0-03 異世界転生
「じゃーん!どうですか、これっ!」
ルートレイアがやたら高いテンションで見せてきたのは、1人の女性の姿だった。どことなく死ぬ前の私に似ている気もするが、キラキラ感が5割増し位になっている。あと、どことなくルートレイアにも似ている気がするな。
「これは、なんだ?」
私が訝しげな視線を向けると、「ふふん♪」とでも言いそうな顔で女性の頭の上に浮かぶ名前を指差す。そこには「ルートディーネ」と書いてある。「それがどうした?」という私の視線に気付いたのか、「あれ?」という顔になるルートレイア。いや、これで
「もう、察しが悪いですねぇ。紗雪さんの新しい身体に決まっているじゃないですか。そのくらい判ってくださいよ。」
「いや、判るわけ無いだろうよ。と言うか、新しい身体とはなんだ、新しい身体とは。そんな愛と勇気だけが友達なヒーローの顔みたいに言うような物じゃないだろう、身体は。」
そんなやり取りをしながら詳しい説明を要求する。どうやらルートレイアは私が神として活動するための身体を用意したようだ。なるほど、人の身である私では神として活動するには不足というのは理解できる。それならば神として活動するための身体が必要だろう。いや、世界構築が面白すぎてうっかり飛びついたが、そう言えば神をやる事になるのだな。
「でも、いつまでも霊体のままじゃあ、紗雪さんも困るでしょう?」
神の仕事について考え込んでいた私は、うっかりとルートレイアの話をスルーするところだった。ちょっと待て。
「霊体……だと?」
よくよく見てみれば、私の身体はしっかりと透けていた。そう言えば、私は元の世界で過労死したのだ。死体が忽然と消えるなんてことになれば大騒ぎなのだから、呼び出すとすれば霊魂だけだろう。つまり、私は今ここで身体を得なければこのまま消えるというわけだ。
「選択肢はないようだな。」
キラキラ5割増しなのが気になるが、贅沢を言っている余裕は無さそうだ。私は仕方なくルートレイアが用意した身体に入る。不思議な感覚だが、魂が身体に馴染むのを感覚的に理解する。こういうのも異世界転生に入るのだろうか。とりあえず手足を動かして体の様子を見る。問題ない。
「それで、このルートディーネというのは何だ?」
先程まで頭の上に文字が浮かんでいた辺りを指さしながらそう問いかける。文字はいつの間にか消えてしまっているが、意図は伝わるだろう。
「紗雪さんの新しいお名前ですよ。私とおそろいですね。ディーネと呼んでいいですか?私もレイアで良いですから。」
キラキラとした眼で私を見てくるルートレイア。もしかしたらルート、というのは最高神に付く称号か何かなのだろうか。……どうにも、レイアと呼ばせたくて名前を揃えたのではないかという疑惑も拭えないが。
それよりも問題はこの身体に与えられている権限の方だ。前に見せてもらったルートレイアの権限と全く同じだ。つまり、私はここで最高神と同等の力を持っているという事になる。いくらなんでもやりすぎだろう。
「えー?ほら、多重化ですよ、多重化。私が倒れた時の代わりが居ないと困るじゃないですか。」
そう言われてしまうと納得せざるを得ない。1人が倒れたら回らなくなる組織は問題外だ。そう言う意味で、ルートレイアと同じ能力を持った者が他にも居るべきというのは理解できる。問題は、何故私かと言うことだが。
「世界について一番詳しいのは紗雪さん……ディーネじゃないですか。」
それから、レイア(ルートレイアと呼んだらレイアと呼ぶまで訂正された)は私に権限を与える正当な理由を並べ立てていった。なんだか丸め込まれたような気もするが、設計したのは私だからその責任を取れ、と言われてしまえば納得せざるを得ない。
「あ、属性は闇と影、どっちが良いですか?」
権限について納得した私にレイアが見せてくれたのは、私に付与する属性のカタログだった。神色と神数は黒と0に決まっているが、属性は闇と影のどちらでも良いらしい。闇、よりは影の方が好みだ。そう伝えると、レイアが私のステータスに属性を書き込む。属性に合わせていくつかの固有能力が使えるようになるらしく、ステータスに影を操るスキルが追加される。
ちなみに神色は神を表す色で、神数は神が司る数字らしい。だが、いまいち何に使うのかがよくわからない。神数はIDナンバーみたいなものだろうという推測はできるが、神色については本当に想像がつかない。私の色は黒らしいが、別に服が黒になっていたりはしないのだ。
「ああ、神色は纏っているオーラの色とかに関係があるんですよ。」
にこにことした顔でレイアが説明してくれる。……ん?それは私のオーラは真っ黒ってことか?邪神じゃあるまいし……。私がげんなりした顔でそう言うと、レイアは不思議そうな顔になって、ぽん、と手を鳴らす。
「大丈夫ですよ、この世界に邪神なんて概念ありませんから。」
いや、そういう問題では……。いや、まあ良い。そもそも、私が人前に姿を現すわけではないのだ。私やレイアはもちろん、6女神や眷属神達でさえ、めったに人前に姿を現すことはない。人々の祈りに応えるのは使徒達の役割だ。私を含む女神たちは使徒達から上がってきた報告を元に作業を指示するだけなのだから。
「そうだ、ディーネ!せっかくですから世界を見て回ってはどうですか?」
そんな事を考えていたらレイアがいきなりとんでもない事を言い始めた。せっかくだからレイアムラートに住む人間に転生して世界を見て回ってはどうかと言うのだ。いや、神の力を持って世界を歩き回ったら災厄だろう?レイアにそう言ったら、「力を制限すれば良いではないですか。」なんて言い出す。一般ユーザと特権ユーザの両方を保有して、普段は一般ユーザを使用するようなものか。たしかにそれなら問題はないだろう。
厳密には、死産するはずだったレイアムラートの住人の身体に宿るらしい。特権昇格は可能なので、必要な時にはいつでも神の姿に戻ることが出来る。つまり、チートを貰って転生、というわけだ。やっと異世界転生物らしくなってきた。思ったよりもわくわくしている自分に気付き、苦笑する。
だが、元々私は世界運営を手伝うために呼ばれたはずだ。仕事は良いのか、と訊いたら、再構築が終了して今は落ち着いているということだった。「それに、少しくらい休暇は必要でしょう?」と言われれば納得せざるを得ない。死ぬ前は地獄の30連勤だったのだ。確かに少しくらい休んでもいいだろう。そう思っていたところに、レイアが爆弾を落とす。
「じゃあ、ウェルギリア王国の王女さまに転生ってことで。」
「王女?いや、それはいくらなんでも設定盛り過ぎではないか?」
もっと無難な選択肢はないのか、と訊いたが、相性が良くて死産予定の娘は他にないらしい。まあ、他に無いのであれば仕方がないか。私が了承すると、ソールアインとミストサインに命じて転生先の身体を整える。どうやら、レイアにとって休暇というのは年単位を指していたようで、暫く私は幼子として世界の中で過ごすことになった。こうして、私はやっと異世界転生を果たすことが出来たのだった。
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■用語集
○IDナンバー
ここではアカウントを識別するための一意の数値を指している。
○一般ユーザ
ここでは特別な権限を与えられていないユーザのことを指している。
○特権ユーザ
ここでは一般ユーザには禁止されている様な操作も行うことが出来るユーザを指している。一部の操作だけが許可されている場合と、あらゆる操作が許可されている場合がある。
○特権昇格
ここでは一般ユーザから特権ユーザに昇格することを指している。
■各女神の属性、神色、神数の一覧
○最高神ルートディーネ
属性:影
神色:黒
神数:0
○最高神ルートレイア
属性:光
神色:白
神数:7
○闘神アスカノーラ
属性:火
神色:赤
神数:1
○癒神リーベレーネ
属性:聖
神色:緑
神数:2
○命神ソールアイン
属性:地
神色:黄
神数:3
○賢神マーレユーノ
属性:水
神色:青
神数:4
○名神ミストサイン
属性:魔
神色:紫
神数:5
○飛神エールナハト
属性:風
神色:空
神数:6
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