第14話「交わる時」

 巌流島に着いたたけぞうと小次郎

 そこには既に誰かがいた。


「おお、来られたか」

 それは白髪で壮年の侍だった。


「ご家老様、この度はありがとうございます。また直々に立ち会っていただき光栄です」

 小次郎が礼を言った。

 どうやらこの男は藩の家老らしい。

「いや、礼には及ばんよ。ところでそちらが池免武蔵殿か?」

 家老はたけぞうを見て言った。

「はい、おれが池免武蔵です」

「そうか、いい面構えだのう。そしてかなりの強者と見た」

「いえ、そんな事ないですよ」


「そうかのう? ……姿形は似ていないが、何故か義父を思い起こさせる」

 最後の方は小声だった。


「え?」  

「あ、いや何でもない。さて、早速じゃが始めるか?」


「はい」

「ええ」


 たけぞうと小次郎は向い合って構えた。


「では、始め!」


 両者は身構えたまま、一歩も動かなかった。


 迂闊に動いたらその時点でやられる、そう思いながら相手の隙を伺う。


 

 どの位の時が流れたか、と思ったその時


 海風が二人の間をすり抜けた。



「……でりゃああ!」

「たあああ!」


 双方同時に動き、閃光が走ったかと思うと


 二人共倒れていた。


「あ、相打ちか?」

 家老は二人の側に駆け寄った。


「う……」

「……」

「おお、二人共息がある」

 家老はほっとしていた。


「う……たけぞう殿、何故峰打ちを」

「こ、小次郎さんこそ」

 どうやら双方相手に峰打ちで挑んだようだった。


「ふ、私はまだまだ甘いですね」

「おれだって」

「よし、この勝負は引き分けということで、さ、二人共怪我はないか?」

 家老は手際よく二人の手当をした。




 そして

「たけぞう殿、少し聞きたいのですが」

「何?」

「違っていたら申し訳ありませんが、あなたは人間ですよね? でも何かが」

「あ、おれ今は人間だけど元は河童だよ」

「やはり。人間以外の気も感じたから、もしやと思いました」

「そういう小次郎さんも、何か普通の人間とは違う気を出してるね」

「お気づきになりましたか。私は父である佐々木小次郎の息子と妖狐の母親の間にできた子です」


「え? 人間と妖怪の子なの?」

「そうです。そのせいもあり私は。ご家老様は私の素性を知っても普通に接してくださいましたが」


「ああ、相手の一面だけを見てその者を判断することなど愚かじゃ、とワシは思うのでな」

 家老は笑みを浮かべて言う。

「そうだよね、それだけで判断できるわけがないよ」

「しかし世の中はそうはいきません、だから私は強くなって人々に認めてもらい、その上で」

「そうか。よし、おれもそうしよう」

「え?」

「前におれを人間にしてくれた人や他の人達に言われたんだ。おれはいずれ人間と妖怪などの異形の者たちとを仲良くさせれるんじゃないかって。できるかどうかわかんないけどやってみるよ」

「……たけぞう殿」

「二人共、話の続きはワシの屋敷でせぬか?」

 家老が二人に言った。

「じゃあそうします」

「はい」


 そして一同は家老の屋敷へと向かった。




 その夜

「ん? 誰?」

 寝ていたたけぞうは何者かの気配を感じて目を覚ました。

「私です、たけぞう殿」

 障子の向こう側に小次郎がいた。

「あ、小次郎さん」

「入っていいですか?」

「いいよ」

 障子をそうっと開け、部屋に入ってきた小次郎は、男装を解いて薄い着物一枚だけを着ていた。

「あ、今は女に戻ってるんだね」

「ええ、ですから今は鈴とお呼びください」

「うん、お鈴さん。何か用でも?」


 小次郎、いやお鈴は何も言わず、たけぞうに抱きついた。

「え?」

「こんな格好で来たんだからわかるでしょ?」

「……えーと」


 ――――――


「という事もあったのう。ひょっひょっひょ♪」

「で、その後どうしたのですか?」

「ん? それは知っとるじゃろ?」

「いや、もうちょっと詳しく」

「言うてもいいがの、大いなる意思に消されるかもしれんぞ」

「それもそうですね」


「まあ、その後ワシは修行を重ね二天甲流を完成させ、そして」

「妖怪と人間の仲を取り持つための旅に出た、と」

「そういう事じゃ。そして歳を取り、旅を終えたワシは見どころのある若者達に奥義を授けたのじゃ」

「え、後継者がいたんですか?」

「ああ。何人かいたわい」

「そうなんですか。じゃあ今も何処かで」

「伝えてくれとるじゃろのう、その子孫達が」


 ――――――


「さてと、行くか」

 たけぞうはまた旅に出た。

「しかしお鈴さん、何しに来たんだろ? 何故かあの時の記憶が無いんだよなあ?」


 それは鈴が妖力を使い、たけぞうの記憶を封じたからである。

 これは一夜限りの夢……と思って。

 だが後にとある事がきっかけで思い出すのだが、それはいずれまた。

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