
そこへ来た鼠之助が心配そうに言うと
「ああ。そうだ、鼠之助に聞きたい事があったのだ」
気を取り直した龍之介が尋ねる。
「ん、何だチュー?」
「あの時の蹴り技だが、あれは自分で考えたのか?」
「違うチュー。あれは旅の途中で会った武闘家のお爺さんに習ったチュー。白髪で顔には皺が多かったけど、体つきはまだまだ若かったチュー」
「その方の名は?」
「本名は教えてくれなかったけど『人は俺を拳帝と呼ぶ』とか言ってたチュー」
「ん、間違いないな」
龍之介が頷き
「鼠之助って異界に縁があり過ぎだよ」
たけぞうはまた頭を抱えた。
「たけぞう、少しいいか?」
そこに彦右衛門と三郎がやって来た。
「ん、どしたの?」
「いえ、ちょっと余興をしたいのでお付き合い願えますか?」
「大丈夫。お主は座っていればいいだけだ」
三郎と彦右衛門は何故かニヤニヤしながら言う。
「えと、何か怖いんだけど」
「心配するな。さ」
たけぞうは彦右衛門と三郎に連れられ、奥の部屋へと歩いていった。
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