第32話「出会えた子孫を守りし勇士」
たけぞう達を乗せた蓮座は一路ある場所へと飛んでいた。
そして着いた先は。
「あ、あれは大坂城。あの中に第六天魔王が?」
彦右衛門が城を見ながら言うが
「いや、あそこを見てみい。あれが奴の棲家への入口じゃ」
果心居士が指さした場所を見ると、大坂城の遥か上空に大きな黒い穴が開いていた。
「あそこに第六天魔王が?」
「そうじゃ。あの奥にいるはずじゃ」
「……果心居士殿、本当にたけぞう殿と彦右衛門殿なら秀頼様を救い出せるのか?」
信繁は半信半疑だった。実力は認めているがそのような事ができるのかと。
「確実にとは言えんが、二人なら救える可能性は大きくなる」
「そうか。では」
「殿は最後までいてくださいよ」
佐助が小声で信繁にそう言った。
そして一行がその穴をぐぐって着いた先は、どこまでも広く荒れ果てた大地だった。
「ん? おお、えらくたくさんで出迎えてくれるの」
そこには足軽の装備をした骸骨達がいた。
「あれって一万は下らないよね」
たけぞうが骸骨達を指さしながら言う。
「ん~、だがあんなもん物の数じゃないだろ?」
佐助が大きく伸びをしながら言うと
「ああ。今は私達十勇士だけではないのだから」
才蔵が同意する。
「そうだな。では、行くか」
信繁が十勇士、そしてたけぞう達を見渡して言うと
「おおー!」
全員で鬨の声を上げ、骸骨達に突撃していった。
「はあっ!」
「やっ!」
たけぞう、彦右衛門、三郎、龍之介、一学が剣で、槍で次々と骸骨達をなぎ倒していく。
「そりゃあ!」
負けじと信繁、霧隠才蔵、穴山小助、海野六郎、根津甚八、由利鎌之助がそれぞれの得物で敵をなぎ倒していく。
「はっ!」
「そこ!」
傳右衛門と筧十蔵が鉄砲で競い合うように次々と敵を敵を撃ちぬいていく。
「どすこーい!」
「あちゅー!」
志賀之助と鼠之助が張り手で、頭突きで敵を倒し
「くらえっ!」
望月六郎が爆弾で多くの敵を吹き飛ばし
「オンキリキリバサラ、はあっ!」
猿飛佐助が稲妻を落としたかと思えば
「儂もやってみるか。はあっ!」
果心居士も稲妻を落とし、あっという間に敵を倒した。
だが、倒れた敵から黒い霧が次々と吹き出し、それが一箇所に集まり黒い巨人となった。
「げ、どうしよ?」
「皆さん下がって、ここは私が」
ジャンヌと共にいた阿国が皆に言った。
「でもあんなの一人じゃ無理でしょ」
「大丈夫よ。じゃあ」
そう言うと阿国はその場で舞い始めた。
それは神秘的な気を放ち、見るものを幽玄の世界へと誘うかのようだった。
「あれは……そうか、五代目もあれが使えるのか」
かつて出雲阿国を見ていた海野六郎が呟いた。
しばらくすると、辺り一面に暖かな光が照らされ
「……ア、ア」
黒い巨人はその光の中に溶けるように消えていった。
「ふう、うまくいったわね」
阿国は腕で額の汗を拭いながら呟く。
「あ、あれはいったい?」
「あれは退魔の舞だ」
三郎の呟きに海野六郎が答えた。
「退魔の舞、そのようなものがあるのですか?」
「ああ。だが秘伝なので普段は人に見せないそうだが、俺は一度だけ見せてもらった事がある。大坂の陣の前に餞別代わりだと言って……あっ!?」
「え、キャアア!」
さっき討ち漏らした骸骨がいつの間にか阿国に近づき、今まさに斬りかかろうとした時
「危ない!」
海野六郎が飛び出して阿国をすかさず庇ったがそこまでで、反撃できず斬られてしまった。
「おのれ!」
三郎がその敵を切り捨て、海野六郎に駆け寄った。
「ろ、六郎殿!」
「ぐっ……」
どう見ても傷は深かった。
「い、今傷の手当を!」
阿国が懐から晒布を取り出した。
信繁や十勇士達、たけぞう達も駆け寄ってきていた。
「い、いや俺はもう駄目だ。構わず先にいけ」
「で、でも」
「俺は一度死んだ身、あの世に戻るだけだ。気にするな」
「……六郎さん。あの、私は」
阿国がなにか言おうとしたが
「知っている」
六郎は皆まで言わせず答えた。
「やはり知っていたのですね。私もその事を知ったのは『出雲阿国』の名を継いだ時ですが」
「ああ。俺は生前彼女を初代だと思っていた。よくよく考えてみれば実際の初代はもっと年上なのにな、ははは」
「でもその女性『二代目出雲阿国』とあなたは大坂の陣の前に結ばれたのですよね、そして」
「あの世で彼女から聞いた。俺が死んだ後に娘が生まれていたと。そしてその孫、俺と彼女の曾孫が……お前だろ?」
「……ええ、そうです」
「え!?」
「そ、そうだったのかよ!」
その話を聞いてたけぞう達だけでなく、信繁達も驚き叫んだ。
「はは、ずっと言いそびれ、てた……ぐっ、もう、そろそろ」
海野六郎は言葉をつまらせ、辛そうに話す。
「……ひいおじいさん、会えて嬉しかった。そしてもっとお話したかったわ」
阿国の目には涙が浮かんでいた。
「それはいつかお前が天寿を全うしたその時にな。そうだ、お前の本当の名はたしか」
「ええ。ひいおばあさんと同じで『まき』です」
「うんうん。おまき……達者でな」
海野六郎は最後に笑みを浮かべ、静かに消えていった。
阿国、いやおまきは手で顔を覆って泣いた。
たけぞうや信繁達は何も言えず、ただじっと彼女を見守っていた。
「阿国殿、お気持ち察するに余りありますが、そろそろ」
三郎が阿国に語りかけた。
「……ええ。行きましょ皆」
阿国は涙を拭って立ち上がろうとしたが、力が入らずよろけてしまった。
だが
「大丈夫ですか?」
「え、ええ」
三郎が阿国の体を抱きしめるように支えた。
阿国の顔は真っ赤になっていた。
「おーい六郎~、どうやら安心していいみたいだぞ~」
佐助はニヤつきながら小声で呟いた。
「よし、じゃあ行こう」
たけぞうが言うと全員頷き、先へと進んでいった。
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