第20話「日下開山と武術の使い手」

 一行は麓の村へと歩いていた。

「しかし村に何があったんでしょうかね?」

「三郎殿、もしやその村は妖魔に?」

 彦右衛門がそう言ったが

「いや、それなら文車妖妃殿も急ぐように言うかと」

「そうだな。では最悪の事態というわけではないのだな」


「ジャンヌさん、龍之介さん、歩きづらくない?」

 たけぞうは二人に声をかけた。

「大丈夫だ。しかしこの服もなかなかいいな」

 龍之介が自分の着ている物を見て言った。

「私も大丈夫ですよ。ありがとう」




 しばらくの後、一行は村の入口に着いた。

「ここで待ってれば志賀之助さんともう一人が来るんだよね?」

「そのはずですが」

 たけぞうと三郎が話していると


「ん? お前さんら、今ワシの名を言ったでごんすか?」

 そこに現れたのは身の丈八尺はあろうかという大男だった。


「で、でっかい!」

 たけぞうは思わず叫んだ。

「ハハハ、スマン驚かせたか」

 大男は豪快に笑いながら謝った。

「あ、あの、あなたがもしや明石志賀之助殿ですか?」

 三郎が尋ねた。

「そうだ。ワシが志賀之助でごんすが」

「あなたがあの日下開山」

 彦右衛門が志賀之助を見上げながら言う。

「おお、そうも呼ばれてるな。で、お前さんらは?」

「あ、あの拙者達は」

 三郎は自己紹介の後、事情を話した。


「なるほどなぁ~、それでワシを探しとったでごんすか」

「ええ。どうかお願いします。拙者達と共に戦ってはもらえないでしょうか?」

 三郎は頭を下げて志賀之助に頼んだ。

「もちろん、と言いたいがその前にこの村の事をなんとかせんといかんでごんす」

 志賀之助がそう言った。

「あ、あのこの村に何があったんですか?」

「いやな、前の大雨でこの村の近くで土砂崩れが起こって川が埋まってしまったみたいでなあ、村人達はなんとか土を掘り返したりしてたんだが、男何人がかりでもどうしても動かせない大岩があって困り果てていたそうだ。それでワシがそいつをどかしてやろうと思ったんでごんす」

「あ、あの。志賀之助殿はそのような大岩を動かせるのですか?」

「ワシこれでも力には自信あるからなあ。でもどうだろうな?」

 志賀之助が首を傾げると

「あのさ、おれ達も手伝うよ。そうすれば早く終わるでしょ?」

 たけぞうがそう言った。

「そうだな、でもまずワシだけでやらせてもらえんでごんすか? こう言っちゃなんだが、ちょっと力試ししたいのもあるんだわ」

「うーん、皆どうする?」

 たけぞうは皆に尋ねた。

「まあ、志賀之助殿がそうしたいのであれば。駄目なときは皆でやればいいのだし」

 三郎がそう言った後、一行は頷いた。

「よし、じゃあ早く行こうよ」

「待て、話によるともう一人もじきに来るはずだろ」

 彦右衛門がそう言った時だった。


「あれー? あんたもしかして彦右衛門さんじゃないかチュー?」

「は? あ、お主は!」

 そこにいたのはどっからどう見ても大ネズミの妖怪だった。

「お主はたしか猫又のケンカ友達の?」

 彼は以前妖魔に取り憑かれてしまったところを彦右衛門に救われた大ネズミだった。

「そうだチュー、あ、おいらの名前はみっき」

「それ以上言うな-------!」

 その場にいた全員が叫んだ。

「冗談だチュー、おいらの名前は鼠之助ねずみのすけだチュー。彦右衛門さん、あの時はありがとうだチュー」

「ああ、それは構わん。で、お主何故ここにいるのだ?」

 彦右衛門は鼠之助に尋ねた。

「おいら国中を旅して修行しながら強いやつと戦ってたんだチュー」

「修行? 見たところ武器は持っていないが、体術か?」

「うん、おいら拳法や柔術とかいろいろできるチュー」


「もしかすると、この鼠之助殿も」

 三郎が彦右衛門に尋ねる。

「そうだろうな、こやつ相当強いぞ」

「では、鼠之助殿」

 



「うん、わかっただチュー。おいらでよければ力を貸すだチュー」

 話を聞いた鼠之助は了承した。

「じゃあ決まったところで、まずは村の大岩をなんとかしよ」

 たけぞうに促されて一行は村へ入っていった。

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