第34話「第六天魔王との決戦」

 そこは禍々しい気が充満する大広間であった。


「フフフ、よく来たな」

 第六天魔王は玉座に座ってたけぞう達に話しかけた。


「第六天魔王! 今度こそお前を!」

「そして秀頼様を!」

 三郎と信繁が叫んだ。

「フフフ、お前達ごときが我を倒せるとでも思ってるのか? いや、もし万が一倒せたとしよう。だがその場合、秀頼も消えるぞ。それでもいいのだな?」

 第六天魔王はたけぞう達を嘲笑いながらそう言った。


「く、本当におれと彦右衛門さんなら秀頼公を助け出せるの?」

 たけぞうが歯ぎしりしながら言う。

「確実とは言えんがな。では彦右衛門殿、お主が以前お地蔵様から授かった数珠を出してくれんか? 持ってるのじゃろ?」

「え、よくご存知で。はい」

 彦右衛門は懐から数珠を取り出した。

「何これ?」

 それを見たたけぞうが尋ねる。

「これは妖魔の力を吸い取って浄化させる霊界の秘宝じゃ。まずこれで第六天魔王の力を吸い取れば……だが」

「え、何か問題でも?」

「あやつの力は強大じゃ。いかにこの数珠でも全ては吸い込めんじゃろうが、弱らせる事はできるはず」

「なるほど。それで後は?」

「後は彦右衛門殿がその妖魔を滅する事ができる剣で第六天魔王を斬る。そこでたけぞう殿が河童の力、清き水の力を放てば秀頼公と第六天魔王と切り離せる、と思うのじゃ」


「わかった。では私達が奴を抑えよう。たけぞう殿、彦右衛門殿、秀頼様を頼んだぞ」

 信繁が二人に向かって言った。

「よし、ではこの数珠は、三郎殿が使ってくれんか?」

 果心居士が三郎の方を向いて言った。

「え、拙者が?」

「お主もこの数珠を使えるはずじゃからな。では儂等は信繁殿達と共に。阿国殿は三郎殿の側に」


「フフフ、させるとでも思うか?」

 第六天魔王がそう言って手をかざすと、辺り一面に黒い霧が現れた。


「いかん! 皆身を屈めるんじゃ!」

 果心居士が叫んだのを聞いて何人かは身を屈めたが……

「う!? あ、ああ」

 反応が遅れたジャンヌは頭を抱え、苦しみ出した。


「ジャンヌ殿!」

 それを龍之介が駆け寄ろうとしたが

「待て! 迂闊に近寄ってはならん!」

 果心居士がそれを止めた。

「え、果心居士殿、いったいあれは何なのですか!?」


「この霧を吸い込んだ者は忌まわしき記憶が呼び起こされてしまうのだ。そしてそれに耐えれなくなった時、その者は妖魔と化してしまう」

「なんですって!?」


「フフフ、見えるぞ其奴の記憶が。其奴はかつては国の為、弱き者達の為に戦い抜いたが、最後は汚れた権力者達によって火炙りにされてしまったようだな。……そんな、神は彼女に何の手も差し伸べなかったのか? 私みたいに彼女にも誰かが来ていたら……フフフ、哀れな」


「(え? 今一瞬ではあったが、第六天魔王ではなく秀頼様が語っていたように見えた?)」

「(ふむ、どうやらなんとかなりそうだな)」

 信繁と果心居士は心の中でそう思った。


「ジャンヌ殿はやはりあの聖女ジャンヌダルク本人だったのか」

「でもその人ってたしか二百年程前に亡くなったんでしょ? どうして生きてここにいるの?」

 三郎と阿国が話していると

「文車妖妃殿から聞いたのじゃが、ある者が既の所でジャンヌ殿を救い出したのじゃ。そしてジャンヌ殿の記憶を封じて体の傷を可能な限り治療したそうじゃ」

「そんな事が……果心居士殿、その方とは神仏か妖怪ですか?」

「いや、人間じゃ。ただし未来から来たな」

「そのような者が。だがなぜ記憶を? あ、もしやそのままでは精神が壊れると思って?」

「そうじゃ。そしてその者はジャンヌ殿を自分の時代に連れて行こうとしたみたいじゃが、ある事を知って自分の先祖がいるこの国のこの時代に送ったそうじゃ」

「ある事とは? それにもしやその者は、ここにいる誰かの子孫?」

 龍之介が尋ねると

「ある事については話すと歴史が狂うかもしれんので勘弁してくれ。それとその者はたしかにここにいる者の子孫じゃが、これは後で話そう」

「……わかった。ではジャンヌ殿は私が」

「頼むぞ。だが先にあの霧をどうにかせねば」


「それなら私と佐助で。佐助、あやつに目に物見せてやろうか」

「ああ」

 才蔵と佐助が前に出た。


「フフフ、何をする気だ?」

 第六天魔王が

「こうするんだよ、大竜巻の術!」

 佐助が竜巻を起こし、霧を一箇所に集めだした。

「フフフ、それでは霧は消えんぞ」

「わかってるよ、てか消えたら困るんだよ……才蔵!」


「ああ、はあっ!」

 才蔵が気合を入れると、その霧が無数の黒い刃となり、第六天魔王目掛けて飛んでいく。


「な、何!?」

 第六天魔王はその刃を受けて怯んだ。


「よし。オンキリキリバサラ」

「ああ、オンキリキリバサラ」

 佐助と才蔵が同じように呪文を唱え始め、そして

「大火竜の術!」

「大水竜の術!」

 火と水の竜が第六天魔王の前で合わさり、水蒸気爆発を起こした。

「グアアアアー!?」


「やったか!?」

「いや、あれくらいでは。だが」


「お、おのれ、よくもやりおったな!」

 見ると黒い霧が晴れ、第六天魔王が手傷を負っていた。



「よし、皆でかかって奴の動きを止めるんじゃ!」

「おお!」

 果心居士の声を聞いた一行が飛び出した。



 まず一学が二本の剣で斬りかかっていく。

「小癪な! 返り討ちにしてや……うぐっ!?」

 第六天魔王は右肩に痛みを覚えた。

「卑怯と言いたければ言え。あんたとまともに戦っても勝てやしない、だが勝たなければいけないんだよ」

 傳右衛門は銃口を第六天魔王に向け、力強くそう言った。

「でりゃああ!」

 その隙を突いて一学が第六天魔王の左肩に、胴に斬りつけた後

「チュー!」

 鼠之助が体を回転させ、まるで弾丸のように第六天魔王に体当たりし

「ぐ、このネズミが……うお!?」

「どすこーい!!」

 そして志賀之助が第六天魔王を担ぎ上げ、勢い良く地面に叩きつけた。


「ぐ、おのれ」

 第六天魔王は一行を睨みつけながら立ち上がった。



「う、あ、ああ」

「ジャンヌ……すまない」

 龍之介はそっとジャンヌを抱きしめた。

「え?」

「あなたが今どういう思いでいるかなど、私には計り知れん。気の利いた事なども言ってあげられない」

「龍之介さん。私は、いったい何の為に」

 ジャンヌは目を潤ませながら尋ねる。

「……前にも言ったが以前はどうであれ、ここから新しく始まったと思えばいい。私に言えるのはそのくらいだ」

 龍之介はジャンヌを離し、彼女の目を見つめながら言った。


「そう、ですね。でも……いいえ、悩むのは後にします!」

 ジャンヌは立ち上がって剣を取り、第六天魔王に向かって走っていった。

「あ、ああ(強い女性だな、本当に)」



 そして

「てりゃあああ!」

 ジャンヌは第六天魔王の背中を斬りつけた。

「ぐっ!? き、貴様、これでもくらえ!」

 振り返った第六天魔王がジャンヌに黒い気の塊を放ったが

「はあっ!」

 龍之介が槍から放った気がそれを打ち消し、そのまま第六天魔王に直撃した。

「ぐああー!」


「おう、やはり凄い気の持ち主じゃったな龍之介殿は。では儂も……はあっ!」

 果心居士が第六天魔王に向けて稲妻を落とした後


「はああっ!」

 信繁が槍で横殴りにし、第六天魔王を壁際まで吹き飛ばした。


「ぐ……」

 第六天魔王がよろけながら立ち上がろうとした時

「今じゃ!」

「はい!」

 三郎が数珠をかざすとそれが光輝き、第六天魔王から気を吸い取り始めた。

「な、なんだ!? 力が、力がぁー!」



「お、うまくいったか!?」

 たけぞうが叫んだ。


 だが

「ぐ、こ、これはかなりきつい」

 三郎はその衝撃のあまり片膝をついた。


「ああっ! さ、三郎さんが!」

「三郎殿でも一人では無理だったか。あれは相当な衝撃が来るからな、よし拙者が」

「いや、おれが手伝……あ」

 たけぞうと彦右衛門が三郎の元へ行こうとした時


「お、阿国殿?」

 阿国が三郎が手にしている数珠に手をやり

「私が三郎さんを手伝います。だから二人は最後に備えて」

 たけぞうと彦右衛門の方を向いて言った。


「わかりました。では」

「二人共頑張って」

 たけぞうと彦右衛門は後ろに下がり、その時に備えて身構えた。



 そして三郎と阿国が持つ数珠はどんどん第六天魔王の気を吸い取っていく。

「ぐ、阿国殿、大丈夫ですか?」

「ええ……あの、三郎さん」

「何か?」

「この戦いが終わったらね、誰にも見せてない踊りをあなただけに見せてあげるわ」

「え? そ、それは」

「それと私の事はまき、と呼んで」

 阿国は頬を赤く染めていた。

「……わかりました。おまきさん」

 三郎の顔も真っ赤になっていた。



「あれって縁結びの数珠?」

「違うとは言い切れんな。拙者と香菜も」

「二人共、そろそろじゃぞ」

 果心居士が二人に言った時、第六天魔王が片膝をついた。


「彦右衛門殿!」

「はっ! そりゃあああ!」

 彦右衛門が第六天魔王を力強く斬りつけると

「うぎゃあああ!?」

 第六天魔王の姿がぶれ始め、秀頼と黒い影が合わさって見えるようになった。


「よし! たけぞう殿!」

「うん! はああっ!」


 たけぞうは河童の姿になり、その全身から大水流を放った。

「グアアアア!」

 そしてそれは第六天魔王を飲み込んで宙に舞い上がり


「うわあ!?」

 そしてたけぞう達の前に一人の男、豊臣秀頼が落ちてきた。


「ひ、秀頼様!」

 信繁は秀頼に駆け寄って彼を抱き起こした。

「あ、信繁か。私は」

「よくご無事で……」

 信繁は落涙し、それを見たたけぞう達は貰い泣きしていた。



「ふ、ふふ。これで終わりではないぞ」

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