第47話「くらっ子鳥と鬼子母神 後編」
「たけぞう殿、この度はありがとうございました」
庄屋が玄関でたけぞう達を出迎え、頭を下げた。
「うん、でもおれじゃなくて鬼子母神様と鼠之助のおかげだよ」
たけぞうが後ろにいた二人を指すと
「そちらが頭領が仰ってた鼠之助殿ですか。そして……え、えええ!?」
庄屋は驚き叫び、その場で尻餅をついた。
「やっぱ神様が来たら驚くよね」
「おいらを見ても驚かないから、大丈夫かと思ったチュー」
「あの、この人寝かせたいから、床を用意してもらえます?」
鬼子母神がたけぞうに背負われてるくらを指しながら言うと
「あ、はいただいま」
庄屋はすぐに立ち上がり、家の者に指示を出した。
その後、庄屋に居間に通されたたけぞう達は、ここまでの事を話した。
「そうでしたか、そんな事が」
庄屋は布団に寝かされているくらを見つめた。
「わたしの子、どこだべ」
くらは時折譫言で何度もそう言っていた。
「くらさんの子供、どうなったんだろチュー?」
「昔話になるくらいだから、もうかなりの時が経ってるはず。だから生きてたとしても相当なお年寄りだよね」
すると
「庄屋さん、あなたなら思い当たる節があるんじゃない?」
鬼子母神が庄屋にそう話しかけた。
「……ええ、今から二十年以上前の事ですが、寺の和尚様が大鷲に咥えられていた赤子を助けたと聞きました」
「え?」
「チュー?」
「和尚様はすぐに親を探したそうですが、見つからず……そしてその赤子をどうしようかと思ってた時、自分が引き取って育てると言った人がいて、赤子はそこへ貰われていきました」
「それがもしかすると、か。それで、その人は今どうしてるの?」
「今ここにいますよ」
庄屋はそう言って自分を指さした。
「え、庄屋さんが?」
「そうです、私がその赤子です」
庄屋がそう言った後、鬼子母神が頷いた。
「って、どういう事です? 庄屋さんはなんで若いの?」
たけぞうが尋ねる。
「異界は現世と時の流れが同じじゃないなのよ。おそらくその大鷲、いえ大妖魔の影は大昔に庄屋さんを咥えたまま異界を通り、今から二十年程前の現世に現れ、そこで討たれたのね」
鬼子母神がそう説明した。
「よく分かんないけど、ようは浦島太郎の龍宮城と似たようなものかチュー?」
鼠之助が首を傾げながら言うと
「ええ、そんな所ね」
鬼子母神がまた頷いた。
「じゃあ、庄屋さんはこの家に貰われた?」
「そうです。父は赤子だった私の顔を見た時、人々の暮らしを豊かにする相が見えたとか。だから自分の子として育て、家も継がせてくれました」
「そうだったんだ。あ、寺の和尚様もよく大妖魔の影を討って庄屋さんを助けられたね」
「和尚様は元対妖魔隠密で、先代頭領の頃は一番の使い手だったと聞きました」
「庄屋さんって、ある意味すっごく運が良かったのかもね」
たけぞうが苦笑いしながら呟いた。
そして
「ん……あ、あれ? ここどこだべ?」
くらが目を覚まし、起き上がって辺りを見渡した。
「気がついたのね。さ、庄屋さん」
「ええ」
鬼子母神に促され、庄屋がくらの側に座った。
「あの……」
庄屋がくらに話しかけようとすると
「坊や、かい?」
くらはすぐに庄屋が自分の子と分かったようだ。
「ええ、そうですよ。おっかさん」
庄屋が笑みを浮かべて頷く。
「や、やっと会えた。わたしの坊や」
くらはそう言って庄屋、自分の子に抱きつき
「うう、うう」
それまでの苦労が、想いが溢れているかのような涙を流し
「ええ。ええ」
庄屋もやっと会えた実の母を抱きしめ、思いっきり泣いた。
「よかった、よかったね」
「チュー」
それを見たたけぞうと鼠之助も貰い泣きし
「本当に良かったわね、くら」
鬼子母神も笑みを浮かべつつ、涙を流していた。
そして翌日
「あ、あんの。ありがとうございました。おかげでわたしは」
くらが深々と頭を下げ、皆に礼を言った。
「いいのよ。それよりあなた、これから大変よ」
鬼子母神が笑みを浮かべて言う。
「え、やっぱ迷惑かけたから、何かして償わないと駄目って事ですか?」
「違うわよ。息子さんは近いうちにお嫁さんを貰うのよ。そうよね?」
「ええ。村が大変だったので祝言を延ばしていたのです」
庄屋が照れながら答えた。
「そうだったべか! そりゃめでたいべ! ……でも、わたしがいたらお嫁さん、気を悪くしないだべか?」
「そんな事ありませんよ。彼女はおっかさんと同じで気立てが良くて優しい娘ですので、きっと仲良くできますよ」
「うん、うん」
くらは嬉し涙を流して頷いた。
「さてと、私はそろそろお暇するわ。幸せにね、くら」
鬼子母神はくらにそう言った後、姿を消した。
「ええ、ありがとうございました」
庄屋とくらは上を向いて手を合わせ、礼を言った。
「それじゃ、おれ達もこれで」
たけぞう達は庄屋の家を後にし、その後二手に別れて歩いて行った。
――――――
「その昔話は私も幼い頃に聞いたことありますが、本当の事だったのですね」
「そうじゃよ。その後くらさんは息子さんやその奥さん、孫達と仲良く幸せに暮らし、一生を終えたそうじゃ」
「そうでしたか。昔話を聞いた時、なんて可哀想なんだと思いました。それが今でも心に残ってましたが……本当に、本当に良かったです」
松之助が目を押さえながら言った。
「ああ、わしでは斬って止める事しか出来んかったかものう。鬼子母神様が来てくれて、本当に良かったわ」
たけぞうも昔を思い出し、目に涙を浮かべていた。
「父上、鬼子母神様はくら殿をお救いしたかったから、来られたのですね?」
「そうじゃ。後でまた会った時に全部聞いたわ。天から見て胸が苦しくなったとも言うとった」
「そうですか……っと、父上。この話が龍神様とどう繋がるのですか?」
「話にあったじゃろ、大妖魔の事が」
「え、もしや龍神様のお子も?」
「その通りじゃ。それをこれから話そうかの」
「ええ、お願いします」
「では」
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