第2話「人間になれた」

 ここは安芸の国のとある川の上流。

 そこには武蔵むさしという名の河童と鮫蔵さめぞうという名の鮫の化け物がいた。

 二人は川を守る守り人のようなものだった。


 ある日の事

「おれ、人間になろうかな」

「武蔵さん、いきなり何を言うんですか」

 鮫蔵が驚いて聞いた。

「いやさ、彦右衛門さんを見てたらおれもあんなふうになりたいなと」

「そうですか。でもどうやって人間になるんですか?」

「うーん、どうやればいいんだろ?」

「わからないで言ってたんですか」

「まあ、そのうちわかるかも」




 それから何日か過ぎたある日の事。

「鮫蔵、おれ旅に出るよ」

「え、どこへ?」

「播磨へ」

「播磨? なんでまた?」

「昨夜夢の中にとっても綺麗な女神様が出てきてね『播磨へ行けば願いは叶う』って言ってたんだよ」

「夢ですか、そんなのアテになりますかね?」

「まあ、外れててもいいや、ちょっと行ってくるよ。川の事お願い」

「ええ。お気をつけて」


 こうして武蔵は播磨の国へと旅立っていった。




 播磨の国に着いた武蔵は

「さてどうしよ? そういや女神様は港町へ行けとも言ってたような?」

 

 港町に着いた武蔵は町の中を歩いていた。

 ちなみに武蔵は頭に傘を被って口元を隠して服を着ている。

 さすがに河童がそのままウロウロしてたら騒ぎになるだろうから。

「うーん、どこ行けばいいんだろ?」


 武蔵は町の中をひと通り歩いた後に神社までやって来た。

「もしかしてここの神様かなあ?」

 パン パン

 武蔵は手を合わせて祈った。

「どうかお願いします。おれを」

「人間にしてほしいんじゃろ?」

 後ろから声がした。

「え?」

 武蔵が振り返るとそこにいたのは陰陽師みたいな服を着た爺さんだった。

「あんたは?」

「儂か? まあ法師とでも呼んでくれ」

「じゃあ法師さん、あんたがおれを人間にしてくれるの?」

「そうじゃ。まあついて来い」

「うん、わかった」


 武蔵は法師に連れられて海岸沿いにある洞窟まで来た。

「さてと、では早速始めるとするか」

 法師は懐から河童の形をした翡翠の人形を取り出した。

「それ何?」

「これはの、河童としての能力を封印する器じゃ」

「封印?」

「そうせんと人間になった時に体に負担が掛かり過ぎるからのう」

「そうなんだ」

「さあ、これを握るんじゃ。力の封印と同時に人間にするからの」

「うん」

 武蔵は人形を握りしめた。

「ではいくぞ、ドーマンセーマンドーマンセーマン」

 法師は両手を組んで呪文(?)を唱え始めた。


 しばらくして、

「はあっ!」

 法師の両手から光が放たれ、その光が武蔵の体を包んだ。

 

「おお、上手くいったようじゃ」

「え? おれ人間になったの?」

「そうじゃ、さあ自分の姿を見てみろ」

 そう言って法師は法力?で大きな鏡を出した。


「あ、本当だ!」

 鏡に写っていたのは、

 髪の色は元の長髪金色で、頭に皿がなく顔つきも嘴がないのを除けば元のままだが、肌の色や体つきは二十代の人間のものになっていた。


「やったー! ありがとう法師さん!」


「礼には及ばんよ、儂は使命を果たしたまでじゃ」

「使命って?」

「儂はのう、遠い昔にお前さんが夢に見た女神様の命を受けたんじゃ。その使命とはいずれこの世に何かをもたらすもの、お前さんの事じゃな。その者の手助けをする事じゃ」

「おれが?」

「そうじゃ。儂も遠い昔は自分の力でこの世を正したい、そう思っていたんじゃがのう。力及ばず権力争いに巻き込まれ、心ならずも友と戦う羽目になってしもうたわ」

「そうだったんだ」

「そうじゃ。儂が思うにお前さんならいつか人や妖怪变化や他の異形の者達を仲良くさせてくれるじゃろう」

「うーん、おれそんな事できるかなあ?」

 武蔵は首を傾げる。

「まあ、無理にそうせいとは言わんよ。さあ、人間としての新たな人生を楽しんでくるがいい」

「うん!」

「ああ、そうじゃ。その人形に力を封印してあるがの、それはここぞと言う時以外解いてはいかんぞ。さっきも言ったが体に負担が掛かり過ぎるからの」

「わかったよ! いろいろありがとう!」

 武蔵は洞窟から出て行った。



「さてと、もういいですかね?」

 

 ええ、お疲れ様でした。


「彼がどういう人生を歩むのか、天から見させてもらいますわい」

 法師の体が透けていく。


 この儂、蘆屋道満あしやどうまんはこの世の為に何かできたかな。

 なあ、我が友よ。

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