第11話「託されたもの」
「この団子美味いなあ」
たけぞうはとある茶店で一休みしていた。
「ふう、のどかな風景だね……あれ?」
見ると初老の山伏が大勢のチンピラに追われていた。
「ひえええ、来るでないわー!」
「やかましい! よくも騙しやがったな!」
「騙してなどおらんわ! あんたらが勝手にそう思っただけじゃろがー!」
「うーん? 何だありゃ?」
たけぞうが首を傾げていると、その山伏が側に駆け寄り、たけぞうの後ろに隠れた。
「お侍どの、どうか助けてくれ!」
「助けてって、何があったのさ?」
「あいつらがワシを詐欺師呼ばわりして追っかけて来るんじゃ!」
するとチンピラ達もやって来て
「呼ばわりって詐欺師そのものじゃねえか! ほらこの絵! あの
チンピラの親分らしき男が手にしていた絵を見せた。
それは素人目で見ても有名な絵師が描いた物には見えないが。
「偽物じゃないわい。それはたしかに永徳さんが描いた物じゃ。三条河原の橋の下に住んどる自称絵師ののう」
「だからそれ偽物だろが!」
「さっきも言ったがあんたらが勝手にそう思っただけじゃろが! ワシはあの大絵師狩野永徳だなんて一言も言うとらん!」
「この野郎……おいてめえら、やっちまえ!」
「えーと、ねえあんた達。ムカつくのはわかるけど乱暴はやめようよ」
たけぞうが間に入って止めた。
「あ、何だてめえ? 一緒にやられるか?」
「やられるのはそっちだと思うよ?」
たけぞうは剣に手をかけ、親分を睨む。
「ぐっ? こ、こいつ只者じゃねえ」
親分はたけぞうの気迫に怯んだ。
「へえ、少しはできるようだね。で、どうする?」
「……チッ、ここはあんたに免じて引く事にするぜ」
親分はそう言って手下達を連れて去っていった。
「ありがとう、おかげで助かったわい」
山伏が礼を言う。
「あのさ、あんたが紛らわしい事したからああなったんでしょ」
「向こうが勝手にそう思っただけじゃ。ワシは今までもこうして物を売ったりしとるが、皆最後まで聞かずにのう」
「あのねえ……」
たけぞうは凄まじく呆れていた。
「でものう、世の中には本当に人を騙そうとする輩が多い。もしワシに騙されたと思ったのなら今後気をつけるじゃろから、それらに騙される事はないじゃろ」
「え?」
「いや、何でもない。そうじゃ。ワシは
「見かけ倒し?」
「違うわ! 山伏で陰陽道、易学を極め召喚士としても一流と都で名をはせた御影駄法師じゃ!」
その山伏、御影駄法師が名乗った。
「うーん、おれ都にいたけどさ、そんな噂聞いたこともないよ」
「そりゃそうじゃろうの、都というてもこの国の都ではないからの」
「……ねえ、召喚できるなら何か召喚してみてよ」
「ゴホゴホ、すまんのう。今はお尻ピリピリ病にかかっておって無理じゃ」
御影駄法師はわざとらしく咳き込んだ。
「お尻ピリピリ病で何で咳が出るんだよ」
「まあいいじゃろ。そうじゃ、あんたにこれをやろう」
そう言って御影駄法師は懐から竹筒を出した。
「え、何これ?」
「これにはかつて最強と言われた妖怪が封じられておるんじゃ」
「え、本当に? じゃあ見せてよ」
たけぞうがそう言うが、御影駄法師は首を横に振り
「ダメじゃ。こいつはかの弘法大師がすべての力を使ってやっと封じたんじゃ。迂闊に開けたらどうなる事か」
「それじゃあさ、あんたその妖怪見たことないの? じゃあそれが本当かどうかわかんないじゃんか」
「まあそうじゃの」
「ならいらないよ」
そう言って突き返そうとしたが
「いや、持ってってくれんかのう。これはワシの予感でしかないが、あんたはいずれその大妖怪を制御出来る者と出会える気がするのじゃ」
「へ?」
「そしてこの世に未曾有の危機が訪れた時、その者と大妖怪がそれをなんとかしてくれる……と思うのじゃ。だからそれまであんたが持っていてくれんかの」
「まあ、騙されたと思って貰っとくよ」
「おお、では」
御影駄法師はたけぞうに竹筒を渡した。
「ではワシはこれで、縁があったらまた会おう」
そう言って二人は別々の道を歩いて行った。
「本当にこの中に最強の妖怪がいるの? そしていつかこれを誰かに渡す事になるの?」
たけぞうは竹筒を見ながら呟いた。
まあ、後に本当にそうなるのだが、それは別の物語で。
「ふう、今は皆まで言う事はない、いずれわかる事だからな。頼みましたぞ、池免武蔵殿」
御影駄法師の姿は雲水の姿に変わっていた。
「さて、何回目かもう覚えてないが、またお遍路にでも行くか」
そう言って御影駄法師、いや……は西へと歩いて行った。
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