第77話「いつか言える日が」
文車妖妃は自分は転生者だと言った。
「やっぱりかよ。じゃあ仲間じゃんか」
青年がそう言うと
「誰があなたなんかの仲間よ。この女たらしの変態が」
文車妖妃が青年を睨みながら言う。
「そんな事言うなよ。何度も言うけど、ひでえ事はしてねえぞ」
「でも洗脳したでしょ」
「ま、まあな。けどいいじゃねえか。神様だかなんか知らないけど、勝手に殺しといて世界を救えってんだから、このくらいの役得があってもいいだろが」
「ふうん。という事は、大妖魔を倒す気があるの?」
「ああ。あいつがいたらモテモテハーレム出来ねえしな。それにそうすれば、いちいち洗脳しなくても向こうから……ひひ」
それを聞いた文車妖妃は、呆れて物が言えなくなった。
「っと、あんたってどの時代から生まれ変わったんだよ?」
青年が尋ねると
「西暦で言うと2000年代ね」
「お、じゃあ同じ頃かもな」
「ええ。私の力で見たけど、同年代のようね」
「そっか。なあ、同じ時代から来た者同士なんだし仲良くしようぜ」
「あなたが変態じゃなかったら大歓迎だったけどね」
「変態変態言うなよ。あんただってその美貌とでっけえ胸で男を誑かしたんだろ?」
「ふふ。自分で言うのもなんだけど、たしかに私に見惚れる野郎は多いし、ちょっとは得意気にもなったわ」
「そりゃそうだろ。あんたは俺の知る限りじゃ一番の美人だぞ」
「どうも。でも転生前の私は正反対だったわよ」
「へえ、でも中身は一緒だろ。あんたはなんつーか内面の美しさって言えばいいのかなあ、そんなのも感じるぜ」
「そう言ってくれたのは、あなたで二人目ね」
文車妖妃は苦笑いしながら言った。
「俺が二人目かあ。じゃあ一人目ってのはさぞいい男だったんだな」
青年がニヤつきながら言う。
「何で男性だと決めつけるのよ?」
「あれ、違うのか? てっきり男だと、そしてあんたが惚れてた奴かと」
「……正解よ。というかそれ、神の力じゃなく素で言ったわね」
「そのくらい分かるよ。で、どんな奴だったんだよ?」
「……いいわ、皆まだ気を失っているし、あの時代の事も遠慮なく言うわね」
そう言って文車妖妃が話しだした。
私はね、転生する直前は高校生だったの。
さっきも言ったけど、今とは正反対で美人とはいえない、痩せてて暗くて、本ばかり読んでた女の子だったわ。
そんなだから、入学した時からいじめにもあったわ。
それでもなんとか耐えていたけど、二年生になったある日、祖母の形見であるお守りを不良グループに盗られたの。
そしてあろうことか、それを川に投げ込まれた。
私は慌てて川に入っていったわ。
幸い小さく浅かったけど、流されたのかお守りは見つからなかったわ。
それでも必死になって探していたら、ちょうどそこを通りかかった同じ学校の制服を着た男子生徒が声をかけて来たの。
私はちょっとイラつきながらも訳を話した。
するとその彼は一緒に探すと言ってくれたの。
いやいいからと遠慮したけど、二人で探した方が早いでしょってさっさと川に入って探し始めてくれた。
でも、やっぱりなかなか見つからなかった。
気がつけば暗くなっていた。
浅いとはいえ危ないし、もういいと言ったけど
「諦めたら二度と見つからないかもしれませんよ」って。
そして日付が変わる前、彼が見つけてくれたの。
にっこり微笑みながら「これですか?」って。
思わず大泣きしちゃったわ。
嬉しくて、嬉しくて……。
帰り道、自己紹介した後でいろいろ聞いた。
彼は一学年下で、この春に入学してきた子だった。
顔はイケメンとは言えないけど、優しげな雰囲気の子。
「しかし災難でしたね」
「ええ、私ってぶさいくだからよくいじめられるのよ」
「そんな事ないですよ。先輩ってなんか心が綺麗に見え……あ、ごめんなさい」
彼は気まずそうに横を向いた。
言われたこっちも頬が熱くなったわよ。
それと、すっごくドキドキしていた。
え、相手は年下。
でも、一歳違いなら。って何考えてるの私。
……あ。
その時から、私は彼に心を奪われた。
そしてね、私はありったけの勇気を振り絞って、頑張って、ラブレターを書いた。
いつか渡そうと思って。
でも、渡せなかった。
もし断られたらどうしようって。
何度も会う機会があったけど、怖くてあと一歩が踏み出せなかった。
そうこうしているうちに、時が過ぎた。
もうすぐ卒業。
私は東京の大学に進学するつもりだった。
もしかするともう会えないかも。
これが最後のチャンス、と思って彼に会おうと学校へ向かっている途中。
暴走したトラックに撥ねられた。
「そして死んだ後、私の前に天照大御神様が現れたわ。転生して妖怪文車妖妃となり、この世の理の管理者となってほしいってね」
「なあ、そんな酷い目にあっといて神様に復讐しようとか思わなかったのかよ?」
青年がそう言うと
「泣いて謝られたわ」
「は?」
「私は本来、死ぬ運命じゃなかったみたいなの。でもね、妖魔のせいで運命が狂ったらしいの」
「じゃあ生き返らせてやればよかったのに」
「いくら狂ったからとはいえ、死の運命を変えてしまうと時の流れに悪影響が起こるのよ」
「そっか。なあ、俺の力であんたを元の時代に送ってやろうか?」
青年がそんな事を言った。
「え、あなたそんな事出来るの?」
「出来るぞ。ただし一度死んでもらうけど」
「ようするに、転生術が使えると言う訳ね」
「まだ試した事ないけど、頭にやり方がはっきり浮かんでいる」
「遠慮するわ。成功するとは限らないのだし」
「するって。なあ、転生してどのくらい生きてたのか知らねえけど、ずっとそいつを想ってるんだろ?」
「ええ」
「じゃあ戻れよ。恨んどいてなんだけど、神様だってあんたがそれを選んでも文句言わないと思うぞ」
「ふふ。あなたって手段を間違えなければ、神の力が無くてもモテるわよ」
文車妖妃が少し笑みを浮かべる。
「は?」
「だからね、女性達を解放して普通に生きなさい」
「やだね。俺は大妖魔を倒して、この世界全部をハーレムにしてやるんだよ」
「……そう。残念ね」
「え、なあっ!?」
いつの間にか青年の周りに、青白く輝く文字のようなものが浮かび上がっていた。
「な、なんだよこれは!」
「これが私の力。言霊を力に変えて攻撃出来るのよ」
文車妖妃がそう言うと
「お、俺は無敵じゃなかったのかよ!?」
「そんな事が出来るなら、この世に不幸は無いわよ」
「そんな……な、なあ頼むよ。女の子達を帰すから、殺さないで」
「無理。というより、これはあなたを救う手でもあるの」
「何処がだよ!?」
「欲に溺れた転生者はね、いずれ天界の使者に魂ごと消されるのよ」
「え?」
「でもあなたは私の話を聞いて、本気でなんとかしてくれようとしたわ。だから私があなたを倒してあげる。そうすれば消されないからね」
文車妖妃がそう言った後、周りの言霊が刃となって青年に襲いかかり
「ウワアアアアーーー!」
青年は粉々になって消えた、と思ったが
「しぶといわね。まだいるだなんて」
文車妖妃の目線の先には、魂だけになった青年がいた。
- ああ、今頃見えたんでな。それを言うまではと思ったよ -
「あら、何かしら?」
- あんた本当は死ななくても元の時代に行く方法、知ってるんだろ? -
「……ええ」
- だったら行けよ、そして言えよ。その方がいいって -
「ありがとね。でも、もう少し時間が欲しいわ」
- そっか。ま、言わないままはやめとけな。それじゃ -
青年の姿が消えた。
「ええ……いつかは」
文車妖妃は一人、そう呟いた。
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