第8話「河童の力」
「亜州多露斗様、我に力を!」
廻日路摺がそう叫ぶと、彼の周りにたくさんの黒い影が集まってきた。
「な、なんだあれ!?」
「ククク、あまり派手にやるつもりはなかったが、こうなったら大爆発を起こして世界を焦土と化してやる。そうすれば悪しき縁が大量に出て亜州多露斗様も」
「え、え? あんなのどうやって防げばいいの?」
たけぞうが美華に尋ねたが
「う、わたしでもあれは」
二人が話しているうちに黒い影がどんどん大きくなっていく。
「……よし、こうなったら」
たけぞうは懐から翡翠の人形を取り出した。
「え、それって? たけぞうさん、今のあなたじゃその力は!」
「なんでも知ってるんだね、美華さん。でも今使わなくていつ使うの?」
「でも!」
「いいから離れて」
たけぞうは人形を天高く掲げた。
「雨風と戯れ土木と語らい天地水流の力を従えし我が力よ、悪しき縁を洗い流せ!」
たけぞうの体から清き水があふれ出し、それが勢いよく黒い影を飲み込んでいく。
「な、な? ギャアアアアーー!」
そして黒い影と廻日路摺は消え去った。
「ふう」
たけぞうはバタッと倒れた。
「しっかりして、たけぞうさん!」
美華がたけぞうを抱き起こした。
「大丈夫、ちょっと疲れただけだよ」
そう言ったものの今のたけぞうには体に相当な負担がかかったようだ。
その力を自在に使えるようになるのはまだまだ先の話。
「ん? なんか暖かいな」
「回復呪文をかけてるんですよ。これで少しはマシでしょ」
「ありがと」
「いえ、こちらこそ」
そしていくらか回復したたけぞうと美華は村人達を村へと連れて帰った。
「本当にありがとうございますじゃ」
村長が二人に礼を言った。
「いえいえそんな」
「何かお礼をしなければと思いますが」
「いいですよそんなの」
「あいにく、きゅうりしかないんですよ」
「いただきます」
たけぞうは山ほどきゅうりを貰った。
「では道中お気をつけて」
村人達に見送られて二人は旅立った。
「さて、わたしはこれで」
「うん、美華さんまたね」
「ええ。また」
たけぞうは美華と別れて歩いて行った。
「……さてと」
美華は着ていた服を脱いだ。
その下には南蛮の魔女のような服を着ていた。
「あの人はいずれ。さ、目的も果たしたし帰ろ」
「待て」
「ん、誰?」
美華が振り向くと、そこにいたのは神々しい雰囲気の武将のような人物だった。
「あ、あなたはもしかして」
「ああ、私は人間達が八幡大菩薩と呼ぶものだ」
その人物、八幡大菩薩が名乗る。
「やはり。あの、わたしに何か?」
「いや、この世界の代表として礼を言いに来た。ありがとう、異世界の少女ミカ」
「わたしは主の命を果たしたまでです。お礼ならたけぞうさんに」
「たけぞうにも後で言っておく。そうだ、お主こういうものが好きなのだろ」
そう言って八幡大菩薩は美華、いやミカに書物のようなものを渡した。
「これは?」
「紫式部と呼ばれている女性が書いた書物から、お主が好きそうな部分を写したものだ」
そう言われてミカは頁をめくり、それを読んだ途端に鼻血を出した。
「ま、まさかあの光の君が少年を襲ってたなんて。でもこれ、どうせならこの部分だけじゃなく全巻読みたいです」
「そうか。それならここにあるから持っていくか? これは今の世に伝わっていない物、あの世で彼女が書いたものも含めた完全版だぞ」
八幡大菩薩は何十冊もの本を入れた葛籠を出した。
「は、はい! ありがとうございます!」
ミカはその書物「源氏物語」を貰い、ホクホク顔で元の世界へと帰っていった。
「さて、たけぞうにはこの先も厄介な事を背負わせてしまうからな。せめて寝る所や食べ物に困らぬよう、土地の神々に配慮するよう言っておくか」
八幡大菩薩はそう言って姿を消した。
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