第92話「超新星」

「な、何ですかあれは?」

 一学が映像を指しながら言い

「ワシに言われても知らんでごんす」

 志賀之助が首を傾げた。


「あれは人々を導ける資質がある者が使える『聖光大集結』では?」

 龍之介が誰にともなく言うと

「その通りじゃ。その資質で皆の力を集めて放つものじゃぞい」

 長老が頷き

「あれならば……頼む、たけぞう」

 八幡大菩薩が目を閉じ、祈るように呟いた。




 その後、双方の球体が徐々に大きくなっていく。

「ぐ、これきつい、ん?」

 

「大丈夫か?」

 いつの間にかお鈴がたけぞうの背中に抱きついていた。

「う、うん。お鈴さんこそ」

「平気。あなたと共にいるのだから」

「はは。よーし、やろうか」

「ええ」



「うん。その力、見せてくれよ」

 勝満が刀を振り下ろすと、たけぞう達目掛けて球体が落ちていった。


 そして

「はあああっ!」

 たけぞうが気合を入れると、頭上の球体が二刀に吸い込まれるように消えていき


「な!?」

「えええ!?」


 たけぞうの体が白銀に輝きだした。




「あ、あれは聖光大集結ではない!」

 八幡大菩薩が驚き叫び

「な、何だあれは? 心力とも違う?」

 龍之介が続け様に言い


「え、あれだったの?」

 詩織がボソッと呟いた。




「な、何あれ? 私が言ったのと違うんだけど」

 文車妖妃が戸惑いながら言う。

「え、ではあれは何なのですか?」

 彦右衛門が尋ねると

「分からないわ。けどまるで太陽いえ、星のような輝き?」



「……はっ!」

 たけぞうが二刀を力強く振り下ろすと、そこから輝く光弾が球体目掛けて放たれた。



「な、なんだよそれは!?」

 勝満が驚き叫ぶと


「超新星だよ。新たに生まれる星が、この世界を照らすんだ」

 たけぞうが静かに言う。


「そ、そんなものを出せるだなんて、いくら元妖怪だからって」


「ううん、おれだけじゃなく、皆の力だよ」


「あ……そうなんだね」


「うん」



 そして、超新星が徐々に球体を押し返し


 やがて大爆発を起こし、双方が消えた。



「ふふ……僕の、負けだよ」

 勝満は笑みを浮かべて言った後、地上に落下して倒れた。

 

 

 それを見たたけぞう達が勝満の側に駆け寄ると


「!?」


 いつの間にか勝満の体が痩せ細り、髪も白くなっていた。


「ど、どういう事だ?」

「まさか、あの光を放ったせいか?」

 皆が口々に言うと


「そうよ。あれを神器も無しに使えば、いかに守護神様でもこうなるわ。そして魂すら消えてしまうの」

 文車妖妃が首を横に振った。


「そんな。ねえ、どうにかならないの?」


「無理です。もう薬も妖術も効きません」

 勝満を手当てしていた悠が顔をしかめて言う。


「は、はは、いいんだよ。世界を滅茶苦茶にして、多くの人を死なせた報いだよ」

 勝満が悠と求愛に支えられ、上半身を起こすと


「……勝手な事言うけど、ありがとう。僕を倒してくれて」

 そう言って少し頭を下げた。


「やはりあなたは、ご自身ごと妖魔を?」

 彦右衛門が尋ねる。

「いいや、全てが憎らしくなったのも本当だよ。けど心の何処かではね……だから力が不安定だった時に、その気持ちが出ていたのかもね」


「そうでしょうな。それがあったから、多くの者が貴方様に着いていったのでしょう」

「……けどさ、そんな彼等の殆どを死なせちゃった。なんとかしたいけど、僕には生命を蘇らせる事は出来ない」


 そう言って勝満は後から来ていた天一と春菜の方を向き

「ごめんね。君達の両親を死なせて」

 それを聞いた天一と春菜は黙って頭を振った。


「ありがと……勝手だけど、この世界をお願いね」


「うん。任せとけって」

「わたし達がきっと」

 二人は揃って頷いた。


「うん」

 そして勝満は、空を見上げ

「……兄さん、ごめんね」

 そう呟いた。

 すると


- ……詫びるのは私の方だ。すまなかった、弟よ -

 八幡大菩薩の泣いている声が聞こえてきた。


「ううん。彼等が来てくれたおかげで、最後に救われたよ」


ー そうか……お前ともっと語り合いたかったぞ -


「僕もね。さて、そろそろ時間だ」

 勝満がそう言った時


- 勝満様、私もお供致します -


「え?」


 そこに体が透けた女性が現れた。

 それは


「明香?」

- はい。よかった、覚えていてくださって ー


「ごめんね、君を利用して」

- いいのです。それより先程も言いましたが、私はいつまでも何処までも、あなたと共にいます -


「何処までもって、生も死もない無の世界に君を連れていけないよ」

 勝満がそう言うが


- いいえ、嫌と言われても着いて行きますよ。これであなたは永遠に私だけのものなんだから、ふふふ - 


 何やら妖しげな笑みを浮かべている明香だった。



「あの、何か怖いんだけど」

 たけぞうが震えながら言うと

「そんな事言うな。私も怖いが」

 お鈴も震えながら言うと、全員同じく震えながら頷いた。



「……けど悪くないよ。ありがとう、明香」

- はい ー


 明香が勝満の胸に寄り添うと、二人の姿が段々と薄くなっていった。



「ん?」

 お鈴が急に辺りを見渡す。

「どうしたの?」

 たけぞうが尋ねると

「今、誰かの声が聞こえなかったか?」

「ううん。皆は?」

 皆は首を横に振る。


「あ、また聞こえた……え、私にそんな事が? ああ。では」

 何かと話していたお鈴が手をかざすと、そこから白い光が放たれて勝満と明香を照らした。


 すると

「こ、これは?」

 体が透けてはいるが、元の若々しい姿に戻った勝満がそこにいた。


「これで魂が消える事はないですよ。さあ、お二人で天へ」

 お鈴が微笑みながら言うと


「……ありがとうね。じゃあ」

「皆さん、お元気で」


 勝満と明香の姿が光に包まれ、消えていった。



「これで終わったね」

「ああ。終わったんだな」

 たけぞうとお鈴が向き合って言うと


「ねえたけぞうさん、勝鬨あげてよ」

 天一がたけぞうを促す。


「え、でもさ」

「勝満様もそうしてくれって思ってるよ」


「うん。じゃあ……えい、えい」


 オオーー!


 全員が鬨の声をあげた。




「ふう、聞こえてよかった」

 詩織が額の汗を拭いながら言うと

「ご苦労様じゃったな。さて、そろそろ」

 長老が詩織に話しかける。

「はい、皆さんによろしくお伝え下さい」


「ねえ、もう帰るの?」

 松之助が詩織の着物の袖を引きながら言うと

「ええ。私はあまり長くここにいられないの」

 詩織は少し寂しげに言った。

「そっか。じゃあまた会おうね」

「はい。また会いましょうね」


 そして、詩織は長老の術で元いた場所へと帰っていった。




「たけぞう、皆……この事、永遠に感謝するぞ」

 八幡大菩薩は涙を流しながら言った。

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