第76話「敵は……そして、彼女は」
たけぞう達が着いた場所は、小さな山の麓だった。
頂上には城らしき建物がある。
「敵はあそこにいるんだね」
たけぞうがそこを指差しながら言うと
「それにしては気配を感じぬな」
「気を押さえているのかもしれませんよ」
お鈴と香菜が頂上を見ながら言う。
「親分さんに聞いたのですが、敵には刀はおろか鉄砲も効かなかったそうです」
悠がそう言うと
「では霊光弾も通じないのでしょうか?」
傳右衛門が尋ねる。
「並大抵の威力では効かないかもね」
文車妖妃が言う。
「それでは大妖魔より強いのですか?」
「実際に見てみないと分からないわ。とにかく行ってみましょ」
そして頂上に着き、城の中に入ると
「何、これ?」
そこには薄着の女性達が思い思いに過ごしていた。
寝そべったりお喋りしたり、ご馳走を食べていたりと。
「どうやら女性達に手荒な事はしていないようだな」
「だが皆洗脳されているようだぞ。俺達を見ても反応が無い」
お鈴と黒羽が女性達を見ながら言う。
「うう、すみません。少しだけ羨ましいと思ってしまいました」
「気にしすぎだ。誰だって少しは思う」
傳右衛門が項垂れているのを三郎が慰めていた。
「とにかくさ、攫った奴をやっつけようか」
たけぞうがそう言った時
「あ、何だあんたら? もしかして女の子達を取り返しに来たのか?」
現れたのは散切り頭で浴衣姿の青年だった。
「そうだよ。ところであんたがこの人達を誑かした張本人だね」
たけぞうが尋ねる。
「誑かしたなんて言うなよ。皆俺の事が好きでここに来たんだぞ」
青年がそう言うが
「ふん。本当にそうならまだしも、それは神の力でだろうが」
お鈴が鼻で笑いながら言う。
「え、それを知ってるって、あんたら何者だよ!?」
「何者って、あんたが攫った女性達を助けに来た者だよ」
たけぞうがそう言うと
「だから無理やり連れてきてねえよ!」
青年が叫んだ。
「とにかくその女性達の家族が泣いているから、返せ」
お鈴が身構えながら言う。
「嫌だね、どうしてもってなら腕尽くでやってみろ」
そう言って青年が身構えると
「隙だらけだな。どうやら武術の才まで授かった訳ではないらしいな」
「そうですね。さ、やっつけちゃいましょう」
彦右衛門と香菜が前に出て身構えた。
「来いよ。俺にはどんな攻撃も効かな」
「鳳凰一文字斬!」
「退魔雷轟電撃!」
彦右衛門が刀から衝撃波を、香菜が忍術で雷を落とすと
「ギャアアアーーー!?」
それをまともに受けた青年は悲鳴をあげて倒れた。
「効いてるじゃんか」
「いや、二人の技が強烈過ぎなのだろ」
たけぞうとお鈴がボソッと呟いた。
「って、何でそんな技使えるんだよ!? もしかしてあんたらも転生者か!?」
だが大した事がなかったようで、すぐ起き上がった。
「ん? それ、前世の記憶を持ったまま生まれ変わった者よね」
文車妖妃が尋ねる。
「あ、ああそうだよ。俺は今から約三百年後の未来から生まれ変わって来たんだ」
「だとするとまた厄介ね、力はともかく未来の知識がありそうだし」
「俺の頭はそんなに良くねえよ。っと、あんたらはまともにやっても勝てねえだろから……これでもくらえ!」
青年がそう言って手をかざすと
「ぐっ!?」
「な、なんですかこれ!?」
「あ、頭が」
たけぞう達が頭を抱えて苦しみ出した。
「心配しなくても殺しはしないよ。ただちょっと眠ってもらった後、洗脳するだけだからさ」
青年がそう言うと
「ぐ、ぐ、負けてたまるか」
「あ、ああ」
皆一斉に身構えた。
「う、嘘だろ? これ喰らってここまで耐えた奴なんかいなかったぞ!」
青年は驚きの声をあげた。
「きゅー!」
求愛がその隙をついて電撃を放つが
「おおっと!?」
青年はなんとかそれをかわした。
「万全だったら当たってたのに、きゅ」
求愛が力尽きて倒れ
「う、きゅ、あ」
悠が
「ぐ、ぐ、おいももう駄目じゃ」
「ゴメン、ポコ」
「チュー……」
おキヌが、かすみが、鼠之助が続けて倒れた。
「み、皆さん……おのれ、これでもくらえ!」
傳右衛門が力を振り絞って霊光弾を放つと
「うおっ!?」
命中はしたものの、倒せる程ではなかったようだった。
「む、無念」
そして傳右衛門も倒れた。
「う、う」
「琉香、まだ矢を放てるか?」
黒羽が尋ねる。
「な、なんとか一回だけなら」
「それでいい。俺が合図したら射ってくれ」
「う、うん」
「ん、何する気だよ?」
青年が尋ねると
「こうするのだ。とりゃああ!」
黒羽が錫杖を地面に叩きつけた。
すると地面が思いっきり揺れ
「ぬおっ!?」
青年の体勢が崩れた。
「今だ!」
「うん、えーい!」
琉香が渾身の力で矢を放つと
「ごああっ!」
それが青年の胸に当たった。
「こ、これでどうだ?」
「……駄目みたい」
「今のは痛かったぞおお!」
青年が矢を引っこ抜きながら叫ぶ。
「くそ、すまない……兄者達、後は頼む」
「う、う」
黒羽と琉香も倒れた。
「うん、あれで痛がるなら、全員で一斉攻撃すれば!」
たけぞう達が身構えると
「させっかあ! 全力でやってやるわああ!」
青年が両手をかざして気合を入れた。
すると
「あ、あ」
「ぐっ」
「く、くっそ。もう……」
たけぞう、お鈴、彦右衛門、香菜、三郎も倒れた。
「ふう。さてと、こいつら強いし男達は護衛にすっか。女の子達はどうすっかな?」
「まだ残っているわよ」
「え?」
声がした方を見ると、文車妖妃が何事もないかのように立っていた。
「え、もしかして、全く効いてない?」
青年が呆けながら言うと
「ええ。だってその力は、同じ性質のものには通じないのだからね」
「は? ……え、まさかあんた?」
「そう、私も『転生者』。妖怪に生まれ変わった元人間よ」
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