第21話「力を合わせて」

 そして一行は村に入ってから村長の家を訪ね、件の場所へ案内してもらった。


 その場所は川の上流。

 志賀之助の何倍もの大きさの岩によって川がせき止められ、流れが変わっていた。


「こんなのどこから流れてきたんだよ?」

 たけぞうは首を傾げていた。

「それは私どももよくわからんのです、土を掘り返したらこれが出てきて……どかそうとしても無理でしたし、割ろうとしても傷ひとつつかないんです」

 村長は困り顔でそう言った。

「ねえ志賀之助さん、これ一人で動かせる?」

「う~ん、ちょっとやってみるでごんす」

 志賀之助はその大岩に手をかけて力いっぱい押し始めた。

「ぐ、ぎぎ」

 ズズ……。


「おおっ!?」

 大岩が少し動いたが……。


「ゼエゼエ……こ、これっぽっちしか動かせんとは、ワシはまだまだでごんす」

 どうやらそれが限界だったようだ。

「いやいや、これが動かせるものだとわかったのはお主のおかげだぞ。後は皆でやればいいではないか」

 彦右衛門が志賀之助を慰めた。

「そ、そういう考え方もあるか。言ってくれてありがとうでごんす」




 そしてジャンヌを除く一行と村の力自慢の男達が、志賀之助を中心にして大岩に手をかけた。

「では、せえ~のお!」

 

 大岩は少しずつ動いているのだが、


「ぐっ、この調子では川が流れるようになるのはいつになるか」

 三郎がそう言うと

「せめてこの大岩が半分の大きさなら、ワシ一人でもなんとかなるんでごんすが……しかし割る事も削る事もできんのでごんすよなあ」

 志賀之助も岩を見つめながら呟いた。


「半分に割る? ねえ、おいらちょっと試したい事あるんだけどいいかチュー?」

 鼠之助が皆に言った。


「試したい事? 何かいい方法が浮かんだの?」

 たけぞうが尋ねる。

「うん、前にある人に教わった技があるんだけど、こんな大きな岩に試した事がないんだチュー。だから駄目なときはごめんだチュー」

「いいよ、試せるものは試してみようよ」

「ありがとだチュー。じゃあやってみるチュー」

 そう言って鼠之助は大岩をよじ登っていった。


「いったい何をする気なんでしょうか?」

「まあ、見ていよう」



 鼠之助は大岩のてっぺんに着くと指で岩をなぞり始めた。

「ここかな? よし」

 そう言って鼠之助はどこからか手甲のようなものを取り出して手にはめた。

 そして

「……アチュー!」

 掛け声と共に大岩に拳を叩きつけた。すると


 大岩はピキピキと音を立て、そして半分に割れた。


「ええええーーー!?」

 そこにいた全員が驚きの声を上げ 


「やったー! できたチュー!」

 鼠之助は大喜びで飛び跳ねていた。


「な、なんという破壊力だ。それが修行の成果か?」

 彦右衛門はもし以前戦った時に鼠之助があれを使えていたら自分は、と思いながら尋ねた。

「うん。でもこれはおいらの力が強いわけじゃないチュー。どんな硬い物でも一箇所は弱いところがある、そこを突けば金剛石でも粉々になるって旅の拳法使いに教わったんだチュー」

「あの、その方はいったいどなたなんですか? そのような使い手がいたら噂になってると思うのですが?」

 三郎が不思議に思って尋ねた。

「んとね、名前は教えてくれなかったけど、違う国から来たって言う禿頭の拳法使いだチュー」

「あの、その御方は今どこにいるのですか?」

「おいらに技を教えてくれた後、仲間達の元へ帰ると言ってパッと消えたんでわかんないチュー」

「それ、仙人か妖怪?」

「いや。もしかすると私と同じで、遠い国から来た者なのかもな」

 龍之介がそう呟いた。




「よし、これならワシ一人でも……そりゃあああ!」

 ズズズズズ……

 志賀之助が割れた大岩の半分を押し始めると、それは勢い良く動き出した。


「どすこーい!」

 ズズ……

 志賀之助は片方の大岩を動かし終えた。

 そして次を押そうとする前に皆の方を向き

「さあ、皆は離れてるでごんす。これをどかしたら水が勢い良く出るだろうから」

「うんわかった!」

 たけぞうが皆に向かって叫ぶと、全員が川のあった場所の両端に離れた。


「では、そりゃあああ!」

 志賀之助は今度は大岩に思いっきりぶつかっていった。



 大岩は勢い良く遠くへ移動していった。

 そして、ザアアアーーと大きな音を立て、水が勢い良く川に流れだした。



「おおお!」

「や、やったー! 川が元に戻ったあーー!」

 村人達は皆喜びの声をあげた。


「ふう、やったでごんすな」

「お疲れ様、さすが日下開山だね」

 たけぞうが志賀之助に声をかけた。

「いやいや、これワシ一人じゃできんかったわ。鼠之助がいてくれたおかげでごんすよ」

「そうだね、鼠之助もお疲れ様」

「ありがとチュー。でもおいらだけじゃ上手くいっても岩を半分に割るだけでどかせられなかったチュー。志賀之助さんがいてくれたから」

「まあ二人がいてくれたから、だな」

 彦右衛門が間に入ってそう言った。

「そうだよね。これから先も皆で力を合わせてやってこうよね」




「それじゃあ行こう、残りの四人が集まるという住吉大社へ」

 志賀之助と鼠之助を加えた一行は村人達に見送られて旅立っていった。


 目指すは住吉大社。そして敵の本拠地は……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る