第62話「修練での交流」
次の日の朝。
たけぞう達は庭で修練に励んでいた。
「あ、琉香も弓使えるんだね」
たけぞうが琉香に声をかける。
彼女はすっかり回復していて、弓の稽古をしていた。
どうやら父親から習っているらしい。
「ええ。さてと」
琉香は弓を構え、木に吊るした的を狙い
「はっ!」
あっという間に中心に刺さった。
「へえ、なかなかだね」
「今のは肩慣らし、これからが本番よ」
そう言ってまた矢を放つと、
それが先に刺さっていた矢尻に当たり、的を砕いた。
「おおおっ!」
「なんという腕だ!」
皆が口々に驚きの声をあげ
「鉄砲と弓の違いはあれど、拙者も敵わないですよ」
傳右衛門が頷きながら言う。
「ありがと。でもあたし、まだお父さんの足元にも及ばないわよ」
琉香が照れながら答えた。
「うえ!? お父さんってそんなに凄いの!?」
たけぞうが驚き叫ぶと
「ええ、すっごいわよ。一矢で数人の敵を倒したり、巨大な壁を射抜いて壊したってお母さんが言ってたわ」
「ど、どんなんだよそれ?」
「琉香、お父上はどうしても外せないとの事だが、どんな仕事をされているの?」
お鈴が尋ねる。
「えっと、詳しく言えなくてごめんなさいなんだけど、とても大切な仕事なの」
琉香は申し訳なさそうに答えた。
「そう。しかしお父上はどうしてあなたを代わりに?」
「それはあたしが言い出したの。お父さんは最初お友達にお願いしようとしたんだけど、その人がこっちに来たら流れがおかしくなると思ったの」
「へ?」
「琉香ちゃん。流れの事はあまり言わない方がいいですよ」
香菜が話に入ってそう言った。
「あ、うん。香菜さんってお母さんが言ってたけど、鋭いなあ」
琉香が香菜を見つめながら言う。
「そうですか。あ、これくらいならいいかな? 顔はお母さん似って悠さんが言ってましたが、その髪の色はお父さんからですよね?」
「うん、そうよ」
琉香は笑みを浮かべて頷いた。
「なあ、香菜殿は琉香の両親を知ってるのか?」
お鈴が小声で尋ねると
「わたしの予想通りなら、お鈴さんも知ってる人ですよ」
「え?」
一方では、彦右衛門と三郎が座禅を組んでいた。
「こう、ですか?」
「うむ。それで気を一点に集めるように思い描くのです」
どうやら彦右衛門が何か教えているようだ。
「あれ、何してるの?」
たけぞうが二人に話しかけると
「はい、彦右衛門殿の技の修練方法を教わっていたのです」
三郎がたけぞうの方を向いて言った。
「え、あれってたしか彦右衛門さんは例外だけど、門外不出でしょ?」
「ちゃんと許しは得ているぞ。あの方は拙者が見込んだ者や藤次郎になら教えていいと言ってくれた」
彦右衛門がそんな事を言った。
「へえ。でも三郎さんも鳳凰一文字斬を使えそうなの?」
「いや、どうやら三郎殿はあの奥義を使えそうだから、そちらをな」
「そうなんだ。でもあれ、彦右衛門さんは使えたっけ?」
「出来なくはないが、拙者ではあまり大した威力にならんのだ」
「しかし気を練ってとは。こういう技もあるのですね」
三郎はそう言って目を閉じる。
「本家とは少し違うがな。ん?」
彦右衛門は自分をじっと見つめている黒羽に気づいた。
「黒羽殿、何か?」
「あ、す、すまない……ぽ」
声をかけられた黒羽は、頬を赤らめて横を向いた。
「ん?」
「へえ、そうなんだ」
ちょうどそこに来た香菜が妖しい笑みを浮かべ、静かに刀に手をかけた時
たけぞうとお鈴は凄まじい速さで黒羽を引きずり、裏手へと連れて行った。
「ねえ、おれも流石に分かるよ。あのさ」
「なんで彦右衛門殿なんだ!?」
たけぞうとお鈴が続けて言うと
「前にあの方をひと目見た時から……ああ」
黒羽は乙女の顔になっていた。
「なあ、彦右衛門殿には香菜殿という妻がいると知っているだろ?」
お鈴が腕を組んで言うと
「分かってるが、彦右衛門殿は偉いお侍。それなら妾くらいいてもいいだろ」
黒羽が膨れっ面になった。
「無理、彦右衛門さんは香菜さん一筋。妾など自分には要らんって前に言ってたよ」
たけぞうがそう言うと
「今はそうでも気が変わるかもしれん。どうやら彦右衛門殿は真っ平らでも構わなそムグォ」
「言うな! 黒焦げになりたいのか!?」
お鈴が慌てて黒羽の口を押さえた。
「これがあったから法眼様は駄目って言ったんだろな。てかいくら八幡大菩薩様が選んだからって、何で許可したのさ?」
首を傾げるたけぞうだった。
「ふふふ。あの女、焼き鳥にしたらどんな味かなあ」
「ん? 何か言ったか?」
「いえ何も……ふふふ、誰が真っ平らですか。あなたよりはありますよ」
忍びだからか単に地獄耳なのか、香菜には会話が聞こえているようだった。
一方で、鼠之助とかすみは体術・拳法使い同士という事で組手をしていた。
「おお、鼠之助はまた強くなってるでごんすな」
そこへやって来た志賀之助が声をかける。
「うん。でもかすみも強いチュー」
鼠之助がかすみを指して言うと
「あんたの方が強いポコ。ワタシはまだまだだポコ」
かすみは謙遜して言う。
「そんな事ないチュー。ところでその拳法、誰に習ったチュー?」
「お父からだポコ。これ、開祖様が編み出したって聞いてるポコ」
「いいなチュー。おいらの一族にはそんなの無いから、自分であちこち行って教わって自分のものにしてるチュー」
「ワシもそうでごんす。長い年月をかけて技を作り上げているが、それも面白いでごんすぞ」
志賀之助が笑みを浮かべて言った。
「あれ、志賀之助さんって今いくつだチュー?」
「さあ? 数えとらんので自分でも分からんでごんす。もう三十年以上相撲をやってるのは覚えているがなあ」
また一方では
「悠さぁって強か。おいをあっさり投げて、押さえ込んでしまうとはなあ」
「まあ、このくらい出来ないと自分の身は守れませんし」
どうやらおキヌと悠が柔術の稽古をしていたようだ。
「きゅ~、悠に変なとこ触られなかったかきゅ?」
求愛がおキヌに尋ねる。
「あのね、そんな事しないって」
悠が心外とばかりに言う。
「うん。したら傳右衛門さんに撃ち殺されるきゅ」
それを聞いたおキヌは顔を真っ赤にしていた。
やがて日が高くなった頃
「最後の一人から返事が来てな、共に戦ってくれるそうだ」
八幡大菩薩が現れ、皆にそう言った。
「そうなんですね。それで、いつ着きますか?」
たけぞうが尋ねた時
「もう来たわよ~」
「え?」
最後の一人とは……。
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