第28話「集団戦、そして」

 穴山小助、根津甚八、海野六郎、望月六郎。

 果心居士、本多龍之介、ジャンヌ・ダルク、五代目出雲阿国の戦いが始まった。


 最初は穴山小助と龍之介が槍で一騎打ちとなった。

 だが互いに超一流の腕前、勝負はつかず双方一旦引き下がった。


「私も槍の腕には自信があったが……穴山小助、なかなかやるな」

 龍之介が息を切らせながら言った。

「だがお前さんは気の技も使えるのじゃろ? 遠慮したのか?」

 果心居士が龍之介に尋ねる。

「遠慮と言いますか、私は力加減が下手なので使えなかったのです」

 龍之介が気恥ずかしそうに答えた。

「そうか、あいすまん。では相手を無力化する策を練ろうか」

「あの、私に考えが」

 ジャンヌが皆に策を話した。

「それいいわね、そうしましょ」

 阿国が賛成すると果心居士と龍之介も頷いた。

「では」

 ジャンヌが前に出ようとしたが、それを阿国が止めた。

「ちょっと、あなたは着物のままじゃ戦えないでしょ。着替えてらっしゃいな」

「あ、そうでした。でもここでは」

 ジャンヌがどうしようかと思った時、突然目の前に掘っ立て小屋が現れた。

「あら? これ果心居士さんが出したの?」

 阿国が尋ねるが

「儂は知らんぞ。もしや佐助殿がやったのか?」

 果心居士が佐助の方を見ると「自分も知らない」と手を横に振っていた。

「じゃあ誰が?」




「へえ、凄いねあんた」

「そうかな~?」

 たけぞうは黒い洋服を着た少年と話していた。

 掘っ立て小屋を出したのはこの少年だった。


「お主まだいたのか。しかし何故ここに?」

 彦右衛門が尋ねると

「ん? それは信繁さんや十勇士との勝負が終わったら言うよ」

 少年は片目を瞑って言った。

「そうか。ところでお主の名を聞いてなかったな」

「あ、そうだったね。僕はヒトシって言うんだよ」

 少年、ヒトシが名乗った。

「ヒトシ、か。それと今は味方なのだな」

 彦右衛門が重ねて尋ねる。

「そうだけど、信じてくれる?」

「ああ。以前はともかく、今のお主は何というか優しい気が充ち溢れていると言えばいいのかな。そのような者が悪人であるはずがない」

「うん、ありがとね」

 ヒトシはその幼く見える顔に笑みを浮かべた。




「あの龍之介という男何者だ? 私と互角だと?」

 小助は龍之介の腕前に驚いていた。

「あいつもだが向こうには果心居士もいるし、南蛮人の女も相当できそうだ。サシの勝負はおあずけとしよう」

 甚八がそう言って小助の肩をポンと叩いた。

「あの五代目阿国……彼女と瓜二つだ、ああ」

 海野六郎が頬を染めて呟くと

「お前初代出雲阿国が大好きだったもんなあ、一緒に踊ってたくらいだし」

 望月六郎が呆れながら言った。


「じゃあ皆さん、手筈通りに」

 鎧姿になったジャンヌが皆に言った。

「ええ。ではまず私が」

 阿国は前に出ると、歌舞伎踊りを始めた。

 その幻想的な美しさには両軍共一瞬見とれた程だった。


「おお! あ、あれも同じ、いやそれ以上!」

「こら落ち着け! 一緒に踊ろうとするな!」

 いや、ただ一人我を忘れている海野六郎を根津甚八が羽交い絞めにした。


「おい、何か飛んでくるぞ!」

 小助が指差した先にあったのは無数の矢だった。


「ありゃ果心居士が出したんだな。それならこいつで」

 望月六郎は懐から手のひらに収まる大きさの黒い玉を出し、それを向かってくる矢の方へ投げた。

 するとその玉は空中で爆発し、その爆風で矢を吹き飛ばした。


「さすが望月六郎、こんなものは余裕じゃろな。だが」


「だから落ち着け!」

「離せ~! ……ぐふっ!?」

「あ!?」

 海野六郎は煙の中から現れた龍之介に槍の石突でみぞおちを突かれた。

 甚八に羽交い絞めにされてたのでよけれずまともに喰らってのびてしまった。


「アホかー! そんな間抜けなやられ方あるかー!」

 佐助が怒りながら叫び、信繁は顔に縦線を走らせて沈黙していた。


「おのれー!」

 小助が龍之介に向かって突進していった時

「ねえ~、こっち見て~」

「ん? うわああ!?」

 阿国は着物をはだけさせていた。胸が見えそうなくらいに。

「隙あり!」

「ぐふっ!?」

 ジャンヌは剣の柄で小助の首筋に一撃を喰らわせて気絶させた。


「お前もかーーー!」

 佐助がまた叫んだ。

「小助、お前そんなにウブだったか?」

 信繁は大汗をかいて呟いた。


「あの、そこまでしなくてもよかったんですが」

「でもこのくらいしないと気をひけないわよ~」

 ジャンヌは何も言えなかった。


「おのれ~! だがもう同じ手はくわんぞ!」

 甚八と望月六郎が叫ぶと

「そうじゃろな、ではこれならどうじゃ?」

 果心居士はそう言って呪文を唱え始めた。

 すると、その姿が何十人にも増えた。


「なっ、分身の術か!?」


「それはどうかな? やれ!」

 何十人もの果心居士達は二人に一斉攻撃をしかけた。

「うわあぁー!」

 さすがの根津甚八、望月六郎も多勢に無勢、あっという間にのされてしまった。


「てかさ、あんな事できるなら最初から果心居士さん一人で倒せたんじゃ?」

 たけぞうがそれを見て呟くと

「あ~、あれ結構法力使うはずだからそうそう使えないと思うよ~」

 ヒトシが腕を組みながら言った。

「そ、そうなのですか。ところでヒトシ殿、あなたももしや我々と共に」

 三郎がおそるおそる尋ねると

「戦いたいのはやまやまだけど、僕は別の用事があるんだよね。じゃあまた後でね~」

 ヒトシはそう言って姿を消した。


「い、いったいあの方は何者なのですか?」

「さあな。だが彼は味方、それは間違いない」

 彦右衛門が腕を組んで言う。そして

「おれもそう思うよ。それにあいつって今回初めて会ったはずなのに、何故かずっと昔から友達だったような気がするんだよね」

 たけぞうもそんな事を言った。




「ま、まあ殺さないように配慮しているのだな。向こうも」

「そのようですね。さてと、いよいよ俺の出番か」

「気をつけろよ。残っている二人はどちらもかなりの強者だ」

「ええ。では行ってきます」


「お、十勇士最後の一人、猿飛佐助が出てきたぞ」

 皆の元に戻った果心居士が言うと

「では拙者が行こう。たけぞうは信繁公を頼む」

 彦右衛門が前に出た。

「うん、わかったよ。」




「お、近くで見るとやはり強そうだな。うん、あんたみたいな奴は戦国乱世にもいなかったよ」

「真田十勇士最強と言われる猿飛佐助殿にそう言っていただけるとは、光栄ですな。では」

「ああ」

「いざ、勝負!」


 石見彦右衛門対猿飛佐助の戦いが始まった。

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