第63話「最後の仲間」
「まさか、あなたが」
「最後の仲間だとは」
一部の者が口々に言い、
「文車妖妃さんって、戦えたんだね」
たけぞうがその仲間の名を呼ぶ。
そう、最後の一人は文車妖妃であった。
「ええ。それと私の知識でお役に立てると思うわ」
文車妖妃が笑みを浮かべて言う。
「あ、あの。それでしたら何故以前は拙者達と」
三郎が尋ねようとすると
「一緒に戦わなかったのは、私の本来の使命から外れているからよ」
文車妖妃はそれを遮って言った。
「ああ。天照大御神様の命でこの世の理を管理されていると以前お聞きしました。それですな」
彦右衛門がポンと手を叩いて言う。
「そうよ。だから知恵を貸しても直接何かするのはね。だけど」
「すまない。かの異界に行ける知恵者が貴女しか見当たらなかったのだ」
八幡大菩薩が頭を下げて言うと
「いいのですよ。今回は私が軍師役を務めます」
文車妖妃は笑みを浮かべて言った。
「そういう事ね。物知りの文車妖妃さんがいてくれたら助かるよ」
「ふふ。よろしくね」
その後、屋敷の広間で
「これで揃ったな。皆、よく集まってくれた」
八幡大菩薩が語り出した。
「今回はこれまでの戦いとは違う。敵はおそらく第六天魔王を上回る力を持っているはずだからな」
「そ、そんなにですか?」
たけぞうが身震いしながら言う。
「ああ。叶うなら私も行きたいが、それは出来ぬし手助けもしてやれぬ。ならば」
「八幡大菩薩様なら異界の扉を閉ざし、大妖魔達がこっちに来れなくするようにも出来る。でもそれじゃあ、向こうの人達がですものね」
文車妖妃が続けて言うと
「そうだ、あちらには世界を守護する神がいない。いや、かつては居たと言うべきだな」
八幡大菩薩が俯きがちになって言う。
「え、神様はどうして居なくなったのですか? まさか大妖魔が?」
たけぞうが尋ねると
「いいや。かの神は人々の悪しき縁を止められない自分を出来損ないだと思い、悩み苦しんだ末、自らその命を……」
八幡大菩薩は目に涙を浮かべ、辛そうに語った。
「か、神様がって、そんな事があるのですか?」
「ああ。彼は真面目過ぎたのだ。いつも自分を責める事ばかり語っていた。私は何度も彼に言い聞かせようとしたが、駄目だった」
「あの方は優れたお方でしたが、心の修行が足りていませんでした。もし一度人間か妖怪に生まれた後で神様になっていれば、また違ったかもしれませんね」
文車妖妃も涙目になって言った。
「八幡大菩薩様。おれ達が必ず」
「異界を救い、神の御無念を少しでも」
たけぞうと彦右衛門が続けて言うと
「……ああ、頼む。彼の心を救ってやってくれ」
八幡大菩薩はそう言って、皆に向かって頭を下げた。
「八幡大菩薩様、一つお伺いしてもよろしいですか?」
お鈴が手を上げて言う。
「ん、なんだ?」
「大妖魔の影は大鷲でしたが、本体もですか?」
「本体は大鷲じゃないわよ。人の姿に近いわ」
文車妖妃がそれに答えた。
「え?」
「というよりね……いえ、これは大妖魔の元に辿り着いた時に話すわね」
「は、はい」
お鈴は文車妖妃の悲しげな顔を見て、それ以上は聞かなかった。
そして出発は明日となり、後は夕飯まで各々過ごすことになった。
「父上、もう一回!」
たけぞうは松之助にせがまれ、庭で相撲を取っていた。
「松之助は強いね。ようし」
松之助が何度向かって来ては優しく受け止め、土俵の外へと押し出す。
手加減はあれど、子供だからと負けてやる事はしないたけぞうだった。
「ふふふ」
お鈴は縁側に座り、それを微笑ましく見ていたが
「……出来る事ならずっとこうしていたい。一緒に暮らしたい。でもそれは叶わない事よね」
そう呟き、思いを閉ざすかのように目を閉じた。
「ええ。たけぞうさんがこれから進む道がなければ、後世の人達が道に迷って、妖魔が蔓延るかもしれないですものね」
いつの間にか文車妖妃が来ていて、隣に座っていた。
「そう、ですよね」
そう言ってお鈴が項垂れると
「でもね、一つだけ手はあるの。たけぞうさんとお鈴さん、松之助ちゃんが一緒に暮らしても流れが乱れず、いい道ができる方法がね」
文車妖妃は無表情のままそう言った。
「え? それなら」
「あなたの友人はこの世のあらゆる事が見える力を持っているわ。でもね、彼はその力を完全に使いこなせていないのよ」
文車妖妃がお鈴の言葉を遮って言う。
「そ、そういえば見えない事もあると彼は言ってました。それでか」
「ええ。さて、聞きたい?」
「え、あ、その」
お鈴がどうしようか悩んでいると
「ふふ、返事はこの戦いが終わってからでもいいわ。でも条件として、この方法を聞く時はあなた一人でお願いね」
文車妖妃は口元を押さえ、微笑みながら言うが
「何故ならね、これは成功する可能性が低くて、失敗したらあなたが死ぬからよ」
一転してまた無表情になって言った。
「死……」
それを聞いたお鈴が固まっていると
「ええ。そんな事皆が、特にたけぞうさんが知った日には猛反対するでしょうね」
「は、はい。私が逆の立場なら反対します」
「だからあなた一人でなの。それで」
「終わってからでお願いします」
お鈴が居ずまいを正して言うと
「分かったわ、どのみち終わってからでないと出来ないのだしね」
文車妖妃はそう言った後、その場を去っていった。
「本当にそれをして、いいのだろうか?」
お鈴はたけぞうが声をかけるまでずっと考え込んでいた。
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