第90話「何処からか現れた少女」

「ふう。あの娘のおかげで姿も力も、元に戻ったよ」

 勝満がニヤリと笑みを浮かべる。


「ま、まさか、力を吸い取った?」

 たけぞうが震えながら言うと


「そうだよ。思い出したけど彼女は途轍もない力を持っていたから、それを手に入れようとして話しかけたんだ」

「じゃあ、さっき言った事は」

「方便だよ。というか愛しているなら本望だろ?」


「愛する心を利用するとは、なんたる外道だ!」

 お鈴が怒りの声を上げる。


「ふん、どうとでも言え」

 勝満がそう言って腰に差していた刀を抜き


「さて、あんたらも死んでもらうよ」

 冷たい目でたけぞう達を睨み、身構えた。



「ぐ、光竜剣!」

 三郎が刀を振るい、光竜の気を放つが


「ふん、その程度で僕を倒せるとでも思った?」

 勝満はそれを受けても無傷のまま、その場に立っていた。



「えーい!」

「はっ!」

「きゅー!」

 琉香が矢を、傳右衛門が霊光弾を、求愛が雷を撃つが


「無駄だよ」

 それらを尽く跳ね返した。


「それならば、鳳凰一文字大電撃!」

「火水波!」

 彦右衛門と香菜、たけぞうとお鈴がそれぞれ合体技を放つと


「ぬ?」

 それらが途中で合わさり、大きな光の渦となって勝満に向かっていった。


「……はあっ!」

 だが勝満は刀を大きく振るい、それらをかき消した。



「くそ、あれでも駄目だなんて」

「だがあれを素手で受け止めなかった。それなら当たりさえすれば」

 たけぞうとお鈴がそう話していると



「そうだけど、させないよ」

 勝満が再び刀を振るうと、そこから黒い衝撃波が放たれ


「ギャアアアーーー!?」

 全員避ける間もなくそれに巻き込まれ、傷つき倒れた。




 一方、元の世界では危機が去ったので余力が出来た八幡大菩薩が向こう側の様子を映し出していた。


「だ、大妖魔が八幡大菩薩様の弟だったとは」

「そんな方が相手では、いくらたけぞう殿達でも勝てないのでは!?」

 屋敷に戻っていた志賀之助と一学が口々に言うが


「いや、たけぞう殿と彦右衛門殿なら、大妖魔の心の闇を祓えるやもしれん」

 龍之介がそう言うが

「だがあの有様では……くそ、俺もあちらに行ければ三郎様達の盾となれたのに」

 源右衛門が拳を握りしめ、歯軋りしていた。




「もう立てないようだね。じゃあ」

 勝満が刀を振り上げた時


「させるかよ!」


 そこに天一と春菜、道鬼と長三郎の両軍師、精鋭部隊達が駆けてきた。


「お、連合軍のお出ましだね」


「そうだよ、

 天一が勝満をそう呼ぶと


「おや、分かるんだね」

 勝満が口元を緩めて言う。


「分かるってか、おいらと春菜にこの力をくれたの、あんただろ?」


「え……そ、そうなの?」

 たけぞうが倒れたまま言う。


「そうだよ。前世の僕はいつか世界を守れる者が生まれてきたら、その者に自分の残った力が宿るようにと術を施したんだ」

 勝満が頷いた。


「うん、けど返さないからね」

「そう言わずに返してよ。でないと君達まで殺さなきゃならない」

「やれるもんならやってみろ! 春菜、行くよ!」

「ええ!」

 天一と春菜が手を繋ぐと、その頭上に白く輝く剣が現れた。


「ふん、そんなもの……ぬ?」


 見ると勝満の全身に蒼く輝く言霊が浮かんでいた。



「二人共、今よ! その剣であいつを貫いて!」

 文車妖妃がいつの間にか立ち上がり、手をかざしていた。


「流石はだね。でもさ……はあっ!」

 勝満が気合を入れると、言霊が消し飛び


「うわっ!?」

「きゃあっ!?」

 その余波で天一と春菜が、それを受け止めようとした両軍師が吹き飛ばされた。


「な、何故? あれは神の力でも解けないのに」

 文車妖妃が震えながら言うと


「それ以上の力なら解けるよね?」


「!? こ、心の力を、あなたも使えると言うの!?」


「うん。さてあんたは殺さずに、後でゆっくりその体をね」

 勝満は少し下卑た笑みを浮かべた。


「嫌よ、そんな事されるくらいなら自爆してや……ぐ?」

 いつの間にか勝満が近づいていて、文車妖妃の鳩尾に一撃をくらわせていた。


「駄目だよそれは。さ、寝ててよ」


「……ぃ」

 文車妖妃はかすれた声で何か言った後、気を失って倒れた。


「よく聞き取れなかったけど、たぶん惚れた男の名前だよね。しかし僕にも見えないって、何?」

 勝満はやや首を傾げて言った。




「八幡大菩薩様、何か手は無いのですか!? このままじゃ皆が!」

 阿国が八幡大菩薩に縋り付くが

「……ぐ、ぬ」

 八幡大菩薩は良い案が浮かばないのか、苦悶の声をあげていた。

 すると


「あれならばいけるか。だがのう」

 長老がボソッと言う。


「え、何か手があるのですか!?」

 阿国が声をあげて長老の方を向く。


「あるのじゃが、あと一人足らんのじゃ」

「あの、それはどういう事でしょうか?」

 ジャンヌが尋ねると


「うむ。この世には三種の神器というものがあってな、それを使えば世界の破滅を防ぐとも言われておるがもう一つ、多くの者の力を集めて何処にでも送る事も出来るのじゃ」


「だが……いや、まずは」

 八幡大菩薩が手をかざすと、そこに見事な拵えの剣、勾玉、鏡が現れた。


「これを選ばれし使い手が一人一つずつ使えばいいのだが、長老殿が言う通りあと一人使い手が足りないのだ」

 

「じゃあ二人はここにいるのですね。それは誰なのです?」

 阿国が尋ねると

「そなたとジャンヌだ」

「え、私達が?」

 阿国とジャンヌが互いに顔を見合わせる。


「そうだ、大いなるものに選ばれし女性がな」

「私達が……あの、あと一人はどこにいらっしゃるのですか?」

 今度はジャンヌが尋ねるが


「探してはいるが未だ見えぬ。この世界のどこかにまだ居るはずなのだが」

「え、八幡大菩薩様でもすぐに分かるものではないと?」

「ああ。そなた達のように流れの中心、もしくは近くにいてくれればすぐに分かるのだがな」


「そうだわ、長老様はご存知無いのですか?」

 阿国が長老の方を向いて尋ねるが

「儂が知る限りでは、お二人以外にその資格があるのはお鈴殿と香菜殿じゃ」

「じゃあどちらかを呼び戻せば、って出来るならやってますよね」


「ああ。あの世界から人を呼ぶ事は出来ぬ」

 八幡大菩薩が顔をしかめて言った。


「あの、他の異界からならその資格がある人を呼べるのでしょ? だって俺を呼んだのだし」

 鮫蔵が側に来て言うが

「今からではおそらく間に合わぬ」

 

「そうですか……あ? ってそれも駄目だって事だよな?」

「ん? 今何を言おうとしたのじゃ?」

 長老が鮫蔵に尋ねる。

「え、はい。あのですね……と思ったのですが」


「それじゃ! その手があったわ!」

 鮫蔵の話を聞いた長老が杖を突いて叫んだ。

「え?」


「長老殿、何をする気だ?」

 八幡大菩薩が尋ねる。


「年の功と申しましょうかの。では」

 長老はゆっくり藤次郎と松之助の側に寄り


「二人共、皆を助ける為に力を貸してくれぬか?」

「はい!」

 藤次郎と松之助は元気良く返事をした。


「うむ。では儂の背中に手を当ててくれ」

 長老が促すと、二人は言われたとおり手を当て


「よし……はあああっ!」

 

 長老が気合を入れて杖をかざすと、そこに大きな白い渦が現れ……

 


「あ、あれ? ここは何処?」

 そこに現れたのは、腰に刀を指し衣服も侍のそれではあるが、顔つきは十四、五歳位の少女のよう、いや少女であった。

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