第66話「妖怪軍の大将」

 老天狗の後ろにいた小天狗は自分が総大将だと言った。


「あ、あんたが大将なの?」

 たけぞうがおそるおそる尋ねると


「そうだよ。おいらが妖怪軍の総大将。名前は天一てんいちだよ」

 小天狗の天一があっけらかんと言った。


「てか、なんか若く見えるけど」

「そりゃそうだよ。おいら十歳だもん」

「へ、へえ。その歳でだなんて」


「ぐぐ、黙っていれば儂が大将で通せたのに」

 老天狗が歯軋りして言うと

「じじ様。竜神様まで来てるんだからさ、騙したら駄目だろ」

 天一が老天狗の方を向いてそう言った。

「ぐ、そうは言ってもな」

「とにかくさ、もうバレたんだしちゃんと名乗ってよ」

「あ、ああ。儂は妖怪軍の軍師で、名を道鬼どうきと言う。それとこの小僧の祖父だ」

 老天狗の道鬼が天一を指しながら言った。


「え、お祖父さんなら先代か先々代じゃないの?」

 たけぞうがそう言って首を傾げると

「儂の娘が先代の妻で、こやつの母だ」

「そういう事か。しかしお祖父さんだからって大将にそんな口の聞き方していいの?」

「最初はそうしたのだが、こやつが嫌がるからやめたのだ。それでも家臣として仕えているつもりだぞ」

「嘘だ。この前おいらにお尻ペンペンしたくせに」

 天一が膨れっ面になって言うと


 ゴン!

「おのれが何も言わずに何度も陣を抜け出すからだ! いったい何処をほっつき歩いているのだ!?」

 道鬼が天一の頭を小突いて叫んだ。


「そ、それは言えないよ」

 天一が涙目になって言う。

「言えぬとは何だ、何か悪さでもしてるのか!?」

「悪い事じゃないって!」



「……えと、話戻していい?」

 たけぞうがおそるおそる二人に話しかける。


「あ、ああすまない。さて何処まで話したか」

 道鬼がたけぞうの方を向いて言う。

「話し合いしようとしたら、死人が出たってとこまでだったよ」


「うん。一月前に父上と母上がさ、人間の大将と和睦の話し合いをするって出ていったんだけどさ」

「その翌朝、二人は傷だらけになって陣の前に倒れていたのだ」

 天一の後に道鬼が続けて言った。


「え? そ、それで二人は?」

「すぐに手当をしたが、意識が戻らぬまま……」

 道鬼はその目に涙を浮かべた。


「もしかして、それを人間がと?」

「証拠は無いけどね。でも皆そうだと言ってるよ」

 天一がそう答える。


「あれ、天一さんはそう思ってないの?」

「うん。それよりおいらの事は呼び捨てでいいよ」

 天一が手を振って言う。

「いや、仮にも妖怪の大将にそれはね」

 たけぞうが苦笑いしながら言うと

「おいらは皆より年下だよ。それに異界の人がそんな事気にすんなよ」

「え、分かるの?」

「うん。伊達に妖怪軍の総大将やってないからね」

 天一はニカッと笑みを浮かべた。


「すっげ。あ、じゃあおれが元河童だってのも」

「分かるよ。それとそこのお姉ちゃんは妖狐と人間の子供で、そっちの兄ちゃんは猫から生まれ変わったってとこだろ?」

 天一がお鈴と悠を指して言うと


「み、見ただけで分かるだなんて」

「本当凄い人ですね」

 二人共驚きの声をあげた。


「うん。けどそのお姉ちゃんはよく分からないんだ」

 天一が琉香を見つめ、首を傾げる。

「よく分からないって、何が?」

 琉香が尋ねる。

「お姉ちゃんにも人間ともう一つ違う気が混じってるんだけど、その違う気がおいらの知らないものなんだよ」


「ん? もしかして……でもあたし、そんな事知らなかったわ」

「あ、そうなんだ。言ってまずかったならごめんね」

「いいわよ。しかし知らないって、ここにはいないのかな?」


「いないって、何が?」

 たけぞうが首を傾げて尋ねたが

「え、えと。ごめんなさい」

 琉香が慌てて頭を下げる。


「あ、こっちこそごめんね。しかし琉香も人間と何かの子供だったんだね」

「今はどっちも人間よ。たけぞうさんが人間になったのと同じようなものよ」

「なるほどね。でも元の気は残ってて、琉香にも受け継がれたってとこなんだ」

「そうみたいね」



「話を戻しますが、何故あなたは下手人が人間達じゃないと?」

 お鈴が天一に尋ねると

「ん? もし向こうがやったなら、父上が倒れたその時に攻めて来るだろ? こっちは混乱してたんだし」

「たしかにそうだな。もしあの時攻め込まれていたら、被害甚大だっただろうな」

 道鬼がそう言って頷く。

「だろ? ついでに言うとさ、人間側でも何かあったんじゃないかな? たとえばあっちも大将を討たれて混乱してたとか」


「!」

 全員がそれを聞いて固まった。


「じじ様、どう?」

「うぬ。お前の言うとおりか分からぬが、とにかく向こう側も大規模な動きが出来ぬ状態だったという事か」

「うん。だからさ、おいらが行って聞いてみようと思うんだけど」

「それはならん! もしお前まで討たれたら妖怪軍は終わりだ!」

 道鬼が反対するが


「それなら心配ないだろ。ねえ」

「うん、おれ達が護衛するよ。てか向こう側にもおれ達の仲間がいるから、互いに手出しはさせないよ」

 たけぞうが胸をどんと叩いて言った。


「し、しかしだな」

「じじ様、これは妖怪軍総大将のおいらが決めた事だよ」

 天一が鋭い目つきになって言うと

「う、ぐ、分かった。ではたけぞう殿、護衛と仲介をお願いしていいか?」

 道鬼は一瞬怯んだが、すぐに気を取り直してそう言った。

「うん、任せてよ」


「な、なんという少年だ。あの歳であの気迫、あの将器とは」

 お鈴は震えながら呟いた。


 そして

「どうやら天一の予想、当たってるみたいだきゅ」

 求愛が額に手をやりながら言う。


「あ、連絡があったんだね?」

 たけぞうが尋ねると

「きゅ。あのね」

 求愛が向こう側の事を話し出した。

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