第80話「ブチ切れた彼」
一方別の場所では、悠と求愛が穴の奥へと進んでいた。
「皆無事かなあ」
「大丈夫だきゅ。皆がやられるはずないきゅ」
「そうだね。さ、行こうか」
「きゅ」
そして、やはり天井が高い空洞に出た時だった。
「あ、誰かいるきゅ」
「味方じゃないようだね」
二人はそこに立っていた者を見た。
「ほう、俺の所に竜神がやって来るとはな」
それは黒い虎の魔物だった。
手には細い刀を持っていて、剣術使いのようだ。
「悠、ボクがやるきゅ」
「うん」
求愛が前に出て身構え、
「ふふ、さあ来い」
黒虎が刀を構えた。
「じゃ、きゅー!」
求愛が雷を落とすが、
「はっ!」
黒虎はすかさずそれをかわし、求愛に斬りかかる。
「きゅ!」
だが求愛もそれをかわし、黒虎の頭目掛けて蹴りをいれる。
「ぬっ!?」
黒虎は素早く蹴りを避けようとしたが、少しかすったようだ。
「く、貴様は体術も使えるのか」
黒虎が間合いを取りながら言うと
「なめちゃダメだきゅ。ボクも拳法習ってるんだきゅ」
求愛が身構えながら言った。
「そうか、ならもう油断はせん!」
黒虎は先程までより速度を上げて攻撃し始めた。
「きゅー!」
求愛がその攻撃をかわしながら雷を落とすが
「き、きゅ。ボクより早いきゅ」
徐々に刀がかすり始める。
「ふふふ、お前もなかなかだが、本気の俺には及ばないようだな」
「きゅ……」
「死ね、はあっ!」
黒虎が求愛の胸目掛けて刀を突き出したが
「!?」
「はい、今度は僕が相手だよ」
いつの間にか悠が黒虎の腕を掴んでいた。
「な、何!?」
「はあっ!」
悠は回転しながら黒虎を投げ飛ばす。
だが、黒虎は軽々と着地して間合いを取った。
「く、柔術使いか。ならば組まれる前に倒す!」
黒虎が矢継ぎ早に刀を振るい、突き刺そうとするが、悠はそれを軽々と避けていった。
「ぬっ、なんて素早さだ!?」
黒虎が驚きの表情を浮かべると
「いや、僕はそこそこすばしっこいつもりだけど、あなたには負けるよ」
悠が余裕の表情で言う。
「嘘をつけ! だったら何故避けられるのだ!」
黒虎が叫ぶと
「それはね、僕は相手の体つきを見れば、おおよそどんな動き方をするか分かるからだよ」
悠が間合いを取って言った。
「な、何だと!? そんなデタラメな能力があるのか!?」
「うん。僕は医者だからね」
「医者は関係ないだろがあ!」
「あるよ。そうでないと何処が悪いか分からないだろ」
「ふ、巫山戯るなあ!」
黒虎が悠を突き刺そうとしたが
「僕の得意技、見せてあげるよ」
悠はすかさずそれをかわし、黒虎の右腕を両手で掴み、右足で払い上げ
「うりゃああ!」
「ぬおおおっ!?」
勢いよく地面に叩きつけた。
「求愛!」
「きゅー!」
求愛が倒れた黒虎目掛けて雷を落とすと
「ギャアアアーーー!」
黒虎は黒焦げになった。
「ふう、やったね」
「悠、いつの間にあんなに強く……」
求愛が悠に声をかけようとした途端、糸が切れたかのように倒れた。
「!?」
悠が駆け寄って見ると、求愛は背中から斬られていた。
「ふ、油断したな。俺はまだ死んでないぞ」
黒虎がいつの間にか立ち上がり、求愛を斬っていたようだ。
「しっかりして!」
だが、悠は黒虎に気づいていないのか求愛の応急処置に夢中だった。
「不本意だが、勝ち方に拘っている場合ではないからな……死ねえ!」
黒虎が二人に近寄り、一刀両断にしようとしたが
「ぬおっ!?」
何かに弾かれ、思わず尻餅をついた。
「……」
悠はゆっくりと黒虎の方を向き、近づいていった。
「ぬ!? な、なんだこの殺気は!?」
黒虎は悠の気に押され、立ち上がれなくなった。
そして
「……てめえ、おれの女に何さらしとんじゃああ!」
悠が荒い口調で叫びながら黒虎を掴み上げ
「!?」
その顔面を殴り飛ばし
「オラァッ!」
「グフォッ!」
腹を蹴り飛ばし
「オラオラオラオラオラー!」
黒虎の両足を掴み、何度も振り上げては地面に叩きつけた。
「へえ、まだ死んでねえのかよ」
悠が氷のような冷たい目で黒虎を睨みながら言う。
「な、なんだその力は? 隠していたのか?」
黒虎が倒れたまま尋ねると
「あ? 妖魔にゃ分からねえか。人は心の力で強くなれるんだぞ」
「なん、だと……?」
「さあてと」
悠は何処からか出した短刀を逆手に持ち
「求愛を傷つけた罪、死んで詫びやがれえ!」
黒虎の心臓を突き刺すと
「グギャアアアーーー!」
黒虎は塵となって消えた。
「ゆ、悠?」
気がついた求愛が震えながら起き上がった。
「あ、求愛。大丈夫?」
悠が元の口調に戻り、笑みを浮かべて尋ねると
「そっちが大丈夫かきゅー!」
求愛は思いっきり叫んだ。
「はは、驚かせてごめんね。ついキレちゃった」
「い、いいきゅ。しかし悠ってあんなに強かったのかきゅ?」
求愛が首を傾げると
「ああ、実は僕、竜神王様から力を貰ってたんだよ」
「きゅー!? い、いつだきゅ!?」
「求愛と初めて口づけした日の夜、竜神王様が夢枕に立ってね。なんで僕に力をくれるのか聞いたら、いつか力を出した時に求愛に聞けって」
「……あのね、竜神王様はね、ボクの母方のお祖父ちゃんだきゅ」
求愛がゆっくりとそう言った。
「へ、そうだったの!?」
「そうだきゅ。というかボクもつい最近竜神王様がお祖父ちゃんだと知ったきゅ」
「え、何で今まで」
「内緒だったのかは教えてくれなかったけど、なんとなく分かるきゅ。もし小さい頃から竜神王様の孫だと知ってたら」
「ああ、変に威張ったりして心が成長しないからと」
「うん。きっとそうだきゅ」
「ところであれ、竜神の力じゃなかったきゅ」
「うん、分かるよ。兄さん達や彦右衛門様も使ってる『心力』だよ」
「きっとお祖父ちゃんが力をくれたから、出やすくなったんだきゅ」
「そうかもね。しかし僕、認めてもらってるのかな?」
「そうでなきゃ力あげたりしないきゅ」
「だね。さて、これが終わったらちゃんと挨拶しに行くよ」
「きゅ」
悠と求愛は更に奥へ進んで行った。
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