第65話「二手に分かれる」
たけぞう達は合戦場の近くにある、丘の上に着いた。
「こっから二手に分かれるけど、どう組分けする?」
たけぞうが皆に尋ねる。
「組分けはいいが、文車妖妃殿が一方に行ってしまうと、もう一方が助言を聞けなくなるな」
お鈴が腕を組みながら言うと
「それなら心配ないわよ。ね、求愛ちゃん」
文車妖妃が求愛の方を向き
「うん、任せてきゅ!」
彼女は胸をどんと叩いて頷いた。
「え、どういう事?」
たけぞうが尋ねる。
「求愛ちゃんも竜神族なだけあって結構物知りなのよ。それに彼女なら私と他心通(テレパシー)で連絡を取り合えるわ」
「へえ。求愛ってそんな事も出来たんだね。それじゃお願いね」
「きゅ。でもボク、悠と一緒じゃなきゃイヤだきゅ」
そう言って悠に抱きつく求愛。
「ははは。じゃあ二人は同じ組で、もう一方に文車妖妃さん、それと彦右衛門さんと香菜さんでいいかな?」
たけぞうが香菜の方を向いて言う。
「ええ。悠さんに薬の調合法とかいろいろ教えてもらいましたから。あ、黒羽さんも一緒がいいです」
「ふぇ!? そ、それいいの!?」
たけぞうは香菜の意外な発言に驚いた。
「はい。わたし一人で治療担当は不安ですから、黒羽さんがいてくれたら心強いです」
「い、いや。香菜殿も気づいているのだろ?」
お鈴がそう言うと
「そんな事気にしてたら何も出来ませんよ。それに黒羽さんだって戦に私情は挟まないでしょ?」
「あ、ああ。奥方様、ありがとう」
黒羽は嬉し涙を流しながら言うが
「わたしは奥方様って柄じゃないです。出来ればお姉ちゃんがいいなあ」
香菜が頭を振った。
「え、その、あの、お姉ちゃんだと子供っぽいから、姉さんでいいか?」
黒羽が恥ずかしそうに言うと
「ええ、いいですよ」
香菜は笑みを浮かべて頷いた。
「てか、見た目逆だけど」
「余計な事を言うな。文字通り雷が落ちるぞ」
お鈴がたけぞうの呟きに突っ込みを入れた。
「あの、組分けするならそれぞれの大将を決めませんか?」
傳右衛門が挙手して言うと
「うん。じゃあ三郎さんと彦右衛門さんでいいよね?」
たけぞうがそう言うが
「あのな、拙者はまとめ役は苦手なのだ」
彦右衛門が嫌そうに言う。
「え、ご家老様やっててそれはないでしょ?」
「恥ずかしながら、まとめ役は腹心の部下がやってくれているのだ」
「そんなんでいいの?」
「まあな。それよりお主が一方の大将をやればいいだろ、以前もそうだったのだし」
「あのねえ。前はいつの間にかなってたけど、おれには無理だよ」
「あの。拙者もお二人を差し置いて大将なのはちょっと」
三郎も遠慮がちに言う。
「何言ってんのさ。対妖魔隠密頭領のくせに」
「それとこれとは別です」
「そう言わないでよ」
「よし、たけぞうさんが大将でお鈴さんが副将。そこに悠さんと求愛ちゃん、琉香ちゃん、鼠之助さん、かすみちゃんで一組。もう一方は三郎さんが大将で彦右衛門さんが副将。後は香菜さん、黒羽さん、傳右衛門さん、おキヌさん、そして私でいいかしら?」
埒が明かないと思ったのか、文車妖妃が組分けを決めてしまった。
「え。うーん、いいよ」
「拙者も異論はありません」
たけぞうと彦右衛門がそう言うと、皆も頷いた。
そしてたけぞうの組は妖怪側、三郎の組は人間側へと向かった。
しばらくして、たけぞう達が妖怪側の陣に着くと
「ん? 何だ貴様ら!?」
妖怪兵達がたけぞう達を取り囲んだ。
「おれ達は怪しい者じゃないよ。ねえ、あんたらの大将に会わせてよ」
たけぞうが兵達に言うと
「ん? あの隊長、如何致しましょう?」
兵の一人が何か思い当たる節があったのか、隊長らしき男に尋ねる。
「そう言われてもな、何処の誰かも分からない奴らを」
「この人達は同志のようですが」
「それは俺も分かるがな」
「私達は戦を止める為に来たのだ。どうか御大将にお取り次ぎを」
「ねえ、こんな堂々と暗殺しに来る刺客もいないでしょ」
お鈴と琉香が前に出て言うと、隊長は一瞬固まり
「……はっ? お、おのれ、色仕掛けで来るとは卑劣な!」
顔を真っ赤にして叫んだ。
見ると他の兵達も顔を真っ赤にしている。
「あの、普通に話しているだけなのだが?」
「この人達って女の子見た事ないのかしら?」
二人が首を傾げると
「いえ、二人共美人だからそうなってるんですよ」
悠がボソッと呟いた。
「きゅ~、せめてお伺いくらい立てて欲しいきゅ」
求愛がそう言うと
「え、あ……まさか」
「きゅ?」
「し、しばしお待ちを。大将に取り次いで来ますので」
隊長は駆け足で陣の奥へと消えていった。
「何か急に態度変わったポコ?」
「こっちじゃ求愛みたいな子が一番いいのかチュー?」
かすみと鼠之助が首を傾げた。
しばらくして
「お会いになられるそうです。さあ皆様、こちらへ」
隊長に案内されて陣の奥へと進んだ。
「方々、よく来られた。儂が妖怪軍の将だ」
本陣の上座にいた老天狗が立ち上がり、たけぞう達を出迎えた。
その後ろには従者らしき小天狗がいる。
「うん。あのさ」
「戦を止めに来たのだろう? だがそれは出来ぬ」
老天狗が首を横に降る。
「なんでさ?」
「何故? 人間達が儂等を排除しようとするからだ。人間達は儂等がいなくなれば世界が平和になると思っているようだが、儂等がいつ世界を乱した? むしろ向こうが乱しているではないか」
「そうなの? いや人間側の事は知らないけど、きっかけは小さなすれ違いでどちらかが悪いって訳じゃないと思ったよ」
「奴らは自然を破壊して動物達や妖怪の棲家を壊しているのだ。ただ自分達だけが栄えたい為にな」
「うーん。あのさ、それを止めたら停戦してくれるの?」
「そんな事、奴らは飲まんだろう」
「話してみないと分からないだろ?」
すると
「無理だよ。一度やろうとしたら死人が出たんだもん」
何処からともなくやや高い声が聞こえてきた。
「え? 今誰が喋ったの?」
たけぞう達が辺りを見渡すと
「ここ、ここ」
「え? あ」
声の主は老天狗の後ろにいた小天狗だった。
「こら、黙ってろと言っただろ」
老天狗がその小天狗を窘めると
「じじ様、おいらが総大将だぞ。黙ってろはないだろが」
「ええええ!?」
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