第49話「琵琶湖の龍神の卵探し 中編」

 たけぞう達は町の中に入り、辺りを探っていた。


 しかし壺が歩いているのに誰も驚かないな、とたけぞうが首を傾げると


「ああ、人間には見えぬようにしているのじゃ」

 長老が察してそう言った。


「そうでしたか。流石長老様ですね」


「まあの。それよりあそこから気を感じるぞ」

 長老がとある民家を指して言う。

「そうですか? それじゃちょっと聞いてきます」

 そう言ってたけぞうが民家の玄関へ向かおうとした時


「待つのじゃ。敵がいきなり襲ってくるやもしれんから、まずは窓から中の様子を見ようではないか」

「妖しい気は感じませんが、用心に越した事はないですよね」


「ああ、お主はそこで待っておれ。儂だけで行くから」

 長老が龍神に言う。


「い、いえ。私も」

 龍神が後に続こうとするが

「お主に何かあったら、夫と生まれてくる子が悲しむじゃろうが。ここは任せておきなさい」

 長老は優しい笑みを浮かべてそれを止めた。

「……はい」

 そう言われて龍神は引き下がった。

 


 そして、窓の側に来て

「たけぞう殿。儂を持ち上げてくれんか?」

「あ、はい。こうですか?」

 たけぞうが龍神を抱え、窓に近づける。

「おお、見えるぞ。ほれ、たけぞう殿も見てみい」


「はい? えーと、あっ!?」

 そこには着替え中の若い女性がいた。

 

「おうおう、ええのうええのう」

「ひょひょ、ええのうええのう、って駄目ですよ!」

 たけぞうが何かに目覚めそうになりながらも、長老を止めた。


「固い事言うな。あんただって嫌いではないじゃろ。さ、見るのじゃ」

「う、う。ま、見るだけなら」


 ゴオーン!


「たけぞうさん、長老様。真面目にやってくれませんか?」

 見ると龍神が額に青筋を立て、大木槌を持っていた。

 どうやらそれで二人を殴ったらしく


「きゅ~」

「……」

 二人共不意打ちを喰らってのびていた。




 しばらくして気がついた二人と龍神は再びあちこちを探った。

 そして

「おお、あっちから感じるぞ」

 長老が河原の方を指す。

「今度は間違いないでしょうね?」

 でっかいたんこぶをさすりながら尋ねるたけぞう。

「ああ。ほれ見てみい」


 そこでは十にも満たないであろう童女が水浴びしていた。


「あれ、壺が歩いてるー?」

 童女が長老に気づいて駆けて来た。

 何も着ないままで。


「おうおう。どれ、ちょっと触」


 ゴオーン!


「チッ、割れなかったか」

 今度はたけぞうが大木槌で長老を殴った。


「な、何をするんじゃ!?」

「幼い子供に欲情するような奴は滅殺してやる」

 たけぞうが長老を睨みながら言うと


「儂はやらしい目で見とらんわ! 無邪気な子供を愛でて何が悪い!?」

「どー見たって邪な目してましたが?」

「そりゃ十年後はええ体になっとると思うて」

「やっぱ割ろう」


「いいから早く見つけてくださーい!」

 龍神がキレて叫ぶと


「うむ、冗談はこのくらいにしてお嬢ちゃん、?」

 長老が一転して真剣な目つきになり、童女に向かってそう言った。


「え?」

「あ、長老様の姿は人間には見えないはず……まさか!?」


「……ふ、流石龍神族の長老。騙せなかったか」

 童女の声が低くなったかと思うと、その姿も変わっていき、


 黒い翼を持った烏天狗のような姿と化した。


「大妖魔! いや、影か!?」

 たけぞうが叫ぶと


「儂が本体だ。探しているのはこの壺だろう?」

 そう言って壺を取り出した。


「あ、あれです!」

 龍神がそれを指しながら叫んだ。



「そっか。おい! 壺はともかく卵を返せ!」

 たけぞうが大妖魔に向かって言うと


「卵なら捨てたぞ」


「えええーー!?」

 龍神が顔面真っ青になって叫んだ。


「え? 龍神の卵を食べて力をとかじゃなかったのかよ!?」

 たけぞうが身構えながら尋ねる。


「それも少し考えたが、卵がその辺で孵ったら邪悪な龍と化し、人間や妖怪を襲うであろう。その苦しみ悲しみもまた妖魔の糧となるからその方がいいと思ったのだ」

「じゃあ、目的は卵じゃない?」

「そうだ。一番の目的はこの壺だ」


「お前さん、その壺はあらゆる力を集められるが、悪しき縁は無理じゃぞ」

 長老がそう言うが

「分かっているわ。だが人間や妖怪、神の気を集める事は出来るだろ?」

「それでどうする気じゃ? いかに大妖魔でもそれら全てを取り込むなど」

「たしかに出来ぬわ。だが、実体を得たら?」

「……どうじゃろうな?」

 長老は冷や汗をかきながら言った。


「否定せぬのか。まあ、儂の力を感じ取ってるのならそうだな」

「だがお主の依代となれそうな者など、この世におそらくおらんぞ」

「ところがいるのだ。多くのガキを攫わせて探したが、やっと見つけた」

「な、なんじゃと?」

「神隠しの真の目的は、それだった?」


「ああ。隠密共を撹乱させるため、騒ぎも起こしてやったがな……さて、貴様らは死んでもらうとするかな」


「くっそ、させてたまるか!」

 たけぞうがそう言って大妖魔に斬りかかるが


「ふん、そんなもの当たるか」

 大妖魔はあっさりそれをかわし

「はあっ!」

「うわあっ!?」

 たけぞうを掌打で突き飛ばした。



「大丈夫ですか!?」

 龍神と長老がたけぞうに駆け寄った。


「あ、あいつ、今のままでもおれより強い」

「じゃろうの。あれは第六天魔王より強いやもしれんぞ」


「く、おれだけじゃ勝てない。せめて皆がいてくれれば、ん?」

 いつの間にか龍神がたけぞうに気を送っていた。

「これで少しは力が増したと思います」

「ありがと。でも」


「たけぞう殿。少しだけ奴を食い止めてくれぬか?」

 長老がたけぞうに言う。

「え、ええ? でも何か手があるのですか?」

「あるとも。儂はこれでも龍神族長老じゃぞ」


「ええ、じゃあ」

 たけぞうは懐から翡翠の人形を取り出した。


「む、何をする気だ?」

 大妖魔が訝しげに言うと


「何ってこうするんだよ……雨風と戯れ土木と語らい天地水流の力を従えし我が力よ、今再びこの身に宿れ!」

 たけぞうがそう叫ぶと、その体が光輝き、


「ふう、ものすごく久しぶりだよ。この姿になるのも」

 河童に戻ったたけぞうが二刀を構え、大妖魔に向かっていった。

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