第7話「二刀流」

 そこにいたのは、長い髪を後ろで束ね、桃色の道着に紺色の袴の少女だった。

「あ、今のあんたがやったの?」

「そうですよ。お怪我はありませんでしたか?」

 少女がたけぞうに近づいて尋ねる。 

「大丈夫だよ、ありがとう。あ、おれは池免武蔵っていうんだけどあんたは?」

「わたしは美華みかといいます」

 少女、美華が名乗った。

「美華さんね。あの、今どうやってあいつを?」

「ちょっと気の力で」

「へ、気って?」

「まあ、それは後にして。あの妖魔がこの村の人達を隠した場所ですけど」

「どこか知ってるの?」

「ええ。時空の狭間です」

「何それ?」

 たけぞうはよくわからんと首を傾げた。

「えーと、とにかく妖魔の住処と思ってください。そこに多くの人を集めてあいつらの主、亜州多露斗あすたろとを蘇らせようとしているそうです」

「え? それってたしか、おれの友達がやっつけた悪の親分の名前だったような?」

「そうですよ。石見彦右衛門さんが奥様の香菜さん、そして八幡大菩薩と呼ばれている方と倒した相手です」

「あれ? 美華さんは彦右衛門さんの事知ってるの?」

 たけぞうが首を傾げながら尋ねる。

「ええ。一度会った事がありますよ」

「そうだったんだ」

「っと、まだ皆さん無事のようです。今は逢魔時ですのでそこへの道は開けています。たけぞうさん、わたしと一緒にそこへ行きますか?」

「行きたいけどあいつらにおれの攻撃は効かないし」

「あっちでなら攻撃は効きますよ」


「そうなの? なら行くよ」

「じゃあわたしの手を握って」

「うん」

 たけぞうは美華の手を握ると、二人の姿が消えた。


 村長や老人達は展開についていけず固まったままだった。




 そこは薄暗い場所だった。

「ここが時空の狭間ってとこ?」

「ええ、そうです。村人達はあそこに」

 美華が指差したところを見ると、そこには黒い城があった。


「今は見張りもいないようなので中に入るのは簡単ですよ」

「うん、じゃあ行こう」


 美華の言うとおり見張りはいなかった。

 中に入った二人は村人達を探した。


 しばらくして大きな扉の前まで来ると

「ここからたくさんの闇の気を感じます。弱っているようですが村人達の気も」

「村人さん達は」

「大丈夫ですよ。さ、開けますよ」


 


 扉を開けるとそこには全身真っ黒の戦闘員のような奴がうじゃうじゃいた。

「うわ、結構いるな」

「あいつらはあまり強くありませんが、頭が」

 中央には黒い法衣を纏った男がいた。

「あいつは廻日路摺ねびろすといって、降霊術や魔術の達人でもあります。そして奴は亜州多露斗を蘇らせてこの世界を支配し、やがて別次元へと攻め込むつもりです」

「なんかよくわかんないけど、とにかくやっつければいいんだよね」

「ええ。では行きますか」

 二人は戦闘員達に向かって駆けていった。


「ん、誰だ!?」

「うりゃああ!」

 たけぞうがそばに駆け寄って来た戦闘員を斬る。

「よし、斬れた!」


「やりますね。ではわたしも」


 美華が呪文を唱えると、稲妻が落ちてきた。

「ぎゃあーー!」

 戦闘員は黒焦げになった。


「す、凄いね。おれいらないんじゃ?」

 たけぞうはやや後退りながらそう言ったが

「いえ、わたしは村人達を助けないといけません。ですので後の雑魚はたけぞうさんが引きつけておいてくれませんか?」

「うん、わかったよ。うりゃああ!」

 

 たけぞうは戦闘員達に突撃していき、次々とそれらを斬っていくが

「うー、やっぱ多すぎるよ……そうだ!」

 たけぞうはそばに落ちていた剣を拾った。

「これでどうだ」

 二刀流の構えをとった。

「そりゃあ!」

 たけぞうは四方から攻めてくる敵を二本の剣で次から次へと斬っていった。


「やはり凄いわね、あの元河童さん。あんなあっさりと二刀流を使えるようになるなんて……あの方が言われたとおり、あの人は」

 美華は遠くで眺めながら呟いた。

「さ、村人達を……きゃあああ!?」

 美華目掛けて何処からともなく火炎が飛んできたが、彼女は素早くそれをかわした。


「小娘。どこの次元から来たか知らんが邪魔せんでもらおうか」

 声が聞こえてきた方を見ると、そこに敵の大将、廻日路摺がいた。


「あなた達にこっちに来られたら面倒なのよ。おとなしく消滅して」


「亜州多露斗様を復活させるまでは死ぬわけにはいかんな、はあっ!」

 

 廻日路摺は再び炎を放った。

「はあっ!」


 美華は呪文を唱え、吹雪を出した。

 そして炎と吹雪がぶつかり合い、大きな音を立てて消滅した。


「ほう、ならば」

 

 廻日路摺は姿を消した。

「え、どこ?」

「ここだ」

 声がした方を見ると、廻日路摺は村の幼い少年を盾にしていた。

「さあ、こいつの命が惜しければおとなしくするんだな」

「卑怯よ!」

「どうとでも言え。はあっ!」

 廻日路摺は掌から凄まじい衝撃波を放つ。

「きゃああ!」

 美華はそれをかわしきれず、倒れた。

「さて、とどめを」

 すると美華が顔を上げ、

「……ねえ、死ぬ前にせめてその子のすっぽんぽんを見せて。はあはあ」

 打ちどころが悪かったのか妙なことを言い出した。

 鼻血を出しながら。


「は? ま、まあいいだろう。お前服を」


「てりゃあーー!」

「ぐああああ!」

 廻日路摺はいきなり背中を斬られた。

 その隙に少年は逃げ出した。


「大丈夫? 美華さん」

 斬ったのはたけぞうだった。

「ええ。たけぞうさんが来ると思って気が狂ったフリして時間稼ぎをしてたの(チッ、もう少し後にしてくれたらよかったのに)」

 美華は心の中で舌打ちした。


「お、おのれ、かくなる上は」

 廻日路摺は何やら怪しい呪文を唱えると


 ゴゴゴゴゴ……


 地響きが聞こえてきた。

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