第88話「大妖魔の正体」
戦況は龍之介や鮫蔵、源右衛門一党が加わり、魔物達を押し返していた。
「ぐ、だが数はこちらが上。その勢いがいつまで持つかな」
烏天狗がそう言った時。
「そっちがいつまで持つかじゃろ」
「何?」
そこにいたのは、琵琶湖龍神族の長老と大勢の龍神達。
そして妖狸に一反木綿、烏天狗、他にも多くの妖怪達がいた。
「あ、お父に里の皆だポコ!」
「おいの仲間達もきちょる!」
「俺の兄達も」
かすみ、おキヌ、黒羽が口々に言う。
「妖狐達、怪我人が出た時は頼むぞい」
長老がそう言うと
「はい。では」
お鈴の祖父である村長と母の琴、妖狐達が屋敷へと走っていった。
「母上、お祖父様、里の皆も」
お鈴が映像を見つめて呟いた。
「皆の衆、かかれえ!」
おおー!
長老の号令一下、龍神や妖怪達が一斉に敵に向かっていく。
そして敵側はあっという間に数を減らしていった。
「お、おのれえ! こうなったら儂が皆殺しにしてやるわ!」
烏天狗が怒り叫びながら妖力を放ち、大爆発を起こすと
「うわああああ!?」
大勢の者がその爆風を受けて傷つき倒れた。
「み、皆大丈夫かの?」
長老が辺りを見渡して言うと
「は、はい。幸い死者は出ていないようですが、怪我人が多く出ました」
龍神の一人が答える。
「よし、動ける者は動けぬ怪我人を屋敷へ運ぶのじゃ!」
「では私達が奴の相手を!」
龍之介、志賀之助、一学、源右衛門、鮫蔵が烏天狗に向かっていった。
だが、五人がかりでも烏天狗は倒せず、徐々に傷つき、疲れが出てきた。
「く、くそ。これ程の強さだとは」
源右衛門が膝をついて言い
「くそ、いい手が浮かばない」
一学が
「い、いざとなったらワシが」
志賀之助がふらつきながらも身構えるが
「それはダメですよ。龍之介殿もですが、どうやら鮫蔵殿も奥様がいるそうです」
「む、そうでごんすか」
「くそ、俺達もあの力が出せたらいいのに」
鮫蔵がボソッと呟くと
「ん? あの力とは何だ?」
その声が聞こえた龍之介が尋ねる。
「あ、はい。知っているかもしれませんが……というものです」
「出来るかもしれんぞ」
「え?」
「皆、私の側に寄ってくれ!」
龍之介が皆に向かって叫ぶと、即座に全員が集まった。
「よし。では……はあああっ!」
龍之介の体が白く光輝くと
「え!?」
「なんじゃこれは!?」
「力が、溢れ出てくる?」
一学、志賀之助、源右衛門、鮫蔵の体もそれに釣られるかのように輝き出した。
「あ、あの。この力って呼び起こせるものだったのですか?」
鮫蔵が尋ねると
「ああ。正直一か八かだったが、上手く行ってよかった」
龍之介がほっとした表情になった。
「え、そんな事が出来たの?」
たけぞうが文車妖妃の方を向くと
「出来る人はいるけど、龍之介さんが出来るだなんて……なんで?」
文車妖妃も目を丸くしていた。
「何か知らんが、そんな事で儂を倒せると思うたか!」
烏天狗が攻撃を仕掛けようとしたが
「はあっ!」
龍之介が槍をかざすと、そこから光弾が放たれ
「!?」
烏天狗はそれを避けきれず、まともにくらった。
「お、おのれ、まだ」
「でりゃああ!」
その隙を突いた一学が二刀で烏天狗に幾度も斬りかかり
「せいやああ!」
鮫蔵が斧を振り上げ、烏天狗を真っ二つにしようとしたが
「ぐ、何度もくらうか!」
烏天狗はなんとかそれをかわした。が
「ふん、これは囮だ!」
「何? ウワアッ!?」
いつの間にか烏天狗の背後に回っていた志賀之助がその体を掴み上げ
「そりゃああ!」
「ぐふっ!」
烏天狗を地面に叩きつけた。
「ぐ、ぐ、かくなる上は、貴様らだけでも道連れに」
烏天狗がふらつきながら立ち上がり、気を貯め始めた。
「え、まさか自爆する気じゃ!?」
たけぞうが叫ぶと
「そうみたいだね。別に逃げ帰っても怒らないのに、真面目な奴だなあ」
大妖魔が呑気に言った。
「皆、ここは俺に任せてもらえないか?」
源右衛門が皆を見渡して言う。
「構わんが、何か手があるのか?」
龍之介が尋ねると
「ある。これで皆を守ってみせる」
源右衛門は少し笑みを浮かべて言う。
「そうか。頼む」
龍之介達は後ろに下がった。
「……」
源右衛門は何かの術を唱えながら思いに耽る。
俺は三郎様を闇の掃除屋のような事から解放させたかった。
それをいつから考えるようになったのかを、あの光のおかげで思い出せた。
最初にそう思ったのは、幼い頃に祖父から信康様の、御子孫の話を聞いた時だ。
あの時はずっと戦い続けねばならないなんて何故なの、と泣き喚いたものだ。
思えばその時の祖父も悲しそうな顔をして、高祖父もお前と同じように泣いたそうだと話してくれた。
その後、大きくなったら自分が妖魔を倒して皆様を楽にしてあげたいと思った。
長じてから里を出て……いつしか三郎様を天下人にと。
だが、今は使命に立ち向かう三郎様達をお守りする事こそ我らの役目。
そう思うようになった。
それからの俺は自分でも驚くほど腕を上げていった。
そして、あの光を浴びた途端、長年出来なかったこの術ができると思えた。
きっと御先祖様が俺を認めてくださったのだろうな。
その想いに答える為にも、この術で奴を倒す。
術を唱え続ける源右衛門の周りに風が集まり出す。
「死ねええ!」
烏天狗が叫びながら手をかざした時
「秘奥義・退魔殲撃烈風!」
源右衛門も手をかざすと、台風の如き風が吹き荒れ
「ギャアアアーー!」
烏天狗は粉々に砕け散って消えた。
「敵大将、討ち取ったり!」
源右衛門が高々と右腕を上げると、全員が鬨の声をあげた。
「な、なにあれ? てか、あいつをやっつけちゃうなんて」
たけぞうが呆けながら言うと
「あれってもしかすると、失われた秘伝忍術かも」
香菜が映像を見ながら言う。
「ん? どういう事だ?」
彦右衛門が尋ねると
「わたしが育った忍びの里には、わたしが授かった雷の秘伝忍術ともう一つ、風の秘伝忍術が伝わっていたそうです。元々は風神と雷神に見立てたもので、
「そうだったのか。それで、失われたとは?」
「わたしが里に住み始めた頃、当時村一番の使い手で風の継承者だった方が秘伝書を持って行方不明になったそうですが……あの人がもしかして」
「そうよ。あの人は里を捨ててまで行動していたのよ。全ては三郎さんとその一族の為にね」
文車妖妃がそう言うと、三郎は目頭が熱くなった。
そして、何故か黒羽が頬を染め、映像に映る源右衛門をジッと見つめていた。
「黒羽さあ、どした?」
おキヌが声をかけるが、黒羽はそれに答えず文車妖妃に話しかけた。
「文車妖妃殿、あの人って」
「歳は三十五歳よ。それと忠義一筋だったから、奥さんも想い人もいないわ」
「よし! それならいける!」
黒羽は握り拳を作って叫んだ。
「あららら。諦めてくれたのはいいけど、何だかなあ」
「黒羽は渋めの男が好みなのか。彦右衛門殿も渋めだしな」
香菜とお鈴が苦笑いし
「拙者はてっきり武人として好意を持たれていると思っていたが、そういう事だったのか」
彦右衛門がポンと手を叩くと
「……彦右衛門さん、鈍いというかズレてるのかも」
たけぞうがボソッと呟いた。
「うん。皆よくやってくれたよ」
大妖魔が映像を見つめて拍手を送っていた。
「あれ、松之助を攫えなかったのに褒めるんだ?」
たけぞうが首を傾げると
「そりゃそうだよ。だって僕、本当は依代なんて要らないんだし」
大妖魔がしれっと言った。
「え、じゃあ何が目的だったんだよ!?」
「向こうの残っていた強者を一箇所に集める為だよ。皆もすぐに帰ったりしないだろうからさ、後で一網打尽に出来るしね」
「何? では向こうへ行けない訳ではないのか?」
お鈴が尋ねるが
「行けないのは本当だよ。今の僕だと力が足りないんだよね」
「そうか。では力が戻らぬうちに倒させてもらう」
「戻ってなくてもあんたらくらい倒せるよ。そして力をつけてあっちに攻め込み、守護神八幡大菩薩を討ってやる」
「何!?」
皆が驚きの声をあげた。
「い、いくら大妖魔でも、八幡大菩薩様を討てると思うのか!?」
お鈴が詰まりながら叫ぶと
「討てるさ。だってさ、もう薄々気づいているんだろ?」
「ぐ、本当にそうなのか?」
「どういう事だ?」
黒羽が首を傾げると
「ねえ、さっきから思ってたんだけどさ、あいつって魂だけとか悪しき縁の塊に見えないんだけど?」
琉香が大妖魔を指しながら言うと
「正解。僕は人間と妖怪の間に生まれた者だよ」
「な、何だって!?」
「それとまだ名乗ってなかったね。僕の名は
大妖魔、勝満が名乗る。
「その名、偶然なのか?」
彦右衛門が尋ねる。
「今世も同じ名なのは偶然だけど、前世では僕を生み出した者達の一人から取ったんだって」
勝満が答える。
「前世だと? ……そうか」
彦右衛門が何かに思い当たる。
「やはり、あなたは」
「黒獅子が話していた通りなんだ」
お鈴とたけぞうが続けて言うと
「うん。僕の前世はこの世界の守護神だよ」
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