第69話「連合軍」
「さてと、そうとなったら早速両軍を集めて統一宣言しようよ」
天一がそう言うと
「その前に敵は何処にいるのです?」
長三郎が道鬼に尋ねるが
「儂も知らん。たけぞう殿、何処だ?」
道鬼がたけぞうの方を向いた。
「え、おれはてっきりどっちかが何か知ってると思ってたけど?」
たけぞうがそう言うと、参謀二人は揃って心当たりはないと答えた。
「文車妖妃殿、どういう事です?」
三郎が尋ねるが
「あれ? たしかにここで分かるはずなのに?」
文車妖妃もこれは予想外だったようだ。
「うーん。あ、もしかして」
天一が何か言いかけた時
「ん? 危ない!」
たけぞうが素早く天一を抱き寄せた。
すると天幕が倒れ
「な、何!?」
そこには妖怪軍と人間軍の精鋭がいた。
「皆どういうつもりだ!? ここは和睦の場だぞ!」
長三郎が人間達に向かって叫ぶと
「我等は共に戦うなど出来ません」
「ええ、奴らは不倶戴天の敵ですから」
人間達が口々に言い
「ああ。我等に共存の道など無い!」
「奴らが滅ぶまで戦うだけ。それを邪魔するなら、たとえ御大将といえども」
妖怪達も負けじと言った。
「き、貴様ら血迷ったか!」
道鬼が妖怪達に言うと
「血迷ったのは軍師様でしょう。我等がどれ程人間達に苦しめられたか、お忘れか?」
妖怪兵の一人が言う。
「ぐ、だがな」
「どうあっても止めるなら、まずは軍師様から」
妖怪達が身構えた時
「皆さんやめて!」
春菜が道鬼の前に立った。
「姫君、下がりなされ!」
「いいえ引きません。皆さん、もう戦うのは止めましょう。わたし達は手を取り合って大敵に向かわなければならないのですよ」
春菜が妖怪達を見つめて言うと
「な、何故だ? あの娘を見ていると、武器を下ろしたくなる」
妖怪達は戦意を失い
「戦うってなら、おいらが相手になるぞ」
天一が人間達を睨むと
「あ、あの小天狗、なんという気迫だ」
人間達が怯んで動けなくなった。
「ねえ、あの人達ってどうやら」
「妖魔に憑かれているようだな」
たけぞうとお鈴が続けて言うと
「じゃあ、ここはあたしに任せてよ」
琉香が前に出て言った。
「え、琉香も妖魔を祓えるの?」
「ええ、それじゃ」
琉香は弓を上に向けて構えた。
「あれ、矢は……え?」
いつの間にかその手に光り輝く矢があった。
そして
「はっ!」
空に向かって矢を射ると
「え!?」
それが幾つもの矢に分かれ、五月雨の如く陣に降り注ぐ。
「ぐっ!」
「あっ!?」
そして人間、妖怪の区別無く矢が頭に刺さって
「うわっと、こら危ねえだろがー!」
それをかわした天一が叫ぶと
「あんたならそれが何か分かるでしょうが!」
琉香が怒鳴り返す。
「分かるけど、急にされたらビックリするよ!」
「え、あれって……あ!」
たけぞうが辺りを見ると
「あ、あれ?」
「心が軽くなったような、うっ!」
妖怪達と人間達の体から黒い霧が吹き出していった。
「す、すっげ。あんなにたくさんを一度でだなんて」
「どう? これだけはお父さんに勝ってるのよ」
琉香が得意気に言う。
「そうなんだ。てか、おれは琉香のお父さんをよく知らな」
「たけぞうさんも知ってる人よ」
「へ?」
「ん、どうやらあれで終わりではないようだぞ」
お鈴がそう言うと
「お、おのれ、よくもやりおったな」
黒い霧が一箇所に集まっていき、それが黒い魔物となった。
「あ、あれが妖魔というものか?」
道鬼が魔物を指して尋ねる。
「ええ。さ、おれ達の出番だね。強そうだけど一人だけなら」
そう言ってたけぞう達が前に出ようとすると
「阿呆、俺だけではないわ!」
いつの間にか周りに多くの骸骨兵がいた。
「うわ、囲まれてる」
たけぞうが辺りを見渡し
「また定番だな」
「そうですね。さて」
彦右衛門と三郎が身構えると
「ようし、じじ様と長三郎さん、おっぱいでっかい姉ちゃんと求愛姉ちゃん、悠兄ちゃんは春菜姫を守って!」
天一がそう叫ぶ。
「でかいってのは文車妖妃さんの事だと分かりますが、後で袋叩きにあっても知りませんよ」
悠がボソッと呟き、少しムッとしている求愛の手を引きながら春菜の側に寄った。
「そして兵達皆で骸骨兵達をやっつけろ!」
天一が両軍に号令を出すと
「は、ははっ!」
妖怪軍はすかさず骸骨兵達に向かっていく。
「よ、よし!」
人間兵の一人が身構え、骸骨兵の方を向くと
「おい、妖怪の下知に従うつもりか!」
別の兵がその兵の肩を掴んで言った。
「今はそんな事言ってる場合じゃないだろ!」
「そうだよ。それに見ろよ、あれ」
また別の兵がある方を指す。
そこでは天一が魔物と向かい合っていた。
「あんな子供なのに、大将なんだから下がってればいいのに、ああして戦おうとしてるんだぞ」
「それに姫を一番に守ろうとしてくれただろ。なあ、せめて今だけでも怨恨を横に置いて、彼に従わないか?」
二人が続けて言うと
「……ああ、分かった! 今だけだぞ!」
三人が、そして他の人間達も骸骨兵に向かっていった。
「天一、下がってと言いたいけど聞かないよね。一緒に戦おう」
たけぞうが側に寄って言う。
「うん、でも何人かは骸骨をお願い」
「ではここは拙者とたけぞう殿、彦右衛門殿が」
三郎がそう言うと、彦右衛門が頷く。
「分かった。では私達は雑魚を」
お鈴達が骸骨兵に向かっていった。
「はっ!」
「やあっ!」
傳右衛門と琉香が鉄砲で、矢で次々と骸骨兵達を撃ち抜く。
「うりゃあっ!」
おキヌが骸骨を投げ飛ばし
「チュー!」
「ポコー!」
鼠之助が体当たりで、かすみが尻尾で骸骨を吹き飛ばし
「そりゃあっ!」
黒羽が棒術で次々と骸骨兵達を薙ぎ払い
「では、参る!」
お鈴が長刀で
「はああっ!」
香菜が目にも留まらぬ早業で骸骨兵達を斬っていった。
「な、な、あれ程の腕だったとは」
「あ、ああ」
長三郎と道鬼が震えながら言った。
「ぜえ、ぜえ」
先程反対していた人間兵が息を切らしていると
「ガアアアっ!」
骸骨兵が彼に斬りかかろうとした、が
ドゴッ!
「大丈夫か?」
妖怪兵の一人が骸骨を薙ぎ払った。
「あ、ああ。だが何故」
「今は共に戦う同志だ。見捨てては御大将にどやされるし、姫に泣かれてしまいそうだからな」
「そうか。では」
人間兵が腰に指していた脇差を抜き、妖怪兵に投げつけた。
「!?」
と思ったが、それは妖怪の後ろにいた骸骨の額を貫いていた。
「これでおあいこだな」
「ああ。行こう」
骸骨兵は徐々にその数を減らしていった。
「ぐ、ぬ」
魔物が辺りを見て歯軋りする。
「さあ、あんたもやられろ」
天一が身構えながら言うと
「そう簡単にやられんわ!」
魔物が天一に襲いかかろうとしたが
「はああっ!」
「そりゃあっ!」
彦右衛門と三郎が斬りつけて止め
「でりゃああ!」
たけぞうが二刀で魔物を十文字に斬った。
「って、これで終わりじゃないだろ。まだ定番があるんだろ?」
たけぞうが身構えながら言うと
「ふ、ふふ。では、そのとおりにするか」
魔物が立ち上がり
「我が元に集まれ、悪しき縁よ!」
骸骨兵の残骸と何処からともなく出てきた黒い霧が魔物に集まっていき
「グオオオオーーー!」
巨大な魔物と化した。
「あれ、でかいけどあんま強そうに見えないね?」
たけぞうが首を傾げる。
「油断は禁物だぞ。何か仕掛けてくるやもしれん」
彦右衛門が身構えたまま言う。
「分かったよ、じゃあ」
たけぞう達は魔物に向かっていった。
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