第40話「同族との出会い」
たけぞうは年の頃は三十に届くかであろう男性と剣の稽古をしていた。
「ほっほっほ、強くなったのう」
「ええ。ですがまだ父上には敵いませんよ」
たけぞうを父と呼ぶその男性は
「そうかの? しかし
「ええ。おかげで以前はおなご扱いされて、男にも言い寄られましたよ」
「それは難儀じゃったのう……」
そして、一休みしていた時。
「ところで父上、以前からお聞きしたかった事があるのですが」
松之助がたけぞうに尋ねる。
「なんじゃい。遠慮せず聞くがいいぞ」
「では、なぜ父上はど助平なのですか? 母上が『若い頃はああではなかったのに』と嘆いていましたよ」
「ど助平とはまた。まあええわい、話してやろう」
――――――
時を遡る事数十年前。
当時のたけぞうは江戸に来ていた。
「江戸も久しぶりだなあ。やっぱ賑やかだよ」
たけぞうは江戸の町を歩き、あちこち見物していた。
そして、とある河原の側に来た時だった。
「あれ? あの人って」
たけぞうの目線の先には、河原に座り込んで項垂れているほっかむり姿の男性がいた。
「久しぶりだな、同族に会うのって」
そう呟きながらその男性の側に近づき、声をかけた。
「ねえ」
「ひっ!?」
「ああ、驚かせてごめんなさい。あの、あんたって河童だよね?」
「え、い、いやオラは」
「隠さなくていいよ。おれも元はそうだから」
「はい?」
「えっとね」
たけぞうは自己紹介した後、それまでの事を簡単に話した。
「そうだったんですか。人間に」
「うん。てかあんた、頭の皿を隠すと人間と変わらないね」
その河童の口は嘴ではなく、人間のそれと同じだった。
あと肌は染料を塗ってるそうだ。
「ええ。騒がれてもアレだし……あの、播磨へ行けばその法師様に会えるのですか?」
「ううん。法師様はもうあの世に帰られたよ」
以前たけぞうはその法師の正体とその後を、師である鬼一法眼から聞いていた。
「そうですか。うう、オラも人間にしてもらいたかったのに」
「え、何で人間になりたいの?」
「それは……聞いてもらえますか?」
オラ、お蘭さんというおなごを遊郭から身請けしたいんです。
聞けば売られて無理矢理働かされているそうで。
なぜかと言うと、お蘭さんはオラの事なんか覚えてないでしょうけど、幼いころに会ってるんですよ。
そんときのオラは河原で泣いてたんです。
するとお蘭さんが怖がりもせずに近づいてきて、頭を撫でて慰めてくれたんです。
そしてなんで泣いてるの? と聞かれました。
オラは力もなくなんもできねえ河童で、見ての通り嘴がないもんだから気味悪がられて、他の河童にいじめられて。
するとお蘭さんは、オラにもいい所がある。
自分には分からないけどきっとあるって、一生懸命言ってくれました。
その後は他愛のない話して遊んで。ですがそのおかげで心が救われたんです。
だから、その恩返しに。
「そうなんだ。それで自由にしてあげたいと? こう言っちゃなんだけど、自分がとか思わないの?」
「だってオラ河童だし」
「それは関係ないだろ。おれだって人間と」
「ですが正直、オラの顔がおなごに好かれると思いますか?」
「うーん、悪く無いと思うけどなあ?」
彼の顔つきは美男子とは言えないが、不細工と言うほどでもない。
見方によっては愛嬌があるのでは、と思うたけぞうだった。
「それは置いといてっと。おれもお金はそんなに持ってないしなあ。ねえ、いっそ攫う?」
「それじゃ追手が来るかもしれません。だからちゃんとしたいんです」
「そうだね。でも河童が働けるとこなんて。あ、そうだ」
「え、あるんですか?」
「あるよ。早速行こう。あ、あんたの名前は?」
「オラ、マサといいます」
とある宿屋。
「丁度江戸にいてくれてよかったよ。久しぶりだね」
たけぞう達はとある武士と会っていた。
「お久しぶりですね。あの時以来でしょうか」
その武士は対妖魔隠密頭領・岡崎三郎だった。
「うん。早速だけど、お願いがあるんだ」
そう言って訳を話すと
「分かりました。たけぞう殿の頼みですし、マサ殿を雇いましょう」
三郎は笑みを浮かべて頷いた。
「あの、オラ妖怪ですがいいんですか?」
マサがおずおずと尋ねる。
「構いませんよ。それに丁度いい仕事があります。拙者はそれがあって江戸に来たんですよ」
「へえ、どんな仕事?」
「遊郭に妖魔が潜んでいるから、退治してくれって」
「でもオラ、そんなの退治できるかどうか」
「大丈夫だよ。おれも手伝うし、それにさっき技教えただろ」
「ですが」
「あのね、あの技って普通はすぐに出来ないんだよ。でもマサは半時で出来たじゃんか」
「そ、そうだったのですか?」
「そうだよ。自信持ちなよ」
遊郭に着いた。
あっちこっちから声をかけてくる女性達。
丁寧に断りながら歩いて行く。
なんか必死な女もいたが、それはたけぞうが美形過ぎだからだろう。
「ねえお兄さん達、寄ってかない?」
一人のまだ若そうな女性が声をかけてきた。
するとマサが少し後ずさる。
(この人がお蘭さん?)
(え、ええ)
「うん、いくよ(聞けばお蘭さんがいる場所が一番怪しいんだって)」
「(そうですか、では)」
座敷に上がり、蘭だけでなくもう一人遊女がいた。
席につくと
「さ、どうぞ」
その遊女がたけぞうに酌をする。
「いい香りだね」
「あら、そんな大層なお酒じゃ」
「ううん、おねーさんが」
「あらら、お上手」
「あの、たけぞうさん」
「分かってるよ。けど何もしないと怪しまれるだろ」
小声で話す二人。
「はあ、まあ」
「じゃあ、わたしがこちらのお武家様と。ねえ、それ取ってお顔を見せて?」
マサは頭巾を被っていた。
服装も武士のそれにしている。
「あ、うん。でも全部取るのは勘弁して」
そう言って口元を見せた。
「ええ。ではどうぞ」
しばらくたけぞう達は、部屋の様子を見つつ遊んでいたが……。
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