第50話「琵琶湖の龍神の卵探し 後編」

 その後、たけぞうが何度も大妖魔に攻撃を仕掛けていくが


「くっそ、河童に戻ってもダメか……」

 当たりはするものの、致命傷にはなっていなかった。


「なかなかの腕だな。どうだ、儂の部下にならぬか?」

 大妖魔がたけぞうに言うと


「やだね、お断りだよ」

「そうか。では惜しいが、死ね」

 大妖魔の手から闇の気が放たれ


「うわあっ!?」

 

 たけぞうはそれをかわしきれず、人間の姿に戻って倒れた。


「さて、とどめを刺すか」

 大妖魔がたけぞうに近づいていく。

「ぐ、くそ、動けない」



「長老様、まだですか!?」

 龍神が真っ青な顔で叫ぶと


「待たせたのう。では……ガアアアーー!」

 なんと長老の体が光り輝いていき、人間の大人くらいの大きさだが、龍の姿となって大妖魔に向かっていった。


「な、何!?」

 大妖魔は長老の体当たりを受け、体勢を崩して倒れた。



「ぐ、流石龍神族長老、思っていた以上の力だな。だがそれでも儂は倒せんぞ」

 大妖魔がよろけながら立ち上がって言うと 


「倒せぬが、封ずる事なら出来るわ!」

 長老がそう叫んだ後、口から光り輝く霧のようなものを出し


「な、なんだとおおお!?」

 それを浴びた大妖魔が徐々に小さくなり


「はあっ!」

「グアアアーー!」

 大妖魔が持っていた壺の中に吸い込まれていった。



「よし、これでしばらくは出てこれぬわ」

 壺の姿に戻った龍神が言った。


「す、凄すぎですよ。ただの助平ジジイじゃなかったんだ」

 たけぞうが倒れたまま言う。

「ほっほ、これも年の功じゃ」

「それはどうなんだろ? でも、いいか」


「大丈夫ですか? 今治療しますからね」

 龍神がたけぞうに気を送り、傷を治していった。




 その後、魔の気が無くなったので位置が分かったと長老が言ったので、三人はその場所へ向かった。


「この辺りのはずじゃがのう」

 そこは森の中だった。


「卵って鶏のと同じくらいの大きさなんだよね?」

 たけぞうが尋ねると

「ええ。緑の殻で覆われています」

 龍神がそう答えた。



「うーん、それじゃ見つけにくいかな……ん?」

 たけぞうがふと木の根元を見ると、そこに卵があった。


「あ、もしかしてこれ?」

 たけぞうがそれをそっと掴んで龍神に見せると

「え、ええ!」


「よかった。はい」

「ありがとうございます……ああ、ごめんね」

 龍神は卵を受け取ると、愛おしそうにさすった。


「よかったのう。ところで卵はまた元の場所で孵すつもりか?」

 長老が尋ねる。

「いえ、違う場所でと思いますが、何処か良いか」

「天界で孵せばどうじゃ? 旦那もその方が安心じゃろう」

「ですが私には、天界へ昇る資格がありません」

 龍神がそう言って項垂れる。


「あ、そういえば位が低いって……それで?」

 たけぞうが言うと、龍神は黙って頷いた。


「ほっほ、お主は儂やたけぞう殿と共に大妖魔を封じたのじゃ。その功績で位が上がるから、大丈夫じゃわい」


「え、あの。私は何も」

「たけぞう殿に力を与え、さっきも治療したじゃろが。充分役に立っとったわい」


「そうだよ。龍神様がいなかったら、おれ途中で死んでたかも。ありがとね」

 たけぞうが笑みを浮かべて言うと、龍神は顔を真っ赤にして俯いた。



 そしてたけぞう達は、琵琶湖のほとりまで戻ってきた。


「天界の許可が降りたぞ。さ、早く旦那の所へ行ってやりなさい」

 長老が杖を上に掲げて言う。


「はい。ではたけぞうさん、長老様。ありがとうございました」

 龍神は礼を言った後、その姿を龍に変え、天へと登っていった。



 その後たけぞうは大妖魔を封じた壺を琵琶湖に沈めた。

「これでいいのですか?」

 たけぞうが長老に尋ねると

「ああ、じゃが封印は長くは持たん。数年で蘇ってくるじゃろうな」

 長老は目を閉じて答えた。


「そうですか。じゃあもっと修行して今度こそ倒します。それに今度は仲間も集めてね」

 たけぞうが胸を叩いて言った。


「頼んだぞ。儂は他の土地神に話し、大妖魔が言っていた依代となる者を見つけて保護するように伝えるのでな」

「ええ」


――――――


「そんな事があったのですね。あの、龍神様との出会いは分かりましたが、大妖魔はどうなったのです?」

 松之助が尋ねる。


「ああ。その後わしは彦右衛門さんと修行しようと、宇和島へ向かったのじゃがな」

「あ、そこで昔父上が迷い込んだという別の世界へ行かれたのですね」


「そうだ。私も同じ頃にな」

 いつの間にかお鈴がそこにいた。

 もう五十近いはずなのに、歳を感じさせない若々しさがある。


「鈴、いつから聞いとった?」

「初めからだ」

 お鈴は笑みを浮かべて言うが、目が笑っていなかった。


「……父上。ご冥福をお祈り申し上げます」

 松之助が手を合わせて言うと

「あっさり見捨てるな! ええい、とにかく」

 たけぞうが逃げ出そうとしたが、あっさり首根っこを掴まれ

「酔っていたとはいえ、私と遊女を間違えただと? ……許せぬ、死ね」

「ギャアアアーー!」




「母上、続きが聞けませんのでその辺で」

 松之助が止めに入った。

「そうだな。さあ、話せ」

 お鈴がたけぞうに向かって言うが

「ちょ、ちょっと待て」

 たけぞうはボロ雑巾のようになっていた。




 しばらくして、復活したたけぞうがまた話しだした。

「そうそう。わしらはあの世界へ行く前に再会していたのう」

 たけぞうがお鈴を見つめて言うと

「そうだな。たけぞうが彦右衛門殿の所へ行く前にな」

 お鈴が頷きながら答えた。


「その話はまだ聞いてませんでした。てか母上、幼い私を置いて何処行ってたんですか?」

 松之助がお鈴に尋ねる。

「私の母の所だ」

「お祖母様の所ですか。私は幼い頃会ったきりですが、お元気にされているのですか?」


「ここへ来る前に会ったが、元気にしとったぞ」

 たけぞうがそう言い

「そうか。母上もいいかげん、ここに住めばいいのだがな」

 お鈴が遠くを見つめながら言った。


「あの、私はてっきり掟があって離れられないのかと思いましたが?」

 松之助が尋ねると


「それをこれから話そうかの」 

 たけぞうはそう言って、また昔の事を話しだした。

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