第70話「真の仇討ち」
たけぞう達は巨大化した魔物に向かっていき、斬りつけたりしたが……。
「ぜえ、ぜえ。あいつ全然堪えてないよ」
たけぞうが息を切らしながら言う。
「フハハ。今の俺は妖魔一頑丈なのだ。貴様ら如きでは倒せんわ!」
魔物が笑いながら言う。
「ぐ、あやつの攻撃は弱いが、このまま戦い続ければ」
「いずれこちらが。その前になんとか」
彦右衛門と三郎が身構えた。
「そうそう。たしかに俺の力は弱いがな、この頑丈さで耐えている間に少しずつ気を練っておけるのだ。そして」
魔物が両手を上に掲げると
「あ、危ない! 皆伏せて!」
「死ねえええ!」
黒い波動が起こり、勢いよく一帯を覆い
「ぐ、あ……」
「だ、大丈夫か!?」
人間軍、妖怪軍の大半が深手を負った。
「あ、危なかったきゅ」
求愛はとっさに気で障壁を作り、春菜や道鬼達を守っていたが
「ごめんきゅ。全員は無理だったきゅ」
倒れている者達を見ながら言った。
「仕方ないよ。さ、怪我人の治療を」
悠がそう言って駆けて行った。
「あ、あんな化け物、どうやって倒せと」
長三郎が震えながら言い
「妖怪族に伝わる奥義ならば……いや」
道鬼がそう呟く。
「え、そんな奥義があるのなら」
「かの奥義は儂はおろか天一でも出来ぬ。いや妖怪族の歴史上でも、使い手は殆どいないのだ」
道鬼はそう言って首を横に振る。
「では手が無いと?」
「ああ。たけぞう殿達とて手があるなら、もうしているはずだしな」
「あの、天一のお父様はその奥義を使えたのですよね」
春菜が尋ねる。
「そうだが、何故それを知っているのだ?」
「そんな事より、それって本当に天一でも無理なのですか?」
「今のあやつでもあれを放つ力が足りぬのだ」
「じゃあ、わたしが足りない分を足せばどうですか?」
「な? いや、いかに姫君が優れた法力使いでも、妖怪の奥義に触れては御身が持たぬかもしれんぞ」
道鬼はそう言って春菜を止めるが
「大丈夫。天一となら絶対無事に成功します。それじゃ」
春菜は天一の方へ駆けていった。
「あ、待て」
「いえ道鬼殿、行かせてあげてください」
長三郎が道鬼に言う。
「な、何を言われる!? 姫君が心配ではないのか!?」
「天一様と一緒なら大丈夫でしょう」
「だ、だが」
「それと、後で天一様を一発殴っていいですか?」
「は? ……あ、まさか」
「ええ、流石に私も分かります。あの二人、どう見ても今回が初対面じゃないですし」
「あ、春菜。来ちゃ駄目だろ!」
天一が駆けて来た春菜に怒鳴る。
「ねえ、前に話してくれたあれなら倒せるかも」
「え、あれ? でもさあ」
「二人でやれば大丈夫」
「危ねえって。やるならおいらだけで」
「駄目。二人でするの」
「う、分かったよ……たけぞうさん達、少しの間でいいからあいつを止めておいて!」
「え? うん、分かったよ!」
「私達もやるぞ。かすみと鼠之助、キヌは怪我人を」
お鈴がたけぞうの側に寄って言うと
「姉者、俺も怪我人の方へ行く。応急処置なら任せろ」
黒羽がそう言った。
「ふふ、流石ですね」
香菜が笑みを浮かべて言う。
「ああ、姉さんの信頼に答えないとな」
「充分信頼してますよ。でもあげません」
「くれなくていい。ただちょっと貸して欲しいだけ」
「駄目」
「うわああん! 絶対認めさせてやるううう!」
黒羽は泣き叫びながら怪我人達を保護していった。
「……どうやって諦めさせたらいいのだ?」
「難しいですね。っと、わたし達はあれを」
お鈴と香菜はそう言った後、たけぞう達の側に寄った。
「何をする気か知らんが、させるとでも思うか?」
魔物がまた気を貯め始めると
「お鈴さん、あれ行くよ」
「ん」
たけぞうとお鈴が同時に刀を構えると
たけぞうの剣先には蒼き光、お鈴の剣先には紅き光が灯っていた。
「な、まさかそれは」
「そりゃああ!」
「はあっ!」
二人同時に剣を振り下ろすと、その二つの光が渦を巻くように合わさって勢いよく魔物に向かっていき
「グオオオオッ!?」
轟音を立てて命中した。
「な、なんですかあれ?」
傳右衛門が目を丸くして言い
「あ、あれはもしや、炎と水の力では?」
三郎が震えながら言うと
「ええ。あの二人の合体技ですよ」
香菜が頷き
「あれならと思ったが、足止めにしかならんのか」
彦右衛門が魔物の方を見つめながら言った。
「ぐ、ぬ。流石……様が欲した力だな」
魔物は傷を負ってはいたが、やはり倒れずにいた。
「え、今あいつが言ったのって」
「よく聞こえなかったが、おそらく大妖魔の名だろう」
「こ、これで終わりだ。くらえ」
魔物が再び両手を掲げると
「そっちが終われ」
「何?」
天一と春菜は手を繋ぎ、その手を上に掲げた。
すると
「な、何!?」
二人の頭上に白く光り輝く剣が現れた。
そして二人の体も同じように輝いている。
「あ、あれが妖怪族の奥義ですか?」
長三郎が尋ねるが
「い、いや。形は似ているが、あのように輝きはしなかった」
道鬼が頭を振る。
「え、では」
「姫と共にだからか」
「ようし、行っけえええ!」
「えーい!」
天一と春菜が繋いだ手を振り下ろすと、頭上の剣が魔物目掛けて飛んでいき
「グオオオーーー!」
その胸を貫き、消滅させた。
「や、やった!」
「お二人が勝ったあ!」
人間と妖怪が共に喜び
「出来た。あれ、おいら全然だったのに」
「ねえ、この技って元々二人でするものだったのかもしれないよ」
「え、何で?」
「何故かそう思ったの」
「そうだよ。それって異界にもあるんだよ。それでさ」
「私達の友人夫婦がそれを使って強大な敵を貫いていたぞ」
たけぞうとお鈴が頷きながら言った。
「そうだったんだ。じゃあ父上やご先祖様達はなんで一人で?」
「あれは形だけなら一人でも出来るけど、奥義と呼ばれる威力となっていたのはその方の妖力が凄まじいものだったからよ。でも真の力となるにはやはり、ね」
文車妖妃がそう言った。
「そっか、二人で」
「ええ」
「二人共、ご両親の仇取れたね」
たけぞうがそう言って話しかけるが
「ううん。あいつはやっつけたけど、まだ仇はとれてないよ」
天一は首を横に振った後、兵達の方を向いて言った。
「なあ、皆で仇討ちしない?」
「え?」
「それはどういう事です?」
人間兵と妖怪兵が口々に尋ねると
「あのさ、これからは人間も妖怪も力を合わせて、一緒にこの世界を平和にしてさ」
「ずっと仲良く楽しく幸せに暮らしましょ。そうする事が『真の仇討ち』ですよ」
天一の後に春菜が続けて言った。
「……そうですね。死んでいった者達の為にも」
長三郎が目を潤ませて言い
「ああ。春菜様に着いていけばきっと出来るだろう」
道鬼が頷いて言うと
「いえ、天一様にでしょ?」
「いや、あの小僧より可憐な姫の方がいい。皆もそう思うだろう」
「あの勇敢な天一様なら私達も主君と仰げますよ」
「なんだ、折角人間の総大将を立てているのに」
「そっちこそ……ふふ」
「ははは」
「何故だろうな、あのお二人ならできるって思える」
「ああ。人間も妖怪も関係なく、仲良く」
人間兵達が口々に言い
「他の者が言えば戯言にしか聞こえんが、お二人が言うと」
「本当にそうなると信じられる」
妖怪兵達も頷き
「ようし、皆やるぞ!」
天一が右腕を上げて号令すると
おおー!
全軍がそれに答えるかのように、鬨の声をあげた。
「これがあったからなんだね?」
たけぞうが文車妖妃に言うと
「ええ。私達が大妖魔を倒した後、この世界を立て直せるのはあの二人だと思ったのよ」
「うん。二人ならできるよね、きっと」
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