第27話「鉄砲対決」
稲富傳右衛門と筧十蔵が前に出た。
「なあ、ちょいと提案があるんだが」
十蔵が傳右衛門にそう話しかけた。
「ん、提案とは?」
傳右衛門は首を傾げながら尋ねた。
「いや、ただ鉄砲で殺しあうのもなんだ。ここはひとつ鉄砲の腕で勝負しないか?」
「腕? 的当てでもするのですか?」
「ああ。だがただの的ではない。動く的、小さい的、あと一つで三本勝負といかないか?」
「あと一つとは?」
「それは最後に言う。まあ俺も腕には自信があるし、あんただっておそらく当代きっての使い手だろう。どうだ、受けるか?」
「……はい」
傳右衛門は静かに頷いた。
「よし決まった。では佐助、動く的を頼む」
十蔵は佐助の方を向いて言った。
「あいよ」
佐助が呪文を唱えると、二羽の黒い大鷲が現れた。
「最初は一人一羽ずつあの素早く飛ぶ大鷲を撃つんだ」
「わかりました」
「大丈夫かなあ? あれ傳右衛門さんが不利になるようにしないか?」
たけぞうがそう呟くと
「そんなインチキするような十勇士ではないわい」
果心居士がそう言った。
「ではまず俺から」
十蔵は銃を構えた。
大鷲は目にも留まらぬ早さで空を飛び回っている。
「……そこ!」
狙いを定めた十蔵が引き金を引くと、辺り一面に銃声が響き渡った。
「グワー!」
大鷲は鳴き声をあげて消えた。
「よし、じゃあ次はあんただ」
「ええ、では」
傳右衛門も銃を構え、そして瞬く間に大鷲を撃ちぬいた。
「あちゃ~、一本目は傳右衛門の勝ちか」
十蔵が額に手を当てながらそう言った。
「は? あなたも撃ちぬいたでしょ?」
傳右衛門が首を傾げると、
「いや、傳右衛門の方が撃ちぬくまでの時間が早かった。だから俺の負けだ」
「そうですか」
傳右衛門は無表情ではあったが内心では喜んでいた。
「名前を呼んでもらえてる、自分は筧十蔵に認められたのかな」と思って。
「では二本目だ。次はここからあの木にぶら下がってる的を撃つんだ」
十蔵が指さした先には大きな木があった。
そしてその枝から細い糸で折り紙ほどの小さな紙を吊り下げていた。
「……あれをですか」
「そうだ、見えてるなら勝負できるな」
「二人がいる場所から木まで三十間はありそうだが、あれに当てられるのか?」
彦右衛門がそう呟いた。
ちなみに一間=六尺=約1.8メートルである。
「ではまた俺から」
十蔵が狙いを定め、今度はすぐ引き金を引いた。
そして銃声とともに紙に穴が空いた。
「相変わらず凄えな。ちゃんと真ん中に当たってるぞおい」
佐助が確認に行くと彼の言った通り紙の中央に穴が空いていた。
「では次は拙者が」
傳右衛門も構えるとすぐに撃った。
そして
「嘘ぉ、こっちも真ん中だよ」
佐助は穴が空いた紙を見て驚いた。
「そうか、じゃあ引き分けか」
十蔵がそう言うと
「ちょっと待って下さい。佐助殿、十蔵殿が撃った紙と拙者が撃った紙を重ねて見てください」
「ん? ああわかったよ。こうか?」
佐助が二枚の紙を重ねた。
「よく見て下さい、全く同じではないでしょう」
「え? あ、よく見ると下にある紙の穴は、ほんの僅かだけど真ん中から右に」
「そっちは拙者が撃った方です。なのでこの勝負は十蔵殿の勝ちです」
「ふ、言わなければわからんかったのに。まあいい、ではこれで五分だな」
十蔵が言うと
「ええ、では最後の勝負は何ですか?」
「それはな」
「え~と、どうしてこうなったの?」
たけぞうが木に縛られていた。
頭に柿を乗せて。
「お主がそちらの大将だろう、なら当然だ」
少し離れたところで同じく木に縛られて頭に柿を乗せている信繁がそう言った。
「大将は三郎さんでしょ? もしくは主人公彦右衛門さんが」
たけぞうがそう言うと
「何を言われますか。たけぞう殿こそ我が方の大将です」
「それにこの物語の主人公はたけぞうだろうが」
三郎と彦右衛門がそう言った。
「後で二天甲流奥義を二人に放ってやる」
たけぞうが珍しくキレていた。って当然か。
「最後の勝負は自分とこの大将の頭に乗ってる柿を撃つんだ」
十蔵がそう言うと
「あの、他の勝負にしてくれませんか?」
傳右衛門は真っ青な顔で言った。
「ダメだ」
「でももし外したら、そちらだって」
「絶対に外さん」
傳右衛門は十蔵の気迫に怯んだ。
「では俺から行くぞ!」
十蔵が銃を構え……。
「……はあっ!」
掛け声と共に銃声が響き渡った。
そして、
「見事だな、十蔵」
信繁の頭にあった柿は撃ちぬかれていた。
「じゃあ次は傳右衛門だ」
「う……う」
傳右衛門はガタガタと震えていた。
「落ち着け! お前ならできる!」
三郎が傳右衛門に向かって叫んだ。
「し、しかし」
「傳右衛門さん、早く撃って」
たけぞうがそう言った。
「え、でも」
「おれは信じてるから」
たけぞうの目には嘘偽りは感じられなかった。
「……はい」
傳右衛門が銃を構え、そして銃声が鳴り響いた。
「……やったね」
たけぞうの頭にあった柿は見事に撃ちぬかれていた。
「あ……や、やった」
傳右衛門は気が抜けたのかその場にへたれこんだ。
「今度は撃った時も当てた位置も全く同じだったよ」
佐助が両手に柿を持って言った。
「ではこの勝負は引き分けか」
果心居士がそう言うと
「そのようだな、おい」
十蔵が傳右衛門に話しかけた。
「は、はい?」
「いい勝負だったぞ」
十蔵は傳右衛門の手を取ると
「また勝負してくれや……次があったらな」
小声でそう言った。
「ええ」
そして両者は下がっていった。
「本当にいい勝負だったな。さて次は」
「殿、あまり長い時間はかけられませんよ」
佐助がそう言うと
「そうだな。ではどうするか」
信繁がそう言った時
「それならば、我々四人が向こうの四人と集団戦で」
「わかった。では頼むぞ皆」
「はっ!」
「お、次は四人で来たか。ではこちらは儂と龍之介殿、ジャンヌ殿、阿国殿で行くか」
「ああ」
「はい」
「ええ」
果心居士、本多龍之介、ジャンヌ・ダルク、五代目出雲阿国。
その四人が彼等に向かって行った。
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