第75話「秘宝の正体」
たけぞう達が現実世界に戻ると、先に目が覚めていた永が助五郎に抱きつき、涙した。
それを見た番頭や使用人達も嬉し泣きしていた。
しばらくして
「皆様が来てくださらなければどうなっていたか……ありがとうございました」
助五郎と永が頭を下げる。
「ううん。おれ達より吉之助のおかげだよ」
「そうですね。私達だけでは上手く行かなかったかもしれません」
たけぞうとお鈴が続けて言う。
「いえ。おかげ様で息子とまた過ごせました。それに」
「また子供を……吉之助の分まで、今度こそ」
二人が目を潤ませながら言った。
「ああそうだ、仰っていた秘宝とやらが必要なのでしたね」
助五郎が涙を拭いながら言う。
「うん、ちょっと貸してくれないかな? ちゃんと返すからさ」
「いいえ、差し上げますよ。私が持っているより皆さんが持っていた方がいいと思います」
永がそう言って立ち上がり、部屋に置いていた箪笥から取り出したのは
「やはりこれだったんだね」
白く輝く七つの玉だった。
「これが何か知っているのか?」
お鈴が尋ねる。
「これは光の玉と言ってね、一人一つずつ持って念じれば何処でも好きな場所に行けるものなんだよ。あの世界にもあってね、そこで使ったんだ」
「そんなものがあるとは……」
「奥方、これを持っていた方とはどんな方なのです?」
彦右衛門が尋ね
「そういえば内緒にしてくれと相手から言われたのだったな?」
助五郎が続けて言うと
「ええ。でももうお話します」
永が居住まいを正し、話し出した。
「かつて私が迷子の子供の親を見つけたという話はしましたよね。その子供は実は、鬼の子だったのです」
「何だって!?」
助五郎が驚きの声をあげ
「やはりか。これは鬼族がこしらえた物だと聞いたのでな」
「そういやそうだね。彼も鬼族だったもんね」
彦右衛門とたけぞうが頷きながら言い
「ああ、あの子の事か」
お鈴も知っているようで、頷いた。
「でもその親御さん、お礼とはいえ何故そんな凄いものを?」
香菜が尋ねる。
「その鬼さんは占いも出来るようでして、これがいつか役に立つ日が来るからとの事でした」
永が光の玉を見つめながら言った。
「そうだったのか。では早速」
お鈴がそう言うが
「ちょっと待て。ただ目的地へ行くならここにいる皆で使えばいいが」
「あ、そうだったね。結界を破るにはたしか、特定の七人が使わないとダメだった」
彦右衛門とたけぞうが続けて言う。
「そうだ。拙者とたけぞうはその資格があるが、あと五人はこの中にいるのか?」
「文車妖妃さん、どう?」
「まず三郎さん、それとお鈴さんと香菜さんよ。あと琉香ちゃんと悠さんも素質はあるんだけど、まだちょっと力が足りないわね」
文車妖妃が答えた。
「そうなのね。ねえ、あたしの両親は?」
琉香が尋ねる。
「両方資格があるわよ。あと悠さんのお兄さんもね」
「ですよね。兄は流れの中心となる人ですから」
悠が頷きながら言う。
「流れの中心、という事は後は天一様と春菜様?」
今度は香菜が尋ねる。
「そのとおりよ。だから二人が連合軍を率いて来るまでは待機ね」
「分かりました。しかしわたしもだなんて」
「香菜さんは自分でも気づかないうちに人々に明るい道を指しているの。充分資格はあるわよ」
「さて、しばらく滞在されるのでしたらどうぞ我が家で」
助五郎がそう言った時
「あ、あの。おそれながらお願いが!」
番頭が土下座する勢いでたけぞう達の前に出た。
「え、どうしたの? お願いって何?」
「只事ではなさそうだな。番頭殿、落ち着いて最初から話してください」
たけぞうとお鈴が続けて言った。
「は、はい。実は」
番頭が言うには、自分の娘がとある男に惚れてしまった。
それだけならまだいいのだが、どうもその男が女たらしのようで、他にもたくさんの女性を口説いているとか。
それと噂では男は魔物の類らしく、何かとんでもない事を企てているとか。
それを知った番頭は娘を説得したが聞かずに家を出て、男の元に行ってしまったそうだ。
「そしてうちの娘だけじゃなく、他にも多くの娘達が奴の元に……ううう」
番頭は涙ながらに言う。
「そうだったのか。何故もっと早くいや、私を気遣ってくれたのだな」
助五郎がそう言うと
「はい。それで他の大店のご主人達とどうしたものかと話していたら、噂を聞きつけた任侠の親分さんが『自分達が魔物を退治してくる』と子分さん達を引き連れ、出かけていったのですが……全員大怪我をして戻ってきました」
「あの方達か。それで具合は?」
「命は取り留めましたが、親分さんはまだ寝込んでいます」
「そうか。あの方達が他所から流れてきた荒くれ者達を纏めてくれるので、この町の者は安心して暮らせているのだ。早速お見舞いに伺おう」
「僕も着いていって、その方達を診察していいですか?」
悠が手を上げて言うと
「ええ、お願いします」
そして悠と求愛が助五郎に着いて行った後、たけぞう達は策を練る事にした。
「ねえ、そいつってまさか大妖魔の手先?」
たけぞうが尋ねるが
「違うわよ。そいつはどうやら別の異界から来た、というより天照大御神様がこの世界をなんとかしようと私達の前に送り込んだ者みたいね」
文車妖妃がそう答えた。
「え?」
「けどそいつは授かった力を悪用し、女性達を誑かしているようね」
「そんなけしからん輩、拙者達で退治してくれましょうぞ」
彦右衛門が刀を取って言う。
「ですが相手は神の力を授かった者ですよね。我々でなんとか出来るでしょうか?」
三郎が首を傾げると
「全員で行かないと厳しいかもしれないわ。たけぞうさん達は休んでいて欲しかったけど」
「いいって。さて、悠達が戻ってきたら行こうか」
その後、たけぞう達は敵がいるという近くの山に向かった。
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