第78話「上陸」
「……ん? あ、あれ?」
気がついたたけぞうが辺りを見渡す。
「大丈夫?」
文車妖妃がたけぞうに話しかけた。
「うん。あの、あいつは?」
「私がやっつけたわよ」
「あいつをって、文車妖妃さんって本当に強いんだね」
「ふふふ。でもたけぞうさんには勝てないわよ」
「そ、そうかなあ?」
「ええ。さて、皆気がついたら戻りましょ」
その後、たけぞう達は女性達を連れて助五郎の店に戻った。
「あ、ありがとうございました。うう」
番頭は涙を流しながら、たけぞう達に頭を下げた。
「お父つぁんごめんなさい。私が言うことを聞かなかったから」
番頭の娘も泣きながら言う。
「いいんだ。無事に帰ってきてくれたのだからな」
「おお、無事だったんだな」
そこにやって来たのは鍛え抜かれた体つきで、いかつい顔の男性だった。
「あ、親分さん。お体はもういいのですか?」
助五郎がその男性、任侠の親分に話しかける。
「へい、悠さんのおかげですっかり良くなりやしたぜ。ありがとうございやした」
親分が悠に向かって頭を下げると
「いえいえ。僕は医者として当然の事をしただけです」
悠が手を振って言った。
「親分さんは私達のせいで怪我したんですよね、ごめんなさい」
娘が親分に向かって頭を下げた。
「気にすんなって。俺はここで暮らす皆が、この町が好きなだけさ」
親分はそう言った後、たけぞう達の方を向き
「あの、皆さんに聞いてもらいてえ話があるんだが、いいでやすか?」
「へえ、どんな話?」
たけぞうが尋ねる。
「へい。行き倒れになってた妖怪から聞いたんでやすが、なんでも大妖魔ってのは人間のガキの姿してるらしいんでさ」
「え!?」
「あの、それはいつ頃の話ですか?」
お鈴が尋ねると
「俺達が山に向かう前の事でさあ。で、その妖怪は大妖魔を討とうとして島へ行ったそうだが、なんとか手傷を負わせたものの、結局負けて逃げ帰ったと言ってやした」
「そうでしたか。それとその方は結界について何か言っていましたか?」
「結界でやすか? そんな事は言ってやせんでした」
「手傷をと言うが、おそらく相当な深手を負わせたのではないか?」
「そしてそんな相手がまた来られては厄介だからと、結界を張った?」
彦右衛門と香菜が続けて言う。
「結界に関してはそうみたいね。でも大妖魔は人の姿に近いけど、大人だったはずよ?」
文車妖妃が首を傾げた。
「親分さん、その妖怪殿は今どうされているのです?」
お鈴がまた尋ねると
「この話をいつか現れる救い手に伝えてほしいと言った後、力尽きやした」
親分はそう言って頭を振った。
「……」
お鈴が手を合わせて妖怪の冥福を祈り
「ありがとうね。おかげで大妖魔が無敵じゃないって分かったよ」
たけぞうが上を向いて呟いた。
それから数日後、天一と春菜が率いる連合軍が町にやって来た。
町の人々は予め知らせを受けていたので、あまり混乱せず連合軍を迎えた。
「うん、分かったよ」
「は~い」
二人共話を聞いて即座に了承した。
「伝説の光の玉をこの目で見れるとは、長生きはするものだな」
道鬼が玉を見つめながら言う。
「じじ様、知ってたのなら言えよ」
天一が突っ込むと
「いや、本当にあるとは思わんかったからな。鬼族もかつて祖先が作ったらしいと言っていたが、誰もその玉の在処を知らなかったのだし」
「元々持っていた鬼さんの家で秘密にしていたのよ。悪しき者に奪われない為にね」
文車妖妃がそう言った。
「あの、光の道とは何処へでも行けるものなのですか?」
長三郎が尋ねる。
「ええ。長三郎さんは何処か行きたい場所があるの?」
「はい。まだ誰も知らない場所へ」
「ふふふ。それなら光の玉を使わなくても、妖怪さんと力を合わせれば行けるわよ」
「そうだな。蒸気で動く船や大空を駆ける絡繰の製造方法も伝わっているし、他にも色々あるぞ」
道鬼が話に入って言う。
「え、作り方があるなら、何故それらを作らないのですか?」
「そうしたいが、今の我等にはそれを実現できるだけの技術力が無いのだ。だが人間は様々なものを作れる技術がある」
「では、これからは」
「ああ。共に皆を豊かに出来るものを作る為、力を合わせて行こうではないか」
その後、たけぞう達と連合軍は町から南西にある高台に着いた。
「じゃあ皆。それぞれが大事にしている人を思い浮かべながら、玉を掲げて」
たけぞう、お鈴、彦右衛門、香菜、三郎、天一、春菜が光の玉を掲げた。
すると玉が、いや七人の全身が白く輝きだし……。
その光が合わさり、七色の虹と化して大妖魔がいるであろう島へと伸びていった。
「成功ね。結界が消えて道が出来たわ」
文車妖妃が頷く。
七色の光の道を見てあるものは手を合わせ、またあるものは感激のあまり涙を流していた。
「拙者とたけぞうは二度目だが、何度見ても不思議なものだな」
彦右衛門が道を見つめながら言う。
「そうだね。さ、行こう」
そして一同はたけぞう達を先頭に光の道に乗り、島へと進んでいった。
「実はあたしも二度目なんだけどね」
琉香がボソッと言うと
「僕達もここへ来る前にね」
「きゅ」
悠と求愛も小声でそう言った。
「ここが大妖魔の本拠かあ」
その島は草も木も何もない、ただ灰色の大地があるだけの場所。
ただ遠くに城らしきものが見える。
「ん? どうやら歓迎してくれるようだぞ」
お鈴が前を見ながら言う。
「うん。たくさんいるね」
いつの間にか少なくとも一万は下らないであろう骸骨兵達がいた。
「雑魚はおいら達に任せてよ」
「皆さんは大妖魔の所へ」
天一と春菜が続けて言う。
「うん。武運を祈るよ」
「そっちも気をつけてね」
「皆さん。その前に拙者に一度、新たな技の試し打ちをさせてもらえませんか?」
三郎が刀を取りながら言うと
「いいけどさ、それで力尽きたりすんなよ」
天一がニヤつきながら言う。
「はは、大丈夫ですよ。では」
三郎が刀を構え、目を閉じて気を集中する。
すると切っ先がボウ、と光り輝きだした。
そして
「……光竜剣!」
三郎が技の名を叫びながら刀を振ると、そこから光り輝く竜の形をした気功弾が放たれ
「ギャアアアーーー!」
轟音を立て、骸骨兵の一部を吹き飛ばした。
「う、うわあ、あれ本家と互角じゃない?」
たけぞうがやや怯みながら言い
「あ、ああ。それに今のはまさに神力では?」
彦右衛門も震えながら言うと
「三郎さんは徳川信康様の子孫。その信康様の母、瀬名様の父は今川家一門の血筋。そこを遡れば八幡太郎義家様に、帝に、そして天照大御神様に……だから三郎さんがあの力を使えても不思議じゃないのよね」
文車妖妃が二人に向かって言った。
「では三郎殿の、信康公の退魔の力は」
「そういう事よ」
「そうだったんだ」
「よし、皆なるべく固まって戦え!」
天一の号令を受けた兵達が骸骨兵達に向かっていき、たけぞう達は城へと走っていった。
そして、たけぞう達は何事もなく城の前まで来た。
「あれ? 誰もいないんじゃないかな?」
「そうだな。大妖魔どころか何の気配も」
たけぞうとお鈴がそう言った時、大きな音を立てて地面が割れ
「うわあっ!」
全員が地割れの中に落ちていった。
「ふふ、あの結界を破るとはね。でもここまで来れるかな?」
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