悪魔召喚士を待つ五人
「はあ――はあ――はあ――」
白息が月明かりに浮かび上がる山道。俺は、いつもの倍近くの体重に苦しみながらも、新雪を散らして一歩一歩踏みしめるのだ。
「和泉様、大丈夫ですか? 代わりましょうか?」
冴月晶がそう言ってくれたが、俺は小さく首を振って「大丈夫。いけます。冴月さんは、治療に専念を」と、再び太ももに力を込めた。
前を向けば――俺がこれから歩むべき道筋が一目瞭然。まさしく道しるべとして、青光を放つ光の剣がずっと先の雪の地面にまで点々と突き刺さっているではないか。
冴月晶の照明魔法が足元を照らし出した冬の雪山。
白樺や紅葉といった枯れ木の群れが俺たちを見下ろし、あとは本当に汚れのない新雪ばかりだ。生き物の気配がない。俺たち以外の音がない。
本来であれば、雪山登山用のフル装備で臨むような冬の山道である。そもそも俺が履いてきたなんちゃってスノーブーツであれば、積み重なった雪に沈み込んで、歩くことすらままならなかっただろう。
「――ひい――はひぃ――」
慣れない雪に苦戦しながらでもどうにかこうにか歩き進めているのは、冴月晶が『剣の魔法』で即席のスノーシューをつくってくれたからだ。
あらゆる形状の刃物を自由自在に創造できるソロモン騎士の少女。幅の広い剣をベースに、滑り止め用の爪が無数に伸びた雪上歩行具を生み出すことなんて朝飯前だった。
幅広の剣身が俺の重さを分散し、本当に沈まない。
どんな金属を使っているのか不思議に思うほど軽く、雪山登山素人の俺にだって扱える取り回しの良さ。
とはいえ……それでもだ。
「はあ――はあ――ふう――」
さすがに斜度十パーセントを超える坂道に息が切れた。気温はおそらく氷点下だというのに、汗が噴き出すのだ。
それで俺は、『腹の上で固い結び目をつくる細縄』を恨めしく思うのである。これさえなければ、これで『彼女とくくられていなければ』楽に歩けるだろうに、と思うのである。
特大サイズの三毛猫を懐に入れていた時の方が百倍マシだった。
その時。
「ちょっと。冴月晶のお付きの人」
いきなり耳元で発された不服の声。
咄嗟に首を背後に回すと、「――っ」冷えた鼻先にウェーブした茶髪が当たった。くすぐったくて俺は反射的に顔をしかめてしまう。
ハリウッド女優みたいな彫りの深い美女のどアップを嫌ったわけじゃない。
イスラ・カミングス。
そうだ。俺は、納屋から転がり出てきた『魔術結社“薔薇の使徒”』の女魔法使いを背負って雪の山道を登っているのである。納屋から拝借した細縄で胴体同士を縛り付けたのは、万が一にも怪我人の彼女を落としてしまわないためだ。
それなのに――
「もっと上手に歩けませんの? あたくし、怪我人ですのよ。重傷者。さっきから地味に震動が響いて――あ! 痛い痛い! やめて冴月晶! なにするんですの!? 痛いっやめて!! ……きっ――傷口に指突っ込むなんてっ、あなたっ頭おかしいんじゃありませんの!?」
左腕をまるごと失って半死半生なはずのイスラ・カミングスは、俺の背中でなにかと文句が多かった。まあ……不満を口にするその都度、冴月晶にお仕置きされているのだが。
「重傷なら重傷らしく大人しくしててください。ほら、せっかく閉じかけた傷口がまた開いたではないですか」
「……閉じかけた傷口をほじくったのはあなたですわ……」
「こんな雪山を歩いてくれる和泉様にグチグチ言うからです。ボクたちにあなたを助ける義理はないのですよ? ただ、あなたが、『まだ山に助けを待ってる人たちがいる』なんて言うから、それに付き合っているだけ」
そうため息を吐いた騎士装束姿の冴月晶は、ダンゴムシのごとく丸くなった三毛猫を左腕一本で上手く抱きかかえている。
肘から下で下半身を支えてもらい……案外居心地が良いのだろう。三毛猫は、身体を固定するために冴月晶の白マントに爪を立てつつも、完全に目を閉じて眠りこけていた。ふすーふすーと大きな寝息がひたすらに愛らしい。
そして。
「あなたが、ボクたちが行かなければ若い命が失われると言うから――」
桃色の魔方陣を手のひらに貼り付けた冴月晶の右手が、腕の千切れたイスラの左肩に治癒魔法を施していた。
俺も常日頃からお世話になっている治癒魔法。しかし、その実、かなりの高等魔法らしく……ソロモン騎士級の大魔法使いじゃないと容易くは使えないらしい。イスラ・カミングスの言葉をそのまま借りるならば――わたくしのような天才悪魔召喚士でも、魔力増強の専用魔方陣がないと百パー無理ですわ――とのこと。
「とはいえ……悪名高き“薔薇の使徒”の言葉ですから、ボクらを罠にハメようとしているのではと、疑ってはおりますが」
「はんっ! ソロモン騎士に権謀術数が通じるとは思っていませんわ! 大切なエゼルリードを失って、本当はこんな不気味な村さっさとおさらばしたいのです! ……でも、わたくしにも人の心はありますから」
つい先ほど俺の背中の上で語られた事の次第。
イスラ・カミングスは何らかの目的で黒津根村の裏山に入り、そこで化け物に襲われたそうだ。仲間二人を失い、左腕を噛み千切られ、命からがら山を下りたのだが、深手が災いして動けなくなってしまう。そのため、最終手段でエゼルリードを召喚。暴れるエゼルリードを冴月晶に対処させることで、ソロモン騎士を呼び寄せようとしたらしい。
馬鹿馬鹿しい。ボクがあなたに気付かなければ全部無意味じゃないですか――そう呆れ果てた冴月晶に。
馬鹿なのはエゼルリードの完全消滅を果たしてくれたあなたですわ。不死身の悪魔を倒しきれなくて、召喚者であるわたくしを血眼になって探してくれる。それが、わたくしが想定していたストーリーですもの――イスラ・カミングスはそう反論した。
とはいえ――剣のソロモン騎士とエゼルリードは相性最悪だと思っていましたのに、あんな大魔法を隠し持っていたなんて。最悪ですわ。卑怯ですわ――と、最初から最後まで納屋に隠れ続け、俺と冴月晶の共闘は一切見ていなかったようだが。
「ほら、お付きの人。足が鈍ってますわよ。もっとシャキシャキ歩いてくださいまし」
「……首を落とされたいのですか……? イスラ・カミングス」
「はあ。はあ。はあ――きっつ――」
俺たち三人と一匹は、“雷巨神の鉄槌”による大破壊をなんとか免れた神社本殿の横を抜けて、黒津根村の裏山に入った。小一時間前のことだ。
イスラ・カミングスの案内に従い、『化け物の巣くう山で助けを待つ要救助者たち』を迎えに行こうというのである。
三人と一匹だけで行動しているのは、イスラ・カミングスに――この村の住人に知られてはいけませんわ。絶対、知らせないで――そう頼み込まれたからだ。
……俺も……読神沙也佳の屋敷で奇妙な子供を見ている……。
だからだろうか。イスラ・カミングスの言葉に妙に納得してしまい、読神沙也佳にすら何も伝えていないのである。
「――はい。これで完全に血は止まりましたよ」
「おしまい? 左腕は戻りませんの?」
「無茶言わないでください、トカゲじゃないんですから。失血死しなかっただけでも良しとしてもらわないと。あとは義手でも、悪魔の腕でも、お好きに付ければいいでしょう」
「……はーあ……左腕を失って、エゼルリードもいなくなって……最悪。とんだ一日ですわ。いくら世界平和のためとはいえ、さすがにこたえますわね……」
その時ふと、あれほど前に進ませるのがおっくうだった足取りが、はっきり軽くなった。治療を終えて片手の空いた冴月晶が、イスラ・カミングスの背中を押してくれているのだ。
凄まじい体力を誇るソロモン騎士によるアシスト。
牛か馬かが押してくれているのかと思った。俺が自ら足を動かさなくても、勝手に前に進んでいく感じ……。それなのに、冴月晶の声に力を込めている感じはないのである。
「教えてくださいイスラ・カミングス。あなたがこの村に来た目的、そのすべてを」
「嫌だと言ったら?」
「治療の対価を求めましょうか。そうですね……少なくとも、“薔薇の使徒”が保管している特級の呪具を三つ四つ。あなたの命にはそれだけの価値があるでしょう?」
「……やれやれ。ほんと甘くないですわね、人類の守護者様は。そんな法外な要求をされては、答えるしかないではないですか」
「よく言います。最初から言うつもりだったくせに」
「まあ、事情を伝えて助力を求める気ではありましたわね。わたくしたちは失敗した。いいえ、そもそも、投入戦力そのものを見誤ったのでしょうが。“薔薇の使徒”の全戦力、全財宝を投入して事に当たるべきだった。果たして、それでも対処できたかどうか――」
と、その会話の最後の方でイスラ・カミングスが何かを口にくわえたようだ。
なに食べてんだろう? そう思って何気なく首を回した俺の目に飛び込んできたのは、なかなかに衝撃的な光景である。
パウチ容器入りのゼリー飲料みたく、片手で握り潰されながらがぶ飲みされる輸血用の血液パック。
ギョッとした。
なんでそんなものを持っているのかと思ったのだ。
医療機関のマークとバーコード付きの黄色いラベル、そしてなによりも透明パックの奥に見える生々しい赤色が、イスラ・カミングスのくわえる血液パックが偽物でないことを証明していた。
冴月晶が「……おいしいです?」と小さく呟いて眉をひそめた。
「血が足りないのですわよ。背に腹はかえられませんわ。生きるためですもの」
「なるほど。てっきり、普段から常飲しているのかと」
「はっ。どこぞの吸血鬼じゃあるまいし、赤ワインの代わりに血をたしなむ趣味はございませんわ。これはね、特別がんばった悪魔へのご褒美。毎度毎度わたくしの血を舐めさせてやってたら、貧血で倒れてしまいますからね」
飲み干した血液パックを雪の上に投げ捨てて、すぐさまもう一パック。
俺は、ああいうのって医療廃棄物扱いで焼却処理しないといけないんじゃ……なんてことを思いながらも口にすることはなかった。
やがてイスラ・カミングスは、「まったく……少しは体温が戻ってきた気がしますわ」ホッとしたようにそう言って深いため息を一つ。
「ひと月前のことです……うちの神像様が数百年ぶりに叫んだのですわ。それが始まり」
冴月晶の要求に従って、黒津根村を訪問した理由を語り始めた。
しかしすぐさま冴月晶が口を挟む。
「まさか冥府神像? あの有名な、ですか?」
「ですわ。お付きの人にもわかるように説明するなら――遙か昔、とある高位神官が『夜の闇に潜む何か』から手渡された土くれ、それが“薔薇の使徒”本部に保管されていますの。これは死者の復活に反応するものでして……まあ、わかりますでしょう? 低俗なゾンビなどではない。死者が生前の姿そのまま、意識そのままで蘇ることの異常事態が」
俺は五秒ほど考えて、「ええと……生死の概念が、なくなる……とか?」と思い付きを言葉にした。そしてそれは正解だったらしい。
「そう。灰は灰に。塵は塵に。人間誰しもが自然の摂理に従っていればいいんですのよ。二人目の救い主は不要ですわ」
「ボクたちソロモン騎士団も死者復活は絶対的な禁忌としています。滅多に起こることではないのですが……本当、ごくまれに果たされそうになることがありまして……」
「大抵、一人生き返るのにその何億倍の生者が犠牲となりますの。死を嫌った王様のせいで周辺諸国まとめて異界送りになったなんて話もありますわ」
「妄執王ハルムーク」
「そう。たった一人の男のわがままを収めるため、その時代すべての魔法使いの動員を要したのですわ。まったく割に合わない、はた迷惑な話。それに、無事に生き返った人間が一人でもいると、誰も彼もが真似したがりますでしょう? そうは言っても、百人生き返れば、世界はジ・エンド。復活者百人以外、あとには何も残らない」
俺は笑うしかなかった。いきなりそんな壮大なことを言われても、どうにもピンとこない。苦笑しながら「よっ――と」イスラ・カミングスを背負い直した。
イスラ・カミングスは右腕を俺の首に巻き付け、俺の耳裏に口を寄せつつ話を続ける。
「事態を重く見た“薔薇の使徒”はその日のうちに使者五千人を各国に派遣。冥府に関する伝説・伝承が残る土地をしらみつぶしに当たり始めたのです」
すると、冴月晶が「死者の復活には、過去、一時的にでも冥府と繋がった土地の力が不可欠ですから」なんて補足を入れてくれた。
「正直大変でしたのよ。民間伝承まで含めれば、冥府関連の話なんてその辺にごろごろ転がっていますから。まっ、わたくしは、椅子の上で報告を聞いていただけですけど」
それにしても――山に入ってからだいぶ歩いたはずだ。
いったい自分が山のどの辺りにいるのか、東西南北のどこに向かっているのかも、もうわからない。だから俺は、不安を押し殺すように努めて明るい声で問うた。
「なるほど。でも、どうして黒津根村だったのでしょう? 何か、儀式の跡が見つかったとか?」
しかし返答はすぐにはない。
十五秒間もの沈黙の後、イスラ・カミングスは静かに「帰ってこなかったのですよ、誰も。誰もね」とだけ。
俺は生唾を呑んで、ほんの少しだけ足取りを緩めてしまう。すぐさま我に返って太ももに力を込めた。
「…………な、なるほど……」
「それがつい先週のこと。それで“薔薇の使徒”最強のわたくしの派遣が決まって――こんなドへんぴに来た理由は以上ですわ。多少省いた部分はありますけど、嘘偽りは一つもありません。これでご満足? 冴月晶?」
「はい。それでは次、あなたがこの村で手に入れた呪具を出してください」
「はあ? いったい何を――」
「本当に世界を憂うならば、ソロモン騎士団に情報を渡せばいい。戦力はあなた方の千倍以上です。それでも“薔薇の使徒”独自で動いたのは、復活の儀式に使われたであろう呪具が目的ですよね? そして、盗み逃したものがあるから、ボクらを誘ってまた山に入っている。違いますか? ボクの思い違いでしょうか?」
「……………………」
「呪具狂いの“薔薇の使徒”。魔力さえ宿っているならば、死者の歯すらも奪い取る」
「……………………」
痛い沈黙。重たい空気。
………………………………………………………………。
………………………………………………………………。
俺と冴月晶が新雪を踏みしめるザクザクという音だけが響いていた。
やがて、イスラ・カミングスは観念したように「……助けなければ人たちがいるのは、本当ですわよ」とチェスターコートのポケットに右手を突っ込むのである。
「それにね、わたくしたちが呪具に熱心なのは、次世代に遺し伝えるためですわ。どれだけ才覚ある魔法使いもいつか命尽きる。それでも、遠い未来に困難が訪れた時、彼らの遺した道具たちこそが寄る辺となりますでしょう?」
そして、手の平に収まる小さな木箱を後ろに放り投げた。
冴月晶はそれを片手でキャッチ。すぐさま「ぅん?」と、疑念に喉を鳴らした。
「それ、呪具でもなんでもないですわよ。ただのへその緒ですわ」
「へその緒?」
「日本人ってどうしてそんなものを大事にしてますの? 必死の思いで手に入れてみたら、干からびた肉片なんて。悔しくて帰るに帰れませんわよ」
俺はイスラ・カミングスが盗ってきたものをまともに見ていない。
へその緒を巡る冴月晶とイスラ・カミングスのやり取りの最中、ほとんどずっと前を向いていたからだ。いきなり冬の森が途切れて――現れた満天の星空に気を取られたからだ。
明るい。
冴月晶の照明魔法がいらないほどに明るい。
一面の雪原が月明かりと星明かりを反射して、ぼんやり青く光っていた。
なだらかな斜面である。
俺たちが森を抜けて足を踏み入れたのは、本来、山腹にぽっかりできた草原のような場所で……樹木の代わりとばかりに、高さ三メートル、周長十五メートル級の巨石があちらこちらに幾つも埋まっているのだった。
もしかしたらさっき――“カレイドドール・凜然たる姫騎士レオンティーヌ”に抱きかかえられて空を飛んだ時――この広い雪原を見たかもしれない。どうしてあの山、あそこの一面だけ真っ白なのだろう? とか思ったかもしれない。
ふと山の麓に視線を向ければ……だいぶ向こうの方、宵闇の彼方に屋根瓦のシルエットがうっすら見えた。
黒津根村との高低差は二百メートル近くあるだろう。
俺と冴月晶はこんなところまで登ってきたのだ。
ふと。
「…………どうやら……いない、ようですわね……」
巨石の点在する雪原全体を油断なく見渡したイスラ・カミングスが、ぼそりと言った。
「ラッキーですわ。『あの化け物』がまだいるようでしたら、冴月晶をぶつけてその隙に、と思ってましたけど。分の悪い戦闘は避けるに越したことありませんものね」
「分が悪い? あなたいったい、どんな怪物を見たのですか?」
「それはそれは恐ろしい化け物ですわ。わたくしがつたない言葉で説明するより、一目見ればわかりますわよ。それはそうと、あの岩――あの岩ですわ。早く」
それで俺と冴月晶は、イスラ・カミングスが指差した巨石の元へと。
俺たちから見て一番手前にあった巨石の一つ向こう。雪を踏み分けた先にあったそれは……他のものとなんら変わるところのない、雪を被った花崗岩の塊だった。
とはいえ、である。
「はあ。はあ……ただの岩、だけどなぁ……」
間近まで近寄っても、俺の目、観察力ではなんら異変は感じられない。
しかし。
「なるほど。嘘ではありませんでしたか」
冴月晶が気付いた。
俺の前に出て、いきなり巨石の足元――雪の地面に右手を突っ込むと、上の雪ごと何か黒っぽいものを力任せに引っ張り出したのだ。
それは――黒のロングコートに身を包んだ、ポンパドールヘアの大男――いや……ポンパドールヘアの大男だったもの……どれだけ乱暴に扱われても動くことのない死体だった。
「ひい」
思わず喉を鳴らしてしまった。死体が雪の上に転がった瞬間、その虚ろな両目と目が合ってしまったのだから仕方がない。
しかも、死体の腹には直径十センチに達そうかという大穴が貫通していて、地面の雪の白色が見えているではないか。
「凍らせた仲間の死体で蓋ですか。空気穴はもう少し大きい方が良かったのでは?」
「無茶言うなですわ。どれだけ緊急事態だったと思ってますの。生き残ってた悪魔に雪を掘らせるので精一杯ですわよ」
そして。
「あ」
一メートル四方。死体の下に隠されていた小さな雪壕にすし詰めになって俺を見上げるもの……。
「……お、お兄さん……っ? バスで一緒だったお兄さん、すよね……?」
「あなたたち――温泉探しの――」
それは昼間、一緒のバスで山を登ってきた若者五人の憔悴しきった顔だった。
「うなぁん?」
冴月晶の左腕に抱かれたままの三毛猫が、小首を傾げつつ喉を鳴らした。
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