第41話「覚醒した河童」

「いいのういいのう、ほっほ~」

 たけぞうは思いっきりベロベロになり、遊女を触りまくっていた。

 てか、覚醒したんか?


「あの~、大丈夫ですか?」

 マサが尋ねる。

 彼はチビチビやりながらとはいえ、あまり酔っていなかった。

 どうやら酒に強いらしい。


「だいじょ、ヒック」

「さ、あちらへ行きましょ」

 たけぞうは遊女に支えられ、隣の部屋へ歩いて行った。


「ねえ、わたし達も」

 そう言ってお蘭がマサに寄りかかる。


「あ、あの、ん?」

「どうしたんです……キャアッ!」

 マサがいきなりお蘭を突き飛ばした。


「ま、まさかお蘭さんに?」

 お蘭の背に何か黒いものが浮かんでいる。

 

 すると

「ふふ、あんたが河童だというのは分かってたわよ。妖怪なら憑きやすいから色仕掛けでと思ったが、あたしが見えるとまでは思わなかったわ」

 お蘭に憑いた妖魔が話しだした。


「妖魔、お蘭さんから出て行け!」


「無理ね、この女はもう妖魔と化しつつあるからね」


「なんだって!? 何故お蘭さんが妖魔なんかに!」


「この女はたしかに清い心を持ってたわ。でも幼いころ親に死なれ、養親にはいじめられてあげく売られて、好きでもない男に抱かれて、この世に絶望したのよ」


「そ、そんな」


「さてと、勿体無いけど、あんた死んで」


「そ、そうはいかねえ」

 マサが震えながらも刀に手をかける。 


「ホホホ、そんなへっぴり腰であたしを斬れるとでも? さっきの侍ならともかく、あんたなんかじゃ、え?」

 手がほんの少しだが、白く輝いているのが見える。

 そして


「……でりゃああ!」

 マサが勢い良く刀を抜くと、切っ先から一筋の光が放たれ


「ギャアアア!?」

 それがお蘭の胸に当たった時、妖魔が彼女から飛び出した。


「な、何故よ、うっ!」

 妖魔の姿が薄くなっていく。

 どうやら相当こたえているようだ。


「引き離すくらいかと思ったけど、予想以上だったよ」

 たけぞうが部屋に入ってきた。


「貴様、酔っていたのでは!?」

 妖魔が驚き叫ぶと

「飲んでたのは水だよ。さてと……はあっ!」

 たけぞうは刀を抜いて妖魔に斬りかかり


「ギャアアアーーー!」

 一刀両断にして消し去った。



「ふう。マサ、お蘭さんは?」

「大丈夫です、気を失ってるだけです」

 マサはすぐさまお蘭を介抱していた。


「よかった。流石だね」

「いえ、たけぞうさんのおかげですよ。本当なら自分であの技使ってなんとかできるのに、オラにお蘭さんを助けさせようとしてくれたんですね」


「……えっとね、それもあるんだけど実はおれ、あの技をちゃんと使えないんだよ」

 たけぞうが頬を掻きながら言う。


「えええ!?」


「あれって友達に習ったんだけど、何度やっても完全には無理だったんだ。でもマサならなんとなくだけど、できると思ったんだ」


「あの、もし無理だったらどうするつもりだったのです?」


「いや、マサならたとえ技が無理でも、お蘭さんを愛する心でなんとかできると信じてたよ」




「う、う?」

 お蘭が目を覚ました。

「もう大丈夫ですよ」


「ありがと。河童さん」

「え、あ!」

 いつの間にか頭巾がとれて、頭の皿が見えていた。

「隠さなくていいですよ。それと、あの時の河童さんですよね?」

「え、覚えててくれたんですか?」

「うん。わたしも一人ぼっちだったし、あの時河童さんと一緒に遊んだのが、一番の思い出だったから」

 そう言ってお蘭はマサに抱きつき

「う、う」

 それまでの思いを吐き出すかのように泣きだした。

「お蘭さん……」

 マサも涙を流しながら、そっとあやすようにお蘭の背を撫でた。




「お蘭ちゃん、よかったわね」

 たけぞうと一緒にいた遊女も部屋に入ってきた。

「あんたって対妖魔隠密の協力者だったんだね」

「ええ。あたしって霊感が強いみたいだから、お客さんとして来てた隠密の方に誘われたの。そこでお蘭ちゃんから何か変なものを感じるって話もしたわ」


「そうなんだ。しかしあんたとお蘭さんって仲良いんだね」

「ええ。あの娘、死んだ妹と似てたからね。ついつい構っちゃった」


「そっか。それであんたはこの後どうするの?」

「頭領の計らいで、隠密の方がやってる商家に奉公させてもらう事になったの」

「よかった。さてと、二人っきりにさせとくかな」

 たけぞうが部屋から出ようとすると

「あの、今度は本当にお酒飲んで遊んでくださいな。お礼って事で」

「おれ酒はあんま飲めないから少しだけ。それと抱かないからね」




 だが

「うー、ヒック」

 たけぞうは本当にベロベロになっていた。

 どうやら巧みに飲まされたようだ。


「ほんといい男。ああ、本気で抱かれたいわ」

 遊女がうっとりした表情でたけぞうを見つめる。

 すると、

「あれ、お鈴さん来てたの? なんか色っぽい服着てるね」

 うつろな目で遊女を見るたけぞう。

「違うわよ。てか誰よお鈴って」

「……そうだ、会うたびの約束だったね、それ」


「え、あ~れ~!?」

 

 お鈴とその遊女を間違えて最後までやりやがった。

 何度も。




 翌朝、土下座して謝るたけぞうだったが、

「いいんですよ、こっちは商売なんですから……激しかったわ、ぽ」




 所変わって、三郎がいる宿。

「さてと、今後はどうしますか? もしよければ正式に対妖魔隠密になって欲しいのですが?」

 三郎がマサに尋ねる。

「頭領、オラもっと世の中の役に立ちたいです。だからお願いします」

 マサは手をついて頭を下げた。

「そうか。ではこれよりお主は拙者の部下だ。しっかり頼むぞ」

「はい!」


 そしてお蘭の方を向き

「お蘭さんはどうします? よければ奉公先を世話しましょうか?」

「あの、私はこの人と夫婦になりたいです」

「え?」


「ほう。マサはどうだ?」

 三郎が尋ねる。


「なあ、オラで本当にいいの?」

「いいの。それとも私じゃ嫌?」

「……ううん。お蘭さん、オラの嫁になってくれ」

「はい」


「ははは、これはめでたいですね」

「うん。よかったよかった」

 三郎とたけぞうは笑みを浮かべていた。




「しかしお鈴さんとは違う良さ……よし、また行こう」

 その後たけぞうは金を貯めてはあちこちの遊郭へ。


――――――

 

「と、いう訳じゃ」

「母上とその方間違えただなんて。いやそれだけならまだしも、あっちゃこっちゃでとは、母上に知られたら殺されますよ」

「言うでないぞ。それに後で伝手を頼り、遊んだ相手全員が良い所へ行けるよう計らったわ」

「そんな事するの、父上くらいですよ。そうだ、マサ殿とお蘭殿はその後どうなったのですか?」


「ああ。聞けば子も生まれ、幸せに暮らしてるという事じゃ」

「よかったです。いつか会いたいものですよ」




「そうじゃ。他にも話があるが聞きたいか?」

「ええ、お願いします」

「では」

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