第29話「最強奥義対決・火竜対鳳凰」

 石見彦右衛門と猿飛佐助の戦いが始まった。


「そりゃあ!」

 佐助は無数の手裏剣を彦右衛門目掛けて投げつける。

「はっ!」

 しかし彦右衛門はそれら全てを素早い剣さばきで撃ち落とした。

「やっぱこんなのじゃダメだな、てりゃあ!」

 佐助は剣を抜いて彦右衛門に斬りかかっていった。


 そしてしばらくは剣の打ち合う音が聞こえるのみだった。




「すげえ、彦右衛門さんも更に強くなってる」

 たけぞうが冷や汗をかきながら呟く。

「彦右衛門殿の強さ、聞いていた以上でした。拙者など」

「三郎殿、お主も負けてはおらんぞ」

 果心居士は三郎にそう言った。


「しかし佐助殿には」

「ええ。伝え聞く通りなら、まだあの技があるはず」

 傳右衛門の言葉に一学が続けて言った。


「くぅ~、やっぱ剣の腕だけじゃ勝てないな、よし……あんたなら死なないだろ。いくよ」

 佐助はそう言って彦右衛門から離れ、間合いを取ると呪文を唱え始めた。

「オンキリキリバサラウンハッタ……はっ!」

 すると彦右衛門目掛けて辺り一面に響き渡る轟音と共に無数の稲妻が落ちてきた。

「ぬおおお!?」

 彦右衛門は驚きながら素早くそれらをかわした。




「い、稲妻? 火遁の術や変化の術は話にあったが……知ってましたか?」

「いえ、それがしも知りませんでした。あ、もしやこの技の事は今の世には伝わってないのでは? 果心居士殿、ご存知ですか?」

 傳右衛門と一学が果心居士に尋ねるが

「いや、儂も佐助殿があんな術を使えるなんて知らんかったぞ」

 

「そりゃ知らなくて当然だよ。これはあの世で修行して身につけたんだから」

 佐助が三人に向かって言った。

「な、なんじゃと!?」

「あの世で修行ってできるものなんですか!?」


「うん。俺だけじゃなく他の十勇士も修行してたよ。それでもほぼ全員あんたらには敵わなかった(殺さないようにしてたとはいえ)……せめて俺くらいは」

 佐助がさらに呪文を唱えると、今度は無数のかまいたちが彦右衛門を襲った。

「ぐわあああ!」

 彦右衛門は急所は外れたものの、傷を負って倒れてしまった。


「ああっ! 彦右衛門さんが!?」

「落ち着け、あのくらい彦右衛門殿なら大丈夫じゃろ」

 飛び出しそうになったたけぞうを果心居士が止めた。


「ジャンヌさん、何かいい手ないの?」

「すみません阿国さん。私ああいう戦いはしたことない……はずですのでわかりません」

「皆、彦右衛門さんが立ち上がっただチュー!」




「ぐ、まだまだ」

「やっぱこれでもだめか。よし、じゃあ俺の進化した最強技で勝負を決めてやるよ!」

 佐助は呪文を唱え、気を集中し初めた。


「やめろ佐助! それはさすがに相手が死ぬだろ!」

 信繁が大声を出して佐助を止めたが、

「殿、止めても無駄です。佐助はかなり熱くなっています」

 才蔵が信繁の側に来て言った。

「あいつがあんなに熱くなるのっていつ以来だ?」

「大坂の陣以来じゃねえか?」

「あの彦右衛門って男かなり強いが、大丈夫だろうな?」

 他の十勇士達が口々に言った。




「行くぞ、大火竜の術!」

 佐助の全身から炎が吹き出し、それが竜の形となって彦右衛門に向かって飛んでいく。

「ならば拙者も、今出せる最強の技でお相手いたす」

 彦右衛門は剣を構えた。


「え? あ、あの構えはまさか!?」

 龍之介は彦右衛門の構えを見て驚き叫んだ。


 火竜が彦右衛門に迫ってきたその時

「……鳳凰一文字斬!」

 彦右衛門が振り下ろした剣から凄まじい衝撃波が放たれ、それは炎をかき消す。

 そして衝撃波の勢いは弱まることなく佐助の元まで飛び

「な!? うわああ---!」

 佐助はそれを避けきれず吹き飛ばされ、城壁に叩きつけられて倒れる。


 それを見て、誰も言葉を発する事が出来ずにいた。


「はあ、はあ。ど、どうだ?」

 彦右衛門はそう言いながら城壁の方を見ると

「う……」

 佐助は起き上がった、だが

「へへ、俺の負けだよ」

 そう言ってまた倒れた。


「ふう、どうにか勝てたな。あの猿飛佐助に」

 彦右衛門は顔に少し笑みを浮かべた。


「おれも一度くらったけど、あの時よりも凄い威力になってるよ」

 たけぞうは身震いしていた。

 もしまた彦右衛門と戦っても勝てる気がしない、と思って。




「あ、あの、聞いてもいいか? あなたはいったいあの技をどこで身につけられたのだ?」

 自陣に戻ってきた彦右衛門に龍之介が尋ねた。

「ああ、それは」

 彦右衛門は仕官を求めて旅していた時に出会った剣の達人である老女に、かの技を教えてもらった事を話した。

「あの、その方の名は?」

ともえ殿、と」

「な、巴殿もこの国に来られていたのか?」

「ん? 龍之介殿は巴殿をご存知で?」

 彦右衛門が尋ねると、

「いや、巴殿とは直接話したことはないが、その孫でかの奥義の正統後継者でもあるたける殿とは友人だ。私も以前彼があの技を使っていたのを見た事があるが……彦右衛門殿のあれは彼以上の威力だったかもしれんぞ!」

 龍之介はやや興奮気味に言った。

「へ? じゃあ彦右衛門さんは本家以上って事? 凄いじゃんか!」

「たけぞう、かの流派にはもっと凄い究極奥義があるらしいぞ。だから拙者などまだまだだ」

「え? あ、あれ以上の、うわ」

 たけぞうがまた身震いしだした。


(いや、あれ一つだけでも充分凄い。なんせあれは神の血を引く者でないとあの威力にならないそうだからな)

 龍之介は心の中でそう言った。

 なんとなくだがこれは口に出して言うべきではないと思って。



「では最後は私が行こう」

 信繁が前に出た。

「殿、お気をつけて」

「ご武運を」

 十勇士達が口々に言う。


「おお、信繁殿が出てきたぞ。たけぞう殿、出番じゃぞ」

 果心居士がたけぞうに向かって言った。

「うん。でも勝てるかな? 信繁さんってさっきの佐助さんよりも強いんでしょ?」

「うむ。じゃがお主なら負けはせんと思うぞ」

「……そう?」

「そうじゃとも。さ、頼んだぞ」

 そう言われてたけぞうも前に出た。


 そして

「我が名は真田左衛門尉信繁」

「二天甲流、池免武蔵」


 互いに名乗りを上げ、両軍大将同士の戦いが始まった。

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