第13話「その理由」

「ところでこいつら、どうして町を襲ってきたんだ?」

「妖怪が人間に迫害されて、我慢の限界が来ていたのかもな」

「小次郎さん、それどういう事?」

「ご存知かもしれんが、妖怪などの異形の者はその姿形だけで迫害を受けるものもいる。異形の者達は別段何もしていないのにも関わらずな」

「そうか。でもさ」

「ああ、武力行使などしては余計に溝は深まるだけとわかっていても……こいつらもそういう者だったのかもしれない」

 小次郎はそう言って黒鬼達の骸に向かって手を合わせ、たけぞうも無言で手を合わせた。



「ところでたけぞう殿、勝負の事だが」

「うん、どうする?」

「私が場所を手配するので、数日待ってくれないか?」

「別にいいよ。でも何かアテがあるの?」

「ああ。その場所を使う許可をとってくる」

「ならおれは城下町の宿で待ってるよ」

「わかった。それではまた連絡する」

 そう言って小次郎は去っていった。




 その夜、たけぞうは軽く修行しに池のほとりまで来ていた。


「ふう、このくらいにしておくか」

 たけぞうが帰ろうとした時、池の方から人の気配がした。


「ん? 誰かいるのか?」


 池に近づいて見ると、うら若い女性が水浴びしていた。

 当然素裸で。

「ひょっひょっひょ、ええのうええのう……はっ? おれはいったい何を?」

 一瞬何かが降りてきた。


「!?」

 女性はたけぞうに気づいて慌てて逃げ出す。

 その際に一瞬だけ月明かりで顔が見えた。


「あ? 今の人ってもしかして」



 それから数日後、たけぞうが泊まっている宿に小次郎がやって来た。

「たけぞう殿、使用許可が取れましたよ」

「そうなんだ、それで勝負の場所ってどこなの?」

「巌流島です」

「え、そんな凄い場所で?」

「ええ。あなたと心ゆくまで戦いたいので、そこでと思いました」

「よーし、なら。その前にちょっと聞きたいんだけど」

「何でしょう?」

「何で小次郎さんは男の振りしてるの?」

「……たけぞう殿、何を仰ってるんですか? 私は」

「とぼけても無駄だよ、えい!」


 たけぞうは小次郎を押し倒して着物の胸元を広げた。

「あ……」

 小次郎の胸にはサラシが巻かれていた。

 そしてその胸は女性のものだった。

「やっぱり。あの時の女の人って小次郎さんでしょ?」

「……そうですよ、あの、ちゃんと話しますのでどいてくれませんか?」

「あ、ごめんね」

 たけぞうは小次郎から離れた。


 そして

「ではまず、私はあなたもご存知の巌流佐々木小次郎の孫なのです」

「ええっ!? で、でも何故」

「男の振りをしていたかというと、私は祖父のような剣豪になりたいのです。だけど女では」

「それで男の格好を?」

「ええ、そうです」

「それだけ?」

「え?」

「いや、何か他にもあるんじゃ?」

「……さすがですね、でもそれは言えません。御容赦ください」

「わかったよ。で、勝負はいつする?」

「明日でよろしいでしょうか?」

「うん、わかった。あ、もう一つ聞いていい?」

「何でしょうか?」

「本名はなんていうの?」

「……りん

「お鈴さんか、いい名前だね」

「今は小次郎と」

「わかったよ、小次郎さん」



 そして翌日、たけぞうと小次郎は巌流島へと向かった。

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