第6話「神隠し」

 たけぞうはその後も修行を積みながら旅を続けていた。


 そんなある日、彼はとある村へ立ち寄った。

「あれ? この村なんかやけに人が少ないな?」

 村の中を歩いてみても、あまり人を見かけなかった。

「うーん、どういう事だろ? あ、すみませーん」

 たけぞうは畑仕事をしていた老人に声をかけた。

「何か?」


「いや、この村ってあまり人がいないようだけど?」

「ああそれは、いや」

 老人は言い淀んだ。

「ん、何かあったの?」

「他所の方には関わりない事ですじゃ」

「そう? 何か困っているなら力になりたいんだけど」

「おそらく無理ですじゃ。お役人に訴えてもどうしようもないと言われたもんでな。お気持ちだけで」

「ねえおじいさん、何かわからないとできるかどうかもわからないよ。よかったら」


「……わかりました。ここじゃなんだから儂の家で話しましょう」



 たけぞうは老人の家に案内された。

「さ、どうぞ。こんなものしかありませんがな」

 老人は白湯を出した。

「ありがとう。それでこの村に何があったの?」

「それはのう、少し前から村人達が何人も神隠しにあっているのですじゃ」

「神隠し?」

「そうですじゃ。少しずつ人が消えるのですじゃ。儂の女房や娘などは目の前でいきなり消えたんですじゃ」

「ええ!?」


「だからもうこの村にはほとんど人がおらんのですじゃ。さっきも言ったがお役人に訴えても……」


 それを聞いてたけぞうは考え込んだ。

「儂ももうじき消えるのかもしれん、お侍様もそうならないうちにここから去った方がええですぞい」


「ねえおじいさん。村人さんが消える時って昼も夜も関係なく消える?」

「ん? いや、そういえば皆夕方頃に消えてるような?」

「それと毎日誰かが消えてるの?」

「いや、一度誰かが消えると数日は。前に村人が消えたのが数日前ですからそろそろ誰かが」

「んー、なるほど」

「あの、もしや何かわかったんですかの?」

「ううん、はっきりとはわかんない。でももしかしたら。ねえおじいさん、残ってる人ってあと何人いるの?」

「もう村長や儂を含んだ年寄りが十人ほどですじゃ」

「じゃあさ、残った人を一箇所に集めて欲しいんだ。そうすればおれが守れるし」


「わかりました。なら村長から村人達にどこかに集まるように言ってもらえるよう話をしましょう」

「うん、お願いします」


 そして老人とたけぞうは村長に話をしに行った。

 二人の話を聞いた村長は残った者達に自分の家に来るようにと言って回った。



 夕方になり、村長の家には村人達が集まっていた。

「これで全員?」

「そうですじゃ。若いもんは真っ先に消えました」

 老人が言ったとおり、そこにいたのは年寄りばかりだった。

「お侍様。あの、本当に守っていただけるんで?」

 村長が声をかけてきた。

「絶対に、とは言えないけどさ。うまくいけば消えた人達も戻せるかも」

「そうですか。……そろそろ日が暮れますね」

「うん、夕方って聞いて思ったんだ。皆が消えたのって日が暮れて夜になる時、逢魔時じゃないかと」

「逢魔時ってたしか魑魅魍魎と出会うという、あの? では村の者達は」

「シッ、静かに」

 たけぞうは何かの気配を感じた。


 


「そこだっ!」

 たけぞうは持っていたきゅうりを何もない所に投げつけた。

 

 ハシッ!

 きゅうりが何かに当たった音がした。


 そして

「ほう、よくわかったな」

 そこにきゅうりを受け止めた黒い影が現れた。

「お前か、村の人を隠したのは!?」

 たけぞうはその影に向かって言った。

「フフフ、そうだ」

「何が目的だ!?」

「我々の主が蘇る為には多くの人間が必要だからな、その為だ」

「主って誰だ!?」

「それは言えんな」

「村人はどこにいるんだよ!?」

「それも言うと思ってるのか?」

「ぐっ……」

「さて、お前は始末して、残った者を連れて行くか」

「させるかよ」

 たけぞうは剣を抜いた。

「そんなもので俺は斬れんぞ」

「てりゃああ!」

 ブン!

 黒い影の言うとおり剣では斬れずその体をすり抜けた。

「え、なんで? きゅうりは当たったのに?」

「俺には実体はない。きゅうりは美味そうだったから受け止めただけだ。ポリポリ」

 黒い影はきゅうりを食べながら言った。

「くそ~こんなのどうやって」

「ふう美味かった、では……ギャアー!?」

 黒い影は突然消滅した。


「え?」

 たけぞうは何が起きたかわからなかった。


「大丈夫ですか?」

 後ろから声がした。

 たけぞうが振り返ると、そこにいたのは……

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