第53話「人と狐が暮らす村での再会 後編」
風呂から出たたけぞうは、居間でお鈴達と夕飯を取っていた。
狐のご馳走といえる稲荷寿司が主だったが、たけぞうの為にきゅうりもたんと用意されていた。
しばらくして、村長が一族の事を話しだした。
「儂ら妖狐一族はな、遠い昔からその時代に現れる脅威に立ち向かう者達とある時は共に戦い、またある時は影に徹して補佐していたのだ。古くは七百年程前、星から来た脅威と戦った六人の英傑がいたが、そのうちの一人が当時我が一族で最も妖力が優れていた者だったと伝わっている。そしてこの方は」
「私と同じで、人間の父と妖狐の母の間に生まれた女性だったのですよね」
お鈴が続けて言った。
「そうだ。だが、この方は誰とも契らぬまま一生を終えたとある」
「一説には好いた方がいたが、その方には既に別の女性がいたと聞きました」
「ああ、好いた方とはお仲間の纏め役だった方だったそうだ。そしてその方が好いていたのは伝説の大妖怪とも言われておるが、それは竹筒に封じられたとある」
「え? もしかしてそれって、これの事かも?」
たけぞうが懐から竹筒を取り出した。
「む? たけぞう殿、ちょっとそれを貸してくれ」
「は、はい。どうぞ」
たけぞうは村長にその竹筒を渡した。
「これには弘法大師様の封印がされている、間違いないようだ。実際に見る事が出来るとは思わなかった」
村長が手にしたそれを見つめながら言った。
「たけぞう殿、あれをどこで手に入れたのです?」
お鈴が尋ねると
「旅の法師さんから貰ったんだ」
「そうなのですか。その方は弘法大師様にゆかりのある方?」
「知らないけど、そうなのかもね」
「そうだ、この竹筒に封じられている大妖怪は、絶世の美女だとも言われているぞ」
村長が竹筒をたけぞうに返した後、そんな事を言った。
「へえ。でもそれって七百年も前の事だし、今はもうお婆さ」
「あ、が?」
たけぞうは何故か全身ひっかき傷だらけになって倒れていた。
「た、竹筒からなんか出てきた」
「え、ええ」
村長とお琴が震えながら言い
「……あれがそうだったのか」
お鈴は思い当たる節があったようで、一人頷いていた。
そして、一同は気を取り直し
「そうそう、返事を書かねばな。たけぞう殿、御使者殿にお渡し願っていいか?」
村長がそう言う。
「はい。ところで、三郎さんは何を?」
「たけぞう殿と会われた龍神族の長老殿がな、三郎様にも使いを出して知らせたそうだ。それで儂らにも大妖魔の依代となるかもしれぬ子を探し、見つけたら保護してほしいとな」
「そうでしたか。おれも見つけたらそうします」
そして、夜も更けてきてお開きとなった後
たけぞうはお鈴と寝室で話していた。
「松之助って名前、何か由来があるの?」
「ええ。これはたけぞうを竹とし、その上を行くようにという意味で」
「そっか。うん、おれより強くなってほしいね」
「ええ。そうだ、これを」
お鈴は一通の文をたけぞうに渡した。
「これは?」
「以前私の友から預かったものです。あなた宛で、中は読んでいません」
「?」
たけぞうはその文を広げ、しばらく黙って読んでいたが
「!」
声は出さなかったが、驚きの表情を浮かべた。
「あの、何が書かれているのです?」
お鈴が尋ねると
「ごめんね、全部は言えないけどさ、ここに書かれている通りならおれ達はやはり、普通の夫婦にはなれないよ」
たけぞうは悲しげにそう言い
「そう、なのね」
「でもさ、おれは生涯ずっとお鈴さんを大事にする。そして松之助もね」
たけぞうはそう言ってお鈴の手をとった。
「ええ。そうだ、一つお願いがあるの」
「うん、おれに出来る事なら言って」
「では」
「え? ……ウワアアア!」
「あ、あ」
たけぞうは何故か素裸になって枯れ果てていて
「はあ」
お鈴は恍惚の表情を浮かべ、艶々になっていた。
「お鈴さ、ん。なん、で」
「いい気持ちだったでしょ、友に習ったの」
「う、うん。胸で挟んでとか口でとか」
ナニしたんだ、この女。
「さて、途中までは共に旅をするから、その間は毎日」
「う、うん」
「そして、これからも会う度にはお願いね」
お鈴は笑みを浮かべて言った。
その後、たけぞうはお鈴と旅に出たが……。
道行く人がゲッソリしているたけぞうの顔を見て、引いていた。
そしてたけぞうは彦右衛門と再会し、その後別の世界へと旅立った。
お鈴もまた松之助の元へ帰る途中で偶然その世界に迷い込んでしまい、そこでたけぞうと共に戦った。
――――――
「あの、父上がど助平になった原因は、母上にもあるのでは?」
松之助が呆れながら言うと
「そうか?」
お鈴が首を傾げる。
「ええ。というか息子にそんな話しないでください」
「その後ですが、ひい祖父様は私が十の時に亡くなられたのですね」
「そうだ。お前の顔を見て満足したのだろうな」
「そしてお祖母様は、次の村長の後見役となられたそうで」
「ああ。だがもう後見など要らないだろうから、いいかげん」
「ええ、来たわよ」
「!?」
そこに白髪だが顔つきは若々しい女性、お琴が大きな荷物を持って立っていた。
「久しぶりね。ああ松之助、立派になって」
お琴が松之助に話しかける。
「お祖母様はあまりお変わりになってませんね。あの、もしかして」
「ええ、私の役目は終わったわ。これからはここで暮らしていいかしら?」
「はい。お祖母様がいつ来てもいいようにしてありましたからね」
「ありがと。そうそう、あなたのお嫁さんはどこ? 子供達は?」
松之助は既に妻を娶っていて、今は一男一女の父でもあった。
「今は向こうの父母にも孫の顔を見せたいからと、里に戻ってます。明日には帰ってきますよ」
「あらそう。じゃあ、後のお楽しみね」
「母上、やっと来たのね」
お鈴も嬉しそうに話しかける。
「ええ。そうそう、雪次郎さんもね」
お琴はそう言って懐から位牌を取り出した。
「父上、おかえりなさいませ」
お鈴は手を合わせ、亡父に向かって言った。
「さあお祖母様、お部屋に案内しますよ」
松之助がお琴を連れ、奥へと入っていった。
「松之助のおかげで、ここいらでは人と異形の者達が仲良く暮らせているからのう。お義母上も安心して余生を過ごせるじゃろな」
「ああ。私達には過ぎた息子だ」
たけぞうとお鈴がそう話していた。
「……わしは本来なら鈴と二度と会えず、松之助とも生涯会う事はなかったらしい。それがこうして会う事が出来、孫達の顔も見れた。運命を変えてくれたわしらの友、彼には感謝しかないわ」
「そうだな。それと、そこにいる彼女にもな」
お鈴がたけぞうの胸のあたりを指して言う。
「おお、そうじゃな」
たけぞうは懐から竹筒を取り出した。
「今はまだ寝ておるが、いずれな」
「いつかまた、な」
二人は竹筒を愛おしそうに見つめた。
たけぞう達の友と竹筒の中にいる大妖怪については、別の物語で。
その晩、四人で夕飯を取っていた時
「そうだ父上、母上。大妖魔はどうなったのです? もしやあの世界に現れて、そこで倒したのですか?」
松之助が尋ねると
「その事を話すと長くなるからまた明日、松之助が勤めから帰ってきてからにしようかの」
「はい、お願いします」
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