第93話「帰る前に」
その後、たけぞう達は助五郎の屋敷へ戻って休息を取っていた。
「ふう。さてと、どうする?」
たけぞうが皆に尋ねる。
「そうだな。もう少し休ませて戴いた後、帰るとするか」
彦右衛門がそう言うと
「あの、拙者とおキヌさんは少し用がありますので、出来ればもう一日は」
傳右衛門が手を上げて言い
「ああ。慌てずゆっくりしてきてくれ」
三郎が頷くと早速とばかりに二人は出かけた。
その後、鼠之助とかすみも用があると言って出ていった。
「さっき聞いたけど、傳右衛門さん達は戦った亀さんを埋葬しに行くんだって。鼠之助さん達も熊さんの形見をお仲間の所に持って行くって」
琉香がそう言うと
「傳右衛門殿とおキヌはここから近いと言っていたが、鼠之助とかすみは?」
黒羽が尋ねる。
「二人の方も意外と近くて、ここから片道で一時の山って言ってたわ」
「それなら心配ないな。ところで琉香、あの変態エロザルは憎らしいが墓くらい作ってやるか」
「そうね。もしかするとアレも忠臣だったかもしれないし」
「そのエロザルは若い鬼女の腰巻き盗もうとして捕まり、殺されかけた所を勝満様に救われて忠誠を誓ってたみたいよ」
文車妖妃が苦笑いしながら言うと
「何それ、あいつどんだけなのよ」
「ま、まあ忠臣には違いないだろ」
琉香と黒羽も苦笑いしながら言った。
「あの、もしかしてあの黒虎もですか?」
悠が文車妖妃に尋ねる。
「ええ。彼は家族を戦乱で失い、守れなくて悔いていた所を勝満様が誘ったのよ」
「そうだったのですね……ごめんなさい、心が分からないなんて言って」
悠は空を見上げ、黒虎の冥福を祈った。
その頃、町の主だった者達が屋敷の大広間に集まり、上座にいる天一と春菜、両軍師と話していた。
「この町は平穏ですが、他所はまだまだです。なので我々も天一様と春菜様のお力になりたく思います」
代表して助五郎が頭を下げて言う。
「ありがと。そうだ助五郎さん、もしよければおいら達の家老になってくれない?」
天一がそんな事を言う。
「え、私が御家老ですか?」
「儂らは金勘定が得意ではない。だからあなたのような方のお力添えが必要なのだ」
道鬼が頭を下げて言うと
「折角ですが辞退させていただきます。その代わりと言ってはなんですが、商才のある若者が何人かいますので、そちらを取り立てていただけませんか?」
助五郎も手をついて頭を下げた。
「どうする天一、春菜姫?」
道鬼が二人に尋ねると
「うん、それでいいよ」
「はい~」
二人は笑顔になって頷いた。
そのころ、傳右衛門とおキヌは目的地である村に着き、墓地がある寺を訪ねて和尚に訳を話すと、こんな話を聞かされた。
「この村には言い伝えがありましてな。当時の村長の娘が不治の病にかかったが、村長の夢枕に神の使いと名乗る亀が現れ、娘の病は朝になれば治るというお告げを受けたそうです。そして翌朝、村長が目を覚ますとお告げ通り、娘の病が癒えていたという話です」
「そんな話があったのですね」
「ええ。あなた方のお話を聞いてそれは本当にあった事だった、あなた方が連れてきてくださった亀殿こそがそうだと分かりました」
和尚が頷きながら言った。
「あの、娘さんはその後どうされたとな?」
おキヌが尋ねる。
「娘は縁あって婿を取りました。その子孫が今の村長です」
「まあ、もし娘さんが亀殿を好いていたとしても、お立場上ずっと待ち続ける訳にはいきませんからね」
傳右衛門が寂しげに言う。
「ええ。ですが婿は当時行方知れずとなった友がその亀だと思ったそうです。婿は友もまた娘を想い続けていたのを知っていて、友に生涯娘を守ると誓い、娘も生涯感謝していたと伝わっています」
それを聞いた傳右衛門とおキヌは、目を閉じて亀を思った。
その後和尚の計らいもあり、亀の甲羅の欠片を娘と友の墓の隣に葬る事ができた。
「爺様、あの世で仲良くしたもんせ」
「どうぞ安らかに」
二人はしばらくの間、色々な事を思いながら祈り続けた。
また一方では、鼠之助とかすみが妖怪熊達と会っていた。
「そうかクマ。あいつは見事な最後だったのかクマ」
妖怪熊達の長である年老いた熊が、目を押さえながら言う。
「うん。おいらは熊さんのおかげでこうして生きてるチュ……」
鼠之助が項垂れると
「気にしないでクマ。あいつは本望だったろうクマ」
長が鼠之助を慰めるように言った。
「ところで妖怪と人間の軍が仲良くなったって、本当かクマ?」
長が鼠之助に尋ねる。
「うん。総大将同士が想い合ってるチュー」
「そうかクマ。じゃあもう人間と争わずに暮らせるクマ?」
「すぐには無理かもしれないけど、そんな先の事じゃないと思うチュー」
「分かったクマ。教えてくれてありがとクマ」
「その総大将から差し入れあるけど、これで足りるかポコ?」
かすみの後ろには魚や野菜、果物がたんと置かれていた。
「充分だクマ。総大将にお礼を言っておいてクマ」
長が笑みを浮かべて頭を下げる。
「分かったポコ」
「さて、弔いの後でご馳走するから、食べていってクマ」
鼠之助とかすみはその後、熊達と鍋を囲んで話した。
そして別れを告げ、町へ戻った。
翌日、たけぞう達はとある場所へ向かった。
「これが妖怪さんの墓なんだね」
それは石が積まれただけのものだった。
「へい。後で立派なのに建て直すって、助五郎の旦那も言ってやした」
案内していた親分が言う。
そして皆で花を供え、手を合わせた後
「ねえ親分さん、妖怪さんてどんな妖怪だったの?」
たけぞうが尋ねると
「金色の長い髪で腹が立つくらい色男の河童でさあ。そういやたけぞうさんに似てやしたね」
「え?」
それを聞いたたけぞうは、驚きのあまり固まってしまった。
「それはもしや、たけぞうの親戚か?」
お鈴がそう言うと
「し、知らないよ。てか異界に親戚がいる訳ないだろ」
たけぞうが詰まりながら答え
「親戚というか、遠く遡ると同じご先祖様に行き着く方よ」
文車妖妃が話に入って言う。
「そうだったの? でも何で異界に?」
「ここが表裏一体の世界なのは、元は向こうと一つの世界だからなのよ」
「えええ!?」
皆が驚き叫ぶ。
「それが遠い遠い昔、二つに分かれたの。たけぞうさんの一族はそこで離れ離れになり、それぞれの世界で子孫を残されたのよ」
「そっか……生きている時に会いたかったな」
たけぞうは今世で会えなかった遠い縁者に向かって祈った。
そして
「じゃあ、そろそろ帰るね」
たけぞうが見送りに来ていた皆に言うと
「うん。また来てねって、そうそう来れないよね」
天一が寂しげに言う。
「そんな事無いわよ。そのうちあの塔がなくても行き来出来るようになるわ」
文車妖妃が笑みを浮かべて言った。
「じゃあ今度はおいら達がそっち行くよ。その時はよろしくね」
「うん。それじゃあ」
たけぞう達は天一と春菜達、助五郎達に見送られ、元の世界へと帰っていった。
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