第43話「山姥と変わった少女との旅 中編」

 翌日、山を降りて里に着いた一行。


「うわー、ドラマのセットみたーい」

 アサミがよく分からん事を言い

「久しぶりに里に降りたけど、平和だねー」

 ヤマちゃんが辺りを見渡しながら言う。


 ちなみに二人共、今はちゃんと裾の長い着物を着て笠を被っていた。

 髪や肌の色が目立ち過ぎて役人に目をつけられても厄介とたけぞうが言ったので、素直に従った。


「こういう旅もいいもんだね」

 たけぞうが前を歩く二人を見つめながら笑みを浮かべた。



 その後、宿場町に着いて宿に入り夕食を取っていた時だった。

 何やら元気が無いアサミにヤマちゃんが声をかけた。

「どしたのー?」


「ん、いや今頃ってのもおかしいけど、とにかく両親が怒ってるだろなーって思ったら、気が滅入ったのー」

「心配してるよー」

「そっかなー。ガミガミうるさいしー」

「それでもいいじゃん、アタシにはいないから、羨ましいよ」


「あれ、山姥って皆そうなのー? ヤマちゃんも一人暮らしだし」

「違うよー。アタシがちっちゃい頃に亡くなったのよ」


「な、なんで?」


「山で迷った人間を守ろうとしてね。麓に下ろすだけなら簡単だったけど、妖魔って悪い奴が襲ってきて、それでね。その後アタシはお祖母ちゃんに育てられたけど、去年亡くなったよ」

「そうだったんだ……」

 アサミが目を閉じて俯く。


「あ、ごめんね。しんみりさせちゃって」

「ううん。あ、そうだ。妖魔って妖怪とは違うのー?」


「実はアタシもよく分かんないけど、たけぞうさんがその親玉を倒したってのは知ってるよー」

 ヤマちゃんがそう言ってたけぞうの方を向くと


「うん。妖魔っての人間や妖怪の悪い心を糧にするため、それらを不幸にする奴なんだよ。てか親玉を倒したのはおれだけじゃなくて、友達や戦国の英傑とだよ」

 たけぞうが答えた。


「へえー……って、あれの主人公もたけぞう。え、もしかして?」


「は? 何?」

 たけぞうが首を傾げる。


「あのね、あたしの時代に映画……えっと、お芝居って言えばいいのかな? とにかくそれで見た物語があるんだけどさー、江戸時代の大剣豪、池免武蔵が親友や仲間達と一緒に悪い大魔王みたいなのをやっつけるって話だったの」


「あ、その話って本当だよー。で、その大剣豪がたけぞうさんだよー」


「え、うわー! 偉人に会えてただなんて、感激ー!」

 アサミが目を輝かせてたけぞうを見つめる。


「おれって後の世で有名なんだね。じゃあ彦右衛門さんはどうかな?」

 たけぞうが興味津々に尋ねるが

「えーと、彦右衛門? 登場人物にいたと思うけど、その人も本当にいるの?」


「……おれより有名でもおかしくないんだけどなあ?」

 たけぞうは首を傾げる。


「妖怪世界じゃ彦右衛門さんも有名だよー。だってたけぞうさんと一緒にこの世を救ってくれたし、その前にも奥さんと一緒に妖魔の頭領をやっつけたしねー」


「ああ、その話って妖怪達には結構伝わってるんだ」

「うん。だから大半の妖怪はたけぞうさんや彦右衛門さん、他のお仲間を尊敬してるよー」

「そっか。うん」

 たけぞうは自分はともかく、仲間達が妖怪達に敬われていると聞いて嬉しく思った。


「とにかくたけぞうさんと同じくらい凄い人なんだねー。会いたいなー」

「今は国を留守にしてるって聞いたから、無理だよ」

「そうかー。あ、帰ったらちゃんと勉強して、皆さんの事もっと知ろうっと」




 その夜、床につこうとしていた時。

「ねえ、ヤマちゃんは友達いるの?」

 アサミがふとヤマちゃんに話しかけた。

「ん? いるけどさ、おんなじくらいの歳の子はアサミだけだよー」


「そっか。あたしってあんま友達いないんだよねー」


「あれ、どうして?」


「この肌と髪とあのカッコだからよ。あれって実はあたしが生まれる前に流行ってたやつなんだ。だから時代遅れだと言われてねー」

「あれ、時代遅れなのに何でそうしたいと思ったのー?」


「……ママがあたしくらいの時にやってたのを写真で見たんだ。そんときのママってカッコ良いって思ったから」

 アサミはちょっと照れくさそうに言った。


「アサミはやっぱお母さん好きなんだね」

「ううん、今のママはあんまり。自分だってそうだったのに、あたしのカッコ見て怒るんだもん」

「心配なんだよ。孤立してないかって」

「そっかな?」

「そうだよ。あのさ、帰ったら一度思いきって話したら?」

「……うん」




 それから旅は順調に進んで三日が過ぎ、とある茶店で一休みしていた時だった。


「ふう、まだ着かないのー? 往復六日って言ってたから、もうすぐかと思ったのにー?」

 アサミが手で顔を扇ぎながら言うと


「まだ半分くらいだよ。アサミちゃんとヤマちゃんの足に合わせると、あと三日くらいかかるかな?」

 たけぞうがそう言った。


「げ、そんなー。もう疲れたよー」

「アタシもー」

 ヤマちゃんもアサミよりは体力があるが、それでも疲れたようだ。


「うーん、どうしようかな?」

 たけぞうが呟いてた時


「あの、もし」

 歳の頃は二十代半ばくらいの女性が話しかけてきた。


「あ、あんたはあの時の?」

 どうやらたけぞうの知人のようだ。


「ええ。その節はお世話になりました」

「ううん。しかしこんなとこで会うなんて、また何かあったの?」

「いえ、今日はちょっと息抜きに来てたんですよ。ところでたけぞうさん、あの娘達は?」

「ああ、あのね」

 たけぞうは女性に事情を話した。

 すると


「そうでしたか。ではわたしがお送りしますよ」

 女性が笑みを浮かべて言う。

「いいの?」

「わたしならひとっ飛びですから、遠慮なく」


「ねえたけぞうさん、この人誰?」

 ヤマちゃんが尋ねると

「ああ、この人はね」




「ひゃあー! すっごい早いー! 高いー!」

 アサミは思いっきりはしゃいでいるが 

「あ、アワワ」

 ヤマちゃんはガタガタ震えていた。

「あれ、ヤマちゃん高いとこダメなのー?」

「ち、違うよ。恐れ多いからよ!」


「あらあら、そんなに固くならないでいいわよ」

 先程の女性の声がヤマちゃんの下から聞こえてくる。

 そこにいた、というかたけぞう達が乗っているのは長い胴体に緑色の鱗、立派な角に長い顔と鬣がある生き物、いや

「龍神様の頭に乗って緊張するなって、それ無理ですー!」

 

 そう、それは龍神だった。

 たけぞう達は彼女に乗せてもらい、空をかけて一気に目的地へと向かっているところである。


「ありがとね。助かったよ」

「お安い御用ですよ。たけぞうさんには恩がありますからね」

「そんなの気にしなくていいのに」

「何を言いますか。卵だった頃の我が子を見つけてくれたんですよ」

「その子、無事生まれたんだね?」

「ええ。今は天界でお留守番してますよ」




「こんな体験、二度とないだろなー!」

 アサミが嬉しそうに叫ぶと

「そりゃそうだよー。龍神様に乗った人間なんて何人もいないわよ」

 幾分か落ち着いたヤマちゃんが答える。

「ちぇー、最初じゃないんだー。あ、最初は誰だったのー?」

「知らないよー、誰だろー?」


「ねえ、誰か知ってる?」

 たけぞうが龍神に尋ねると

「わたしが知るところでは、最初に龍神に乗った人間は素盞鳴尊様の子孫らしいですが名前までは知りません」


「そっか。ま、いつか分かるかもね」

「ええ、それよりたけぞうさん。もう少しお話しませんか?」

「うん」

 しばらくたけぞうと龍神が話していると


「ねー、龍神様ってたけぞうさんが好きなのー?」

 アサミがニヤニヤしながら尋ねた。

「な、何を言うのですか!?」

 明らかに狼狽える龍神だった。


「だって人間の時、ほっぺ赤かったし好き好き光線出してたし、今だって嬉しそうだしー」

「わたしは夫と子がいる身。たけぞうさんはたしかにいい男性だと思いますが、それ以上はありません!」

 龍神が必死で否定するが

「そっかー。でも龍神様ならこっそりいいオトコ囲ってとか出来そうー」


「ちょっとお灸を据えましょうか」

「え」

 すると龍神がジェットコースターみたく急降下したり大回転しだした。



「キャアアアーー!」

「アサミの馬鹿ー!」

「おれまで巻き込まないでよー!」

 たけぞう達は叫びながら目を回していた。


(うう、それ聞いて本当にそうしようかと思ったじゃないですか……ああごめんなさい、あなた)



 まあ、そんなこんなで半時後、目的地があるとある山に着いた。

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