第91話「集まった力」
「そうか、その手があったな」
八幡大菩薩が少女を見つめながら言うと
「はい。そして近い所で呼べたのはこの娘でしたわい」
長老が頷きながら答える。
「流石長老殿。彼女なら間違いないぞ」
「いやいや。この娘を呼べたのはこの二人のおかげですぞ」
「あれれ?」
「どうしたの?」
首を傾げる松之助に藤次郎が話しかける。
「あのお姉さん、なんだろ? えっと、あれ?」
どうやらなんと言っていいのか分からないようだ。
「ほう、流石たけぞう殿の倅ですなあ。おぼろげながらも分かるようですぞい」
「ああ。本来なら会えなかったにも関わらずにな」
長老と八幡大菩薩が何やら話していると
「えと、あの、ちょっと私達にも分かるように話してもらえませんか?」
阿国がそう言うと
「あのすみません。ここはどこですか?」
少女が皆に向かって尋ねる。
「おおすまんの、急に呼び出したりして。もしかすると知っておるかもしれんが」
長老は少女に呼び出した理由を話した。
「はい、皆さんの事や諸々はお師匠様から聞いています。私でよければお手伝いさせてください」
少女が頭を下げて言った。
「うむ。では頼むぞい」
「ね、ねえ。お嬢ちゃんのお師匠様って私達の知ってる人なの?」
阿国がおそるおそる尋ねる。
「そうですけど誰なのかは言えません、ごめんなさい」
少女はそう言って申し訳なさそうに頭を下げた。
「え、何で言えないの?」
「あ、その、どう言えばいいのか、えと」
少女が慌てふためく。
「言えば時の流れがおかしくなるから、か?」
それを見た龍之介が察して言うと少女は落ち着き、無言で頷いた。
「そ、そうなのね。ごめんなさい」
阿国は意味は分からないが聞いてはダメな事なのだなと、慌てて頭を下げて謝罪した。
「いえ。それと申し遅れましたが、私は
その少女、詩織が名乗る。
「詩織ちゃん、よろしくお願いね」
「はい」
「さて、皆外に出るのじゃ。屋敷でそれを使ったら天井に穴が空いてしまうぞい」
長老がそう言うと、皆一斉に外に出た。
そしてジャンヌが剣を、阿国が勾玉を、詩織が鏡を手にして掲げると
「おおっ!?」
「な、なんと!」
三人の体が光輝き、その光が天に向かって伸びていった。
「ようし皆の衆、己が力をありったけたけぞう殿達へ送るつもりで、あの光に向かって念じるのじゃ!」
「はい!」
「おおっ!」
長老の号令一下、皆が一斉に手を合わせて念じ始めた。
「ん? あれは」
雲間から一筋の光が差し込み、たけぞう達を照らす。
「あ、あれ?」
「これは?」
たけぞう達が立ち上がる。
傷が塞がり、どうやら体力も回復したようだ。
「天一、あれって」
同じく立ち上がった春菜が光を指して言う。
「うん。ようし皆、あの光に向かって祈れ!」
天一が精鋭部隊に向かって叫ぶと、全員が手を合わせて祈り始めた。
「へえ……うん」
勝満は空を見上げ、何かを思いながら呟き
「さあ来い。その力、僕に見せてくれよ」
再び刀を構えた。
「とりゃあ!」
「うおおおっ!」
三郎と黒羽が勝満に打ち掛かり
「はっ!」
傳右衛門が羽衣になったおキヌと力を合わせ、霊光弾で
「やっ!」
琉香が矢を続け様に射て、援護射撃をする。
「皆さっきより強くなっているね、ちょっと痛いよ」
勝満が言う通り少しずつだが攻撃が当たっていた。
「そうだチュー。かすみ」
鼠之助がかすみと何やら話している。
「分かったポコ。ワタシも全力でやるポコ」
「うん。皆、下がってチュー!」
鼠之助が叫ぶと全員がそれに従って間合いを取った。
「ん? 何をする気だい?」
勝満が身構えながら言うと
「はっ!」
鼠之助は大きく飛び上がり、蹴りの体制で横回転しながら落下していった。
「お、そう来るか。でもその程度なら受け止められ」
「ポンポコリンのポンポコリーン!」
かすみが舞いながら手をかざすと
「チュー!」
鼠之助の体が銀色に輝きだし
「何、うわあっ!?」
ドゴッ!
勝満は避ける間もなく蹴りを受け、地面にめり込んだ。
「あ、あの技、偶然なのか?」
龍之介が震えながら言う。
「ん? どういう事でごんすか?」
志賀之助が尋ねると
「いや、あれは私達の世界で『拳帝』と呼ばれる偉大な武道家の技と似ているのだ」
「それはまた奇遇、いやもしかしてその武道家に教わったのでは?」
一学がそう言うが
「それなら噂くらい耳に入るはずだが……と、それは後で」
「く、くそ、技だけなら防げたけど、あの光は何だよ?」
勝満が這い上がりながら呟く。
「そうだ、今なら出来るかも」
「悠、ボクも一緒にやるきゅ」
「うん。お願い」
求愛が悠の背中に抱きつくと、悠は両手を組んで前に掲げる。
するとその手に蒼白い炎が現れた。
「な、それはまさか?」
勝満がそれを見て冷や汗をかく。
「その通りだと思いますよ……はあっ!」
悠が気合と共に両手を広げると、そこから炎が竜の息吹の如く放たれ
「うわあああーーっ!」
勝満はあっという間に炎に包まれた。
「な、何だよあれ! お鈴さんの炎より強烈だよ!」
たけぞうが驚きの声をあげると
「あれって竜神族の奥義よ。けどいくら求愛ちゃんと一緒にだからって、それを人間が放つだなんて」
文車妖妃も驚きながら言った。
「ぐ、まだ、終わってないよ」
勝満が炎を払いのけ、立ち上がる。
「ねえあなた。あの御方は」
香菜が彦右衛門の方を向いて言う。
「ああ、拙者も分かるぞ」
「はい。じゃあ」
「うむ」
「やあっ!」
香菜が姿が見えないくらいの速さで、幾度も勝満に斬りかかっていった。
「ぐ、何だよこの速さは!?」
「皆さんが言ってくれるまで気づきませんでしたが、わたしって結構速いんですよ」
「結構どころじゃないよ、はっ!」
勝満が斬りかかるが、香菜はそれを避け
「はあああっ!」
「!?」
いつの間にか迫ってきていた彦右衛門が、勝満を袈裟斬りにした。
「決まった?」
「いや、まだだろ」
たけぞうとお鈴がそう言った時
「う……」
膝をついて立ち上がろうとしている勝満に、彦右衛門が話しかけた。
「勝満様。あなたが世界を乱したのは、妖魔とご自身を滅ぼせる者が現れるのを期待しての事では?」
「え!?」
それを聞いた半数が驚きの声を上げた。
「ふん、そんな訳ないだろ。僕は」
「いいえ。そうでなければ吾作さんを送り返さないでしょう」
「ただの気まぐれだよ」
勝満はそう言って頭を振るが
「そうかな? 今なら分かるよ、あんたってあの黒獅子が言ってた通りなんだって」
たけぞうが側に寄って言う。
「あいつ、何て言ってたんだよ?」
「勝満様は前世ではずっと苦しんでおられた。そして今世で何だかんだ言っても、なんとか皆をいい方向に進ませようとしていた。だから前世で補佐役の神様だった自分も、最後まで勝満様を守ろうと思い妖魔になったって」
「ふん……」
「やはりあの亀殿が仰っていた」
「熊さんが言ってた通りの人だったんだチュー」
傳右衛門と鼠之助が続け様に言い
「皆、あなたを敬い慕っていたから、我が身を捨ててでもと思ったのでしょう」
三郎が言うと、勝満は何も言わず俯いた。
「ねえ、もういいんじゃない? この世界は天一と春菜姫が統一して平和にしてくれるよ」
たけぞうがそう言うと
「……出来るかよ」
「え?」
「出来るというなら、これを防いでみろ!」
勝満が勢いよく浮かび上がり、刀をかざした。
すると
「な、何だあれは!?」
上空に蒼白く輝く大きな球体が浮かんでいた。
「な、あやつ、あれが出来るのか!?」
八幡大菩薩が驚き
「あれはまさか、世界の力を一点に集めたものでは?」
龍之介が映像を見つめながら言うと
「そ、その通りだ。そしてもしあれを爆発させれば、世界が消えてしまう」
「そうなってはこちらでも天変地異が起こり、多くの犠牲者が出ますぞい」
八幡大菩薩と長老が続け様に言う。
「えええ!? ど、どうすればいいのよ!?」
阿国が慌てふためき
「詩織さん。あの、知りませんか?」
ジャンヌが詰まりながら尋ねるが
「ごめんなさい。私はあまり聞いてません」
詩織は首を横に振った。
「あれを撃たれたら、この世界は滅びるわ」
文車妖妃が向こう側と同じ事を皆に話していた。
「な、何か防ぐ手立ては無いのですか?」
お鈴が尋ねるが
「あれを防ぐには、同じ位の力をぶつけるしかないわ」
「そんな力、どうやって出せばいいのです?」
「方法はあるけど……そうだわ」
文車妖妃がたけぞうの側に寄り、何やら耳打ちする。
「え、それって、おれでも出来るの?」
「ええ。あなたならね」
「……うん、分かったよ。やってみる」
「皆、たけぞうさんに向けて力を送るつもりで念じて!」
文車妖妃が皆に向かって叫ぶと
「は、はい!」
ある者は武器を構え、またある者は手を合わせて祈り始めた。
「よし!」
たけぞうが二刀を高々と掲げて重ね合わせると
「ん、そう来たか」
勝満がたけぞうの頭上を見つめる。
そこには白く輝く大きな球体が浮かんでいた。
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