第39話「時を超えた出会いと再会」
「うーん、本当にこれ開くんですか?」
「わからん」
「てか開いても何もないかもしれませんよ」
「いや、きっとある」
とある祠の前で二人の男が何やら話し込んでいた。
するとそこに
「ほっほ、お前さん達どうされた?」
一人の壮年の男、てかたけぞうがやって来て二人に話しかけた。
「え? いや実はこの祠の戸が開かなくて、それで困ってたんです」
気の弱そうな男が言った。
「おいきよし! 余計な事言うな!」
もう一人の気の強そうな男が怒鳴った。
「あ、すみませんたけしさん」
「ふむ、お前さん達はなぜその祠を開けたいんじゃ?」
たけぞうが二人に尋ねた。
「何故かわからんが、あんたなら信じてくれそうな気がするなあ。あの、実は俺達はこの世界の者じゃないんだよ」
気の強そうな男、たけしがそう言った。
「ほうほう、ではどこか違う世界から来たと?」
「ああ、俺達は元の世界で仕事を辞めて旅に出たんだがな、突然現れた黒い服の子供に妖術みたいなものをかけられて、気がついたらこの世界にいたんだよ」
「そうじゃったのかい。それは大変じゃったの」
「あの、こんな話信じてくれるんですか?」
気の弱そうな男、きよしが尋ねた。
「わしも若い頃に異界へ行った事があるしのう、それにお前さん達が嘘を言ってるようには見えん(それにその子供って、彼じゃろうなあ)」
たけぞうは自分の友人を思い浮かべていた。
「あ、ありがとうございます」
きよしは礼を言った。
「で、もしかしてその祠が元の世界に通じてるとかで開けようとしてたのかの?」
「いや違う。この祠にはどんな願いも叶えてくれるという妖怪が眠ってるらしいんだ」
「ほうほうそれでか。じゃがそれ本当かいの? 仮にそいつが狂暴な奴だったとしたら?」
「その時はその時だ。とにかくやっと見つけた手がかりなんだ。俺達はこれに賭けようと思ったんだよ」
「でも開かないんですよ」
「ふーん、ちょっとそこどいてくれ。わしが見てみる」
そう言ってたけぞうは祠を調べ始めた。
「ふむふむ、よし」
たけぞうは剣を抜いて構えた。
「あの、何を?」
たけしが尋ねた。
「この祠には目に見えない封印が施されているからの、わしの剣でそれを斬ってやろう」
そう言ってたけぞうは剣を祠の前に振り下ろした。
すると、祠が一瞬光ったかと思うと
ギイイイイ、と音を立てて戸が開いた。
そしてその中から、おかっぱ頭で赤い着物を着た少女が出てきた。
「おや、この娘さんは座敷わらしのようじゃの」
「え? 座敷わらしってたしか姿を見たものに幸運をもたらすって、あの?」
たけしがそう言うと
「ええ、あたしは座敷わらしのおあさっていうの」
その少女が名乗った。
「おあさちゃんかいな、わしは池免武蔵、あ、たけさんと呼んでくれてもええぞい。ところで何でこんなとこにいたいんじゃ?」
「実はあたし悪い人間に騙されて、この祠に何年も閉じ込められてたの」
「そりゃまた大変じゃったのう。おそらくおあさちゃんの能力を悪用しようとしたが言うことを聞かんかったので腹いせにやった、というとこかのう?」
「うん、辛かった」
おあさは涙ぐんでいた。
「なあ、そいつどこにいるか教えてくれ。俺達がしばき倒してやるから」
たけしが怒りの表情で言ったが
「もういいよ。あの時既にお年寄りだったから、たぶんもう死んじゃってると思うし」
「そうか、あんたがいいってんなら。これでも腕に自信はあるんだがなあ、一応将軍だったし」
「へ?」
おあさは首を傾げた。
「あの、おあささんは時空を超えられる力って持ってるんですか?」
きよしがそう尋ねたが
「え? いくらなんでもそんな事できないわよ」
「そ、そうですか」
きよしはガックリ項垂れた。
「でも何でそんな事を聞くの?」
「ああ、それはのう……というわけじゃ」
たけぞうが説明すると
「そうだったの。うーん、あたしね、そっちの人が言ってたように幸運をもたらす力はあるの。だからあなた達に幸運をあげるわ」
「え?」
「そうすれば帰る手段が運良くどこかで見つかると思うの。これでいいかな?」
「え、ええ! もちろんです!」
「早速お願いします!」
たけしときよしは頭を下げた。
「うん。じゃあ……ふっ」
おあさが二人に向けて息を吹きかけた時
いきなり空から何かが祠に落ちてきた。
「あいててて、あれ? ここどこかしら?」
壊れた祠の中から南蛮人風の服装の少女が出てきた。
「おお、こりゃまた可愛らしいのう……はて? 何処かで見た事があるような?」
たけぞうはその少女を見て首を傾げる。
「あの、すみません。ここってどこですか? それと今何年ですか?」
少女はそこにいた者達に尋ねた。
「ん? ここは……でな、今は……年じゃよ」
たけぞうがそう言うと
「そうですか。あれ、転移術で帰ろうとしていたのに何でここに来ちゃったんだろ? 今まで失敗した事ないのになあ?」
少女が首を傾げていると
「ん? のうお前さん、もしかして別の世界か別の時代から来たのかの?」
たけぞうはそんな事を尋ねる。
「え? わかるんですか?」
少女は驚いた。理解できるものがいたのか、という感じで。
「ああわかるとも。なんせな」
たけぞうは事情を話した。
そして
「あ、それなら私が元の世界に送ってあげますよ」
少女がそう言った。
「本当に!? あ、ありがとうお嬢さん!」
「あ、私の名前は
「沙貴さんかい。いい名じゃのう。わしはたけぞうじゃ」
たけぞうは微笑みながらそう言った。
「ありがとうございます。じゃあ早速行きますか?」
「おお、ではお願いじゃ」
「では……あれ、ちょっと待って? 今『たけぞう』って言いました?」
沙貴がまた首を傾げながら尋ねる。
「ん? わしの名がどうかしたのか?」
「……へえ、こんな時代もあったんだ」
「は?」
「あ、いえ何でも。ではそろそろ」
「たけぞうさん、おあささん、本当にありがとう」
「お二人共お元気で」
「それでは失礼します」
たけし、きよし、沙貴の姿が消えた。
「さて、わしもそろそろ行こうかの。おあさちゃん、あんたはこれからどうするんじゃ?」
「ん~、とりあえず人間だった頃住んでたところに行ってみようかと」
「おや、あんた元は人間だったんかい? わしは元は河童で今は人間じゃ」
「え!? ってあれ? あたし実は人間の時の記憶ってあまりないんだけど、たけさんと前にどこかで会ったことあるような?」
「そうかの? まあええわい、それじゃ縁があったらまた会おう」
「うん。それじゃまた」
後に座敷わらしおあさは、たけぞうが作った村に住む事になる。
それと彼女はたしかにたけぞうと会っていた。
まだたけぞうが河童だった頃、彦右衛門と香菜の祝言の日に。
そして、
「昔会った時はもう少し後じゃったな。本当に幼いころからしっかりしておったのじゃのう」
そんなことを呟くたけぞうだった。
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